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神秘の時代

「夜顔はフェンリルを復活させた? それはつまり……」

「魔獣の王である儂を目覚めさせられるくらいの術を夜顔は手にしておるのだ。かなり研究は順調そうだったゆえ、悪竜復活の術も近いうちに手に入れられるだろうな」


 本当なら大変なことだ。それにしても、フェンリルはそれを防ぎたくて先生と共に来たのだろうか。あまり人間のためになることをするイメージはなかったのだけど。


「儂は気に食わぬ! 儂より強い悪竜なんぞ許さぬぞ!」

「うん、フェンリルが改心して味方になったのかも……と期待した私がバカだったわ」

「俺もそうだから安心しろ。こいつは結局のところ相容れないからな」


 悪竜を倒す勇者であるユッカくんの年齢から考えて、今はまだ計画の始まりの段階でしかないと踏んでいたが、想像以上に進んでいたようだ。

これは誤算だ。もちろん嬉しくない方の。


 小説では「文献を集め、様々な国で語られる術を試した」と書かれていた。そうは言ってもこの世界の魔法は基本的に五大属性だから魔獣や悪竜を従える方法はないはずだけど……ラナさんのように例外もいるので

「絶対にあり得ない」とはいえないのだ。


やはり、私がアヴニール編以降の話を知らないのが痛手だ。もしかしたらアヴニール編以降の話で悪竜復活の手段が更に詳しく判明していたのかもしれないのに。


「私たち、悪竜に興味のある人たちとは会っているのだけど…」

「フリ公の言葉を信じるなら、これからは安易に会ったり自分のことを喋らない方がいいな」


「1つ訊きたいが、俺自身にその意思がなくても夜顔は術を使えるのか?」

「少なくとも儂は眠っていたところを起こされたからな。その可能性はある……儂が当時の魔女と聖女に封印される前に、一部の魔力なしの人間たちが魔獣の復活の方法を研究をしていると聞いたことがある」


「知っておるか? 五大精霊が誕生する前の人間は自らの魔力の使い方を知らぬ代わりに、土地の魔力を借り、道具や陣を編み出すことで独自の神秘の術を使っておった」


 何それ初耳なんですけど。なんだかエトワールシリーズのラストで明らかになりそうな情報だ。

それにしても、意思の有無のことを訊くあたりロキはやはり先ほどのことを気にしているようだ。ダメだと分かっていても本能に引きずられてしまいかけたのだから。


「フリ公、それ本当か? 魔法学園の教師でも知らない話だぞ」

「大精霊の命によってそのような内容の文献は破棄されている。封印から目覚めた後、セツナの身体で調べたら『魔力を持つだけで使い方を知らない人間に精霊が祝福を授けた』とだけ語り継がれていたのだから、笑ってしまったぞ。つまり、五大精霊が揃うことで神秘の時代に終止符が打たれたのだ。そなたは知らなかっただろう?」


 ロキは嫌そうに「あぁ」と肯定した。分かるよ。ドヤ顔が気になるよね。


「ドヤ顔はムカつくが、その通りだ。大精霊が独自で薬の研究をしていることは知っていたが……あれも神秘の名残か」

「そうだろうな。聖女のように『何か特殊な力が使える』人間は大体"神秘の時代"の名残だ。ある種の先祖返りだな」


 悔しいけどすごくタメになる。無言で感謝の撫で撫で。


「おい、儂は魔獣の王だ……わふっ!」

「魔獣の王、陥落したな」


 フェンリルは体勢を戻し、「話を戻すぞ」と真面目な雰囲気を漂わせる。


「もしかすれば、夜顔は悪竜を復活させる術を知っている。そなたがもし悪竜から精霊になったと露見すれば、悪竜に戻す術を調べるだろうな」


 いくらロキが悪竜にならないと誓っても、善良な精霊であろうとしても……

彼らの都合で悪竜に戻されるなんて、そんなのあんまりだ。

 

「随分面白そうなことを話してんなァ、ここで話すのはちぃと不用心だぜ?」

「イカヅチ様だ」


 気がつけばロキの背後に立っていたイカヅチ様はユッカくんを連れていない。ロキはずっと気づいていたようで驚いていなかった。

私が尋ねる前に「ユッカは聖女のところだ」と言う。気にしていたのがバレていたかな……


「お前は神秘の時代について知っていたのか?」

「オレとロートス、そしてクロノスは神秘の時代から存在してるからな。突然、五大精霊とそいつらによる人間への祝福制度を成立させて神秘の時代を抹消しようとしている大精霊があの時からずっと気に食わねェぜ……ロートスは言われたこと以外放置&興味のないことはスルーしまくりで何故か五大精霊になってるし、クロノスの野郎は今も昔も独善的で殴りたくなるぜ」


「つーかテメェらよォ、あんま長時間そういう話してると大精霊に嗅ぎ付けられるぜ。それにしても……」

「モールス、退散するぞ」


 イカヅチ様は先生の足元に隠れようとしたフェンリルを意外にも優しく抱き上げる。イカヅチ様の腕のなかでフェンリルは暴れ始めた。


「オレの雷と魔女の氷を受けて生きてるとはなァ! フワフワになりやがって! ユッカがここにいたら触りたがるだろうなァ」

「儂は己を安売りするマネはせぬ。肉を用意するのが条件だ」

「へいへい。それで? 悪竜復活を目論むかもしれない夜顔を潰しにいくのかァ?」


 どうやら私たちの会話をほとんど盗み聞きしていたようだ。説明の手間が省けて楽ではあるけど。

 

「今すぐには難しいだろうがゆくゆくはな。まずはアジトの特定からだ」

「儂はなんとなく覚えておるぞ。小さな島だ。自然豊かで未だに人間の手が加えられていない場所もある。細かい場所は覚えていないが、麦畑は覚えておる」


「あァ、麦畑ならリシュ島で確定だぜ。ここ十数年は若者が帝国に移住している関係であそこで生活する人間は30人いるかいないかくらいだったな。少人数かつ山の中でなら気づかれないかもしれねェ」


 あぁ、そうだ。リシュ島にあるアジトを謎の精霊が突き止めて、成長後のユッカくんたちが乗り込むんだ。そして夜顔のボスが術を発動して悪竜が復活する。

すぐにでもリシュ島に行くべきだろう。


「悪竜はまだ分からないが、フェンリルについてはすでにやらかしやがってるようだからな。それに、教え子を助けるのも先生の役目だ……俺ってば教師の鏡すぎるな」

「最後の一言がなければな。だが、何故か俺を手刀で気絶させられるお前がいるなら心強い」

「モールスが儂を匿い続けるというなら、儂が夜顔の行いを証明してやろう。別に復活の手助けを頼んだわけでもないから恩も何も感じておらぬ」


 何故か先生以上にフェンリルのやる気がすごい。興奮しているのか、フワフワな身体で先生の足元をクルクルと駆け回る。フェンリルの癖に可愛い。


「人間のことなんぞどうでもいいが……魔獣の王が動いてオレがなにもしないのも引っかかる。それに、フェンリルの時とは違ってここで何かあればオレらの家が巻き込まれるからな。そう、決してテメェらを助けるわけじゃねェ!」

「イカヅチ様……!」


 なんだかんだ面倒見がいいというか、ツンデレ系なのかな。

ラナさんとリンドウさんにはイカヅチ様がユッカくんのお迎えがてらに事情を伝えてくれるらしい。

精霊に魔法学園の教師、聖女と最強の騎士がいるのだ。あとフェンリル。とても心強い。



……そういえばユッカくんはどうするのだろう?

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