抗う
「ルーシェちゃん……」
「行こう。イカヅチ様の言っていた通り、ラナさんたちを助けないと。ローくん、お願いしてもいい?」
「うん。僕はここでやることがあるから。アヴニール内での移動だから時差もほとんどないよ……ごめん」
「ううん。私こそローくんに謝らないと」
躊躇いながらもローくんは私とルリをいつも通り籠で包む。
世界がモノクロになったようだ。だけど、ここで止まってはいけない。いけないのに。
「うっ……うぅ」
「ごめん、わたしが最初にアリスに気づいていれば」
「違う。ルリも悪くない。行こう」
泣いてる暇はないんだ。
ラナさんたちは何があったのか察してくれたのか、あえて触れずに
「教会の人たちが先導して国民を避難させています。わたくしたちで夜顔のボスを捕らえましょう」
と計画を伝えてくれた。
「イカヅチは1人でオロチと戦っているのか……ふむ。儂に提案がある。言っておくが罠ではないぞ。夜顔は儂の計画には邪魔だから真剣に策を立ててやる。リンドウ、ラナはアヴニールに蔓延る魔獣の殲滅。オロチのクローンは儂とモールスでやる。魔女とそこな小娘はアリスを探せ。今の最善はそれだ」
「いや、さりげなく俺をきついとこにやってないか? ……分かったよ。リンドウは何体も一気に倒せるが俺は1対1が得意だからな。行ってくる。ルーシェ、投げやりになるなよ」
「分かってます先生。どうかご無事で」
先生は気遣わしげに私を見た後にフェンリルを小脇に抱えて走って行った。
「私に今できることをします。難しいことを考えると眠くなります。だからただ目の前の敵を倒して民を守る騎士として戦いましょう」
「そうですわ。だからルーシェ様、もう少し辛抱してくださいまし。すぐに合流しますから!」
「ありがとう」
残ったのは私とルリとユッカくん。
「フェンリルはぼくのことを忘れています」
「ルーシェちゃんもあなたのことも今度こそ守るわ……と言いたいけど、勇者に勇者の役割がある」
「……はい。ぼくは"勇者"なんです。イカヅチのことだって、みんなのことだって守る!」
突然現れた魔獣にユッカくんは手の平を向ける。少しラナさんに近い動きだ。
魔獣はユッカくんから発せられる圧に怯んでいた。
ルリがその隙に魔獣を斬る。
「ぼくは子どもですが、見ての通り戦えます。イカヅチのところに行かせてください!」
「……それでェ!? なァんで戻ってんだよバカ! ユッカまで来やがって! 子どもを守ってる余裕はねェぞ!」
「イカヅチ! ぼくだって戦えるよ!」
イカヅチ様は6本になったオロチの首を4本にまで減らしていた。やはり、先ほどのオロチは陽動のためにわざと力を加減していたらしい。イカヅチ様も身を守りながら首を狙うので精一杯だ。
「コイツ……! 昔よりも強くなってやがる! いや、強化されてる! だから逃げろ!」
「お母さまが言ってた。『滅ぼすのではなく助けるために力を使うのよ』って!」
ユッカくんが手を空中に向ける。呼応するように光の剣が大量に現れてオロチに襲いかかった。
「ルーシェおねえちゃん! ルリおねえちゃん! アヴニールを助けてください!」
「はぁ~! おいルーシェ! オマエが言った通り、この剣でコイツをまた倒してやんよ!」
「えぇ! 2人とも気を付けて!」
ルリと共に走る。「視えた! 教会の前にアリスがいる!」と途中がルリが未来を視ることに成功したため、行くべき場所はすぐに分かった。
「はぁ、はぁ……いた!」
「来ましたね。ここで私を倒したところで2体のオロチがアヴニールを滅ぼすでしょう。悪竜復活は叶いませんでしたが、大精霊の世界を壊せるならいいわ」
パチン
衝動的にアリスさんを叩いていた。
アリスさんもルリも「え」と固まっていたが、自分でも驚いている。
「違う! あなたは大精霊に復讐してこの世界を壊したかったんじゃない! あなたは、あなたは大切な人と積み上げたものを残したかった! 理不尽に抗いたかった!」
「あ……」
アリスさんは目が覚めたように膝から崩れ落ちる。
「私、認めてほしかったんだ。私たちの術が人を救っていたことを、悪ではないことを」
こちらへ近づきながら大精霊様が神秘の時代を終わらせた理由を教えた。
「そんなの、教えてくれなかった……」
「えぇ、恐らく神秘の術との共存を選ぶと、ペナルティで大精霊自身がこの世界から消滅して世界の均衡が崩れる。だからあえてその理由を伝えずに理不尽な存在として振る舞っていたのよ」
「そう……」
アリスさんは静かに涙を流した。
が、何かを決心したようにフラフラとではあるが立ち上がる。
「あんなことをした立場でいえたことじゃないけど、1つお願いをしてもいいですか? 最後に戦ってほしいの。これで本当に神秘の時代は終わってあなたたち後世に繋ぐことができます」
「……はい」
アリスさんは杖を握る。教会の周りの瓦礫を浮かせて私目掛けて放った。
氷を作り出して相殺させる。無意識にロキからもらったペンダントを握っていた。
今度は私が氷の槍をアリスさんに向けて放つ。アリスさんは薬剤を取り出して槍に投げた。槍は溶けていく。
そういった攻防を30分は続けた。このままでは埒が明かない。アリスさんは殺す気で攻撃してくる。私も、その覚悟をする。
術と魔法の攻防戦では決着が着かない。なにか打開は……
『こんな令嬢がいてたまるか!』
学園で私がロキに関節技をかけたときのことを思い出す。
「ふふっ」
こんな時だというのに思い出し笑いをしてしまった。
「何故笑って……っ!」
氷で動きを止めた隙に、体術の応用でアリスさんの足元を掬い、転ばせる。そして、喉元に氷の短剣を押し当てた。
「これで決着ね」
「神秘の術と魔法の戦いなのに体術ってアリです?」
「さっきアリスさんだってナイフで刺してきたじゃない。お互いさまよ」




