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本能

 ロートス様の言っていた忠告も気になるけど、目の前の問題から逃げるわけにもいかない。


「どうも、私たちはアヴニール商会です。あの魔女様に会えるとは光栄です」

「こちらこそ。でもそう畏まらないでください。あまりこういう場に慣れていないのです」


 魔女に挨拶したいと、ロートス様に会って屋敷に戻ってきた翌日にアヴニール商会と名乗る人たちが来訪してきた。

うーん、パッと見いい人そう。突然来たから朝食を満足に食べられなかったけど。私の後ろで立っているロキは大丈夫かな。食べるのが生き甲斐なのに……


「やはり噂通りお美しいですね。その上心優しいとは!」

「あ、ありがとうございます」


 さすが商人、褒め上手。でも私は知ってる。

この人たちが小説における悪竜復活の元凶であることを。

表向きはアヴニールの商人たちで作り上げられた組織『アヴニール商会』

だが、1部の幹部たちは表の姿で集めた資金を使って『夜顔』という組織をつくり、悪竜復活のために日々様々な道具に伝説や文献を集めているというのが実態だ。


 だけど、実際はロキは今ここにいるからなぁ…

商会の人たちの様子からしてもロキの正体には気づいていないと分かる。ロキもロキで特に不審に思っているわけでもなさそう。


 なら大丈夫なのかな……


「魔女であるルーシェ様は『悪竜』をご存知でしょうか?」


 ……大丈夫じゃないかも


 商会の人からの私への質問にロキが一瞬動揺しかけたが、なんとか持ちこたえてくれた。ひとまずは「いいえ。私は何も……」と答え、相手がどこまで悪竜を知っているのか、また、小説と同じように復活させようとしているのかを探ることにした。


「実は最近、商会の者が見つけた文献の中に『エルフィン王国に存在していた悪竜』という内容のものがありましてね。人々の悪感情に呼応して全てを壊すと書かれていました。……もちろん、そんなことはないと思いますが『復活したらどうなるのだろう』という好奇心を持つ者がいましてね。積極的に情報をあつめているようなんです」


 今はまだ情報を集めている段階なのだろう。ここで『好奇心を持つ者』を探しだして監視すれば事は起きないはず。ロキ自身にもそのつもりはないようだが、気を付けておくに越したことはないだろう。


「もし、情報を仕入れたら教えていただけると。もちろん! きちんと代金は支払いますので!」


 アヴニール商会の人たちが帰り、私とロキの2人だけになる。

先に口を開いたのはロキだった。


「俺を調べることの何が面白いのだろうか」

「その人に会わない限り断言はできないけど……伝説だけが残り、自分の生きる時代には存在しないものにロマンを感じる人もいるからね」


「小説では『悪竜が復活したらどうなるのだろう』と好奇心を抱いた人と『こんな世界滅べばいいのに』という破滅願望を抱えた人が出会ってしまったことによって全てが始まるわ。まだ好奇心の方しか現れていないみたいだし、ロキは精霊になっているから大丈夫だろうけど……」

「今度またあいつらに会う時は気を……っ!」


 壁にもたれかかりながら立っていたロキが突然頭を押さえる。尋常でないくらい苦しそうだ。

倒れかけたロキを支えようとしたが、私の筋力では限界がある。私が下敷きになる形で共倒れしてしまった。


「ロキ!? しっかりして!」

「……」


 あれ? 今、ロキの喉が鳴ったような。そう、まるで獲物を見つけて補食しようとしている時の……


「獲物への反応を見る限り、悪竜と魔獣はそう差がないのかもしれないな」

「!?」


 突然、フワフワとした生き物がロキに体当たりをする。勢いはよかったが、あまりダメージを与えられていない。というか、このフワフワなポメラニアンからは想像できないくらい渋い声……というか聞き覚えのある声なんですけど。


「おいおい、突然フリ公が走り出したかと思えば、可愛い教え子が襲われているし、襲っているのも教え子じゃねぇか。不祥事はやめてくれよ、俺は定年までは教師で食っていきたいからな~」


 素早く手刀をロキに喰らわせて気絶させる。この世界にロキを気絶させられる人間っていたんだ……

いつも私たちに授業をしている時と同じように、気だるげな彼はロキを雑に床に転がして私が立ち上がるのを手伝ってくれた。


「怪我は?」

「ありません、ありがとうございます。先生……とポメラニアン?」

「違う。儂は犬ではない! そなた自身でトドメを刺しておきながら儂を忘れたと言うつもりか! これだから人間は!」


 この尊大な話し方。そしてやっぱり聞き覚えのあるこの声。


「フェンリル!?」


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