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箱庭の魔法使い-Snail and the Angel-  作者: 横谷昌資
箱庭の魔法使い-Atavism of Twilight-
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第一話 嘘と罪悪感-Realistic Romantic-・2

「はい、サイン。これはプレミアがつくよ」

「ありがとうございます!」

「いやいや孫のかわいい友達だもの」

 手帳に秀隆のサインをもらい七瀬は喜ぶ。作家に会うのはこれが初めてであり、ミーハーな彼女の中で“作家”と芸能人がイコールになっていたこともありちょっとはしゃぐ。秀明はやや呆れた。

「そんなにはしゃぐこともないだろ。爺さんは芸能界と繋がりはないぜ」

「あら、わからないじゃない。ねぇ先生?」

「そうそう。七瀬さんの言う通り。人生は何が起こるかわからない」どうやら七瀬を気に入ったようだった。「それにしてもいやしかし、秀明も冴も、よくぞシャハシュピールを守ってくれて」しみじみと秀隆は言った。「さすが我が孫たちよ」

「私たちにとっても大切な居場所だもの」

「そりゃあありがたい話だ。そんなことを言ってくれるようになったのだねぇ」おいおいと泣く演技。「わたしは嬉しい。ところで秀明はどうだね。相変わらず本の虫かね」

「あなたの孫ですから。しかし相変わらずコロコロ話が飛びますね」

「しかし友達ができたようで。龍介くんや、秀明の生活を頼んだよ」

「はい、頑張りますっ」と、龍介は頷いた。

 あっという間に龍介と七瀬は秀隆に馴染んだようだった。この人の不思議な魅力によるものだな、と、秀明は生まれた時から奇妙奇天烈な秀隆を思う。

 子どもの頃から変わったお爺ちゃんだな、と、いつも思っていた。幼少期に両親を亡くした自分の世話をずっとしてくれていたのだが、その孫育ては幼子ながらまるで秀明が秀隆の面倒を見ているかのようだと思っていた。いつも月光浴にと真夜中の散歩に秀明を誘ったり、店の屋根に登って花火をしたりと子供心に危険なことばかりする人だと思っていた。そしてそんな祖父のことが秀明は大好きだった。

 去年、高校に入ったばかりのタイミングで突然ドイツに一人で暮らす言い始めた時はさすがにびっくりしたが、さもありなん、というところだった。いつも秀明を突然旅行に連れ出し、おかげで学校を休むことも度々あったのだ、この人はあまり世間の目は気にならないのだろうと秀明は思う。だが親戚としては生活力のない高校生の少年に一人暮らしをさせなおかつ店を任せるなどとんでもないと一同猛反対したのだが、しかし秀隆は騒ぐ親戚たちの目を盗んである日書き置きを残してこっそり飛行機で旅立った。事態が動いてしまった以上は仕方がないと親戚は諦め、そこで冴が自分がシャハシュピールで暮らすと言い出し、結局、度々冴の両親が定期的に店にやってくることを条件にみんな秀隆を許すことになった。

 しかし秀隆の性格を考えればこうなるのだろうなと、わかってはいたことだが、と、登場人物は全員そう思うのだった。それだけ秀隆は昔から奇想天外な男だった。

「秀明の様子はどうだね、七瀬さん?」

「もういつも悪い冗談ばかりで」

「コミュニケーションの障害かも」

「いやそこまでは思わないですけど」

「先輩はコミュニケーション上手っすよ。聞き上手だし、困った時いつもアドバイスくれるし」

「うんうん、好かれているようで安心だ」

 コミュニケーションが上手、と言えば秀隆の方が上手だと秀明は思う。だがそれが超能力によるものなのかどうかはちょっとわからない。

 祖父が超能力者ではないことはもちろん秀明はよくわかっている。だがもしも超能力が遺伝的要因によるものであるのであれば祖父にも多少の力がある可能性はある。実際、秀隆は“勘が鋭い”。それが精神感応と言ったESP(超感覚的知覚)によるものだと短絡的に考えることはできないにしろ、やはり自分のような超能力者が存在しているぐらいなのだから他にも超能力を持った人間がいて何ら不自然なことはないと秀明はいつも考える。

 そう、この世界には自分以外にも超能力者は少なくない数で存在するのだろうと、秀明はいつも思っている。

 今のところ自分が精神感応能力者(テレパス)であることを知っているのはこの世で冴ただ一人だけだ。秀隆は自分を超能力者だとは思っていない。読書家の小説家として超能力者(サイキック)というボキャブラリーを持ってはいる秀隆だが、その勘の鋭さをもってしても孫が超現実的な力を持っているとは考えていない。なぜならいくら日々虚構の世界を描いている秀隆にとってさえそれはあまりにも“超現実”だからだった。

 しかし秀隆に自分のことを話すかどうか、秀明はいつも考えている。例えば龍介や七瀬にはそんな発想は抱かないのだが、秀隆は秀明にとって特別な存在だった。それは生まれたときからずっとそうだった。だから自分の真実を告げた時どうなるか、より良い結果になるのではないかと思う。だが、悪い未来に繋がる可能性はもちろんゼロではない。いつも朗らかな笑顔を周囲に振りまく祖父が化け物を見るような目で自分のことを見る可能性は、決してゼロではない。秘密を告白した途端、秀明は“普通”ではなくなる。冴が自分を受け入れてくれたように、祖父も自分を受け入れてくれるとは限らない。それを思うと秀明はとても告げることができなかった。しかし一方で、秀隆ならわかってくれるのでないかという期待も希望もあるが、それでもどうしても動けない。

 動いてしまったら、普通ではなくなる。動いてしまった以上、動かなかった頃にはもう戻れない。秀明は、おそらく自分はずっと足踏みをし続けるのだろうなと思う。その果てでいつか秀隆は真実を知ることなく死んでいくのだろうと思う。だが、超現実的世界になど触れず穏やかな日々を送っていった方が秀隆のためだとも思う。色々なことを思う中、大好きな祖父に嘘を吐く自分に秀明は罪悪感がある。しかし忘れてはならない。自分は人の心が読めるというあまりにも超現実的な能力を持っているのだ。多少の嘘は仕方がないし、罪悪感を抱くのも全てが許容範囲だ。

 テレパシーの力を持っていることで秀明は自分が得をしているとか損をしているとかといったことを考えたことはない。ただ論理的には得をしているのだとは思う。なんといっても人の心が読めるので、先読みをして動くことができる、というのは対人コミュニケーションにおいてかなりのメリットがある。しかし生まれた時からずっと超能力者として生きてきたためそれが“得”なのかどうか単純には片付けられないと秀明は考えるのだった。わからないならわからないでわからないなりになんとかする、というのも大切なことだと思うのである。だから“わかってしまう”自分はそれだけ損をしているようにも思うのだった。超能力を持ってはいるが生まれた時から持っているのが自然なことであるため、そしていつも傍らに話を聞いてくれる冴がいるため「能力者としての苦悩」というものを抱いたことがない秀明だが、一個人としての苦悩なら普通に抱いている。コミュニケーションが上手、というのも、自分ではよくわからない。生活をする上で特別なデメリットがないのであれば、確かに得をしているとは言えるのだろうけれど、と、秀明は色々なことに対していつも複雑な思いを抱いている。

 などということを考えていたら突然秀隆が立ち上がった。

「というわけでわたしはこれで」

「えっ?」

 考えに耽っていたため秀明は虚を突かれた。それは全員ともそうだった。

「ちょっと用事があるのだよ」

「え、じゃ、今日はこのまま泊まらないの?」と、冴。「その予定だったよね」

「わたしを誰だと思っているのだね」

 そう言われるとそうだよねと冴は思う。

「楽しいひと時を過ごせまして皆に感謝する」

「でも、これから龍のお兄さんが来るんですよ」と、秀明。「せっかくですから会っていかれたら」

「運命だから仕方がない」

 それはそうだと思う。特に秀隆に関しては。

「じゃあね〜ん。またね〜ん。さらば皆の衆、また会う日までお元気で!」

 唖然としている子どもたちをよそに、秀隆は風のように去っていくのだった。

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