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ミナヅキの昔話

 その昔、ミナヅキのとある小さな村では八つの首を持つ大型の魔獣オロチに悩まされていた。

田畑を荒らしつくし、人々は飢饉に苦しむ。何も無くなった田畑から人間に興味の対象が変わるのは時間の問題とされていた。


 外部の者が滅多に立ち寄ることのない辺境の地の小さな村であることも関係し、状況を打開することができぬまま時が過ぎていっていたが、ある日1人の男が立ち上がる。

「あの魔獣を倒す」

まだ五大精霊が現れていなかった時代。頼れるのはは普通の成人男性よりは少し屈強な己が肉体と、家宝として受け継がれてきた剣のみ。

村の者は全員「無理だ」と止めたが男は「新たな地を探して山を超えようとしてもあの魔獣は障害となる。倒すしか生きるための道はない」と制止を振り払って魔獣に挑んだ。


「……ということが実際にあったとされる話がミナヅキでは有名ですが、この剣が入っていた箱の材質から考えられるに、剣が埋められた年代と今お話しした昔話の時代がほぼ一緒なんです。この剣はもしかしたら……なんてあるわけないですよねぇ。人間の私物を精霊が持っていて埋めるのも不思議ですし」


 途中まで興奮気味だったセツナだが、徐々に話す勢いが弱まった。


 あの1件以降、セツナが無事に研究員に戻れたことを祝う間もなく私たちは必死に研究所の至るところを掘り返して宝剣を探した。

研究所の敷地内という情報しかなかったために早朝からシャベルを握るはめになった。範囲が狭めだったのが救いだ。


 夜遅くに突然来訪したのに泊めてくれただけでなく、肉体労働が苦手なのにも関わらず手伝ってくれたセツナは、丁寧に宝剣の状態を確認しながらミナヅキの昔話を語ってくれたのだ。


「昔話の続きはどうなったの? 挑むところまで聞いたら結果も知りたいわ」

「わわ! 私ったらすみません! 奇跡的にその男は巨大な魔獣を倒して村の英雄となったが、魔獣の呪いで死んでしまったそうです……後味悪くてすみません……」

「いいえ、物語を最後まで知ることはとても大切なことよ。ありがとう」


 私たちが宝剣を受け取った後、セツナは仲間に呼ばれ、離れていった。仲間と話す彼女は前よりも笑顔が多くなっている気がする。


「ん? 剣を見つめてどうしたの?」

「セツナの考察も間違ってはいない気がしてな」

「昔話の男が使った剣がコレってこと?」

「あぁ。魔法も神秘の時代の恩恵も受けていない小さな村の人間が単身で魔獣に勝つのは難しい。だから剣が特別だった可能性は高い……この剣は俺がお前に贈ったペンダントほどではないが魔力を操るぐらいはできるようだ。と言ってもそれがあってもただの村人がオロチを1人で倒せたとはあまり思えないがな」


 そうだ。まだ五大精霊はいないということは魔法が使える人間がいない。神秘の術は誰もが使えるものじゃない。

宝剣とはいえ、普通の人間1人では太刀打ちできないはずだ。


「だが、嫌がらせのためにイカヅチが宝剣を簡単に手放すやつには見えない。ロートスの動きの早さには驚いてはいたが、突然俺たちに宝剣を取りに行かせたあいつは何か隠しているかもしれないが……言わないなら詮索すべきではないか」


 この剣を手放した本当の理由。

気にはなるけどロキの言うようにイカヅチ様は触れられたくないだろう。

ミナヅキに行く手間を考えた上で必要だと判断したのなら考えがあるはずだ。


「セツナが言っていたように『人間の剣を何故精霊が持っていたのか』という疑問は残るからな。やっぱり特徴が似ているだけの別物だろう」

「とにかくこの剣を持って帰るのが私たちの仕事だものね……ローくんのお迎えはいつになりそう?」


「俺たちがワープした時間は……」と計算しだしたあと「そんなに待たずに済むな」と安堵していた。


「あと30分もないくらいだろう。ワープ中の時差も考慮するとアヴニールに到着するのは夕方だろうな」

「あ、あのぅ~お二人に会いに来たというお客様というかルリ様が」


 恐る恐るやってきたセツナの後ろで微笑んでいたのはルリだった。


「どうやら昨日はクロノスを寄越してきたようだが、今日は親玉の方か。何の用だ。お前もクロノスのように考えを改めたのか」

「親玉だなんてひどい!わたしはルーシェちゃんの様子を見に来ただけ。あとクロノスは自発的に押し付けがましく祝福するのはやめたけど、あくまで『相手の同意がなければダメ』を学んだだけ。だからルーシェちゃんに求められたら喜んで祝福する……………はずよ。たぶん。てかしてもらわないとわたしが困る」


 私たちとルリの関係をなにも知らないセツナは、ロキとルリの間でアワアワとしている。申し訳ない。

 昨夜は浮世離れしているクロノス様の人間味というものに触れられた気がして感動したけど、ちょっとその感動を返してほしくなってきた。『なんかいい感じのこと言ってきて完全に祝福を諦めたのかな? これからロキたちと良好な関係を築けるかな? と思ったらそうでもない』なんて新手の詐欺だ。


「人間は死に近づく行為をしてまで誰かを救おうとする強さがある。そこに不死という変化を勝手に与えるのは野暮だというのがクロノスの結論らしいわよ。わたしとしては都合がいいから独善的でいてほしかったけど」

「つまりフェンリルと俺たちが戦っているのを傍観していたんだな」


 図星だったようだけど「まぁまぁ落ち着いて。助言はしてあげたでしょ~」と開き直っていた。


「ささ、わたしはキミたちが剣を入手したのを見届けられたから退散するよ~」

「本当に俺たちの様子を見に来ただけか……」

「その宝剣は重要アイテムだからね。うん、ノートほどではないけど、ここまでの剣を鍛えあげたのだから神秘の術ってすごいわよね。さぁ、その剣を使って頑張るんだよ~」


 謎の煙と共に消えかけたけど、「あ!」と大声を出しながら止まった。

「ロキもわたしも生まれていなかったその時代、大精霊とクロノス、ロートス、イカヅチのみが精霊として存在していた。なぜ、突如にして神秘の術の秘匿、五大精霊の制度を成立させたのか。そしてアリスが悪竜を復活させたい理由。小説を読んでいないルーシェちゃんには難題か。今度教えてあげる。でもそこは意識しておいてね。じゃあね~」


 私もロキも追いかける気が何故か起きなかった。初対面の頃と比べて私の中の警戒心が薄くなっている気がする。

だけどルリ自身は私の意思を無視してでも不老不死の祝福をさせようと考えている。クロノス様が少しでも考えを改めてくれたことは前進ではあるはずだけど。

 普段は私を優先すると言っている彼女が祝福させようとする理由は、グランディール帝国から帰ってきた時に言っていた『いつか殺される未来』に対抗するためなのだろうか。


「相変わらずだな。クロノスが成長したことは喜ばしいと思うべきだろうが」

「そうね。ルリから宿題を出されちゃった」

「神秘の時代が終わった理由はイカヅチに訊けばいい……教えてくれるかは微妙ではあるが。アリスの動機は俺も知る必要がある。俺はもう壊すだけの存在になりたくないからな。この前のようにお前を傷つけるようなことも起こさないためにも止めないと」


 突然地面から植物が生えてくる。

「なんかいい感じのところ悪いけどお迎えでーす。はい、帰るよ~」

軽く言いながら突然再び植物の籠で私たちを包む。ローくんは今回も梟の姿でお迎えにきていた。いつになったら現実世界で彼と会えるのだろう。


「どうかご無事で!」と慌てながらも激励してくれるいうセツナに「突然来て突然帰ってしまってごめんなさい! 助けてくれてありがとう!」と返したが聞こえていたかは分からない。


 すぐに籠は消え、アヴニールの屋敷に戻っていた。現在の時間はロキの予測通り夕方。


「眠いから帰るね」

「あ、ありがとう」

 神秘の時代ならローくんに訊いてもいいかもと思っていたけど、引き留める間もなく消えてしまった。

「お、帰って来たか。宝剣もあの時と変わってねェな」

「結局この剣はどういうものなんだ?」


 やはり触れられたくなかったのだろう。返事までに少し間があった。

「オレが神秘の時代に持っていたってだけだ。大精霊はこういうのを手元に置いておきたがる性格だから嫌がらせに隠してた。以上」


「さァ飯食って風呂はいって寝ろ。この剣はオレからリンドウに渡しておくから。前にも言ったがアイツならコレを上手く使える」

「深くは訊きませんが、その剣を振るうのはあなたであるべきでは」


 部屋を出ようとしていた足が止まった。

「へェ、随分分かったようなこと言いやがんだな……魔女、お前もそう思うか」

「アヴニールがあなたとユッカくんの安寧の地ならば尚更です。守りたいのならば託さずに自身の腕で戦うのがあなたでは?」

フェンリル戦の時、最初は「どうでもいい」と渋っていたとアウラさんから聞いたが、結局は自らの力で私たちを助けてくれた。もし、彼が本当に昔話の英雄ならば、どんな逆境でも剣で最後まで守りたいもののために独りでも戦うのだろう。


「ハッ! あの騎士といい分かったような口を……オレを本気にさせて後悔すンなよ?」

振り返った雷の化身は笑っていた。


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