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本質の見抜き方

 イカヅチ様達と初めて会った翌日、私とロキが屋敷で朝食を食べ終えた直後のことだった。


「てめぇら、人間が呼んでるぜ」

「もう少し対象の範囲を狭めて教えろ」


 口調は乱暴だが、丁寧にドアを開いて私達がいる部屋に入ってきたのはイカヅチ様だ。ユッカくんは連れてきていないらしい。


「あー、名前覚えてねぇんだよ。とにかくアヴニール教会の会長だ。魔女の品定めじゃねぇか?」

と屋敷の椅子にドサッと座り込み、面倒そうにしながらもイカヅチ様は律儀に教会の場所を教えてくれた。地図もくれた。


「ありがとうございます……1度船に乗る必要性があるのね」

「今オレらがいるこの屋敷までの道は帝国の方から地続きだったが、教会は隣の島にあるから船に乗らないといけねェ。他国から地続きになっている土地は例外で馬車も可能だが、街中も川や水路が多い上に狭い道が多いからな。基本アヴニールでの移動は徒歩か船の2択だと思え。ほら、地図を見ると島がいくつかあるだろ」


 イカヅチ様は、地図内の『アヴニール』と書かれたエリアに集まっている島々の中の中心にある一際大きな島を指差した。その後に帝国と地続きの土地を指差す。


「これがオマエらが今から行く教会がある島だ。で、こっちが今いるトコロな」


 イカヅチ様の説明と小説でのアヴニールの説明は一致する。今私たちがいる土地はエルフィン王国やグランディール帝国から地続きに繋がっており、アヴニールの入口とも言える場所だ。ちなみにアヴニールという国自体はエトワールの北西に位置する。


 そこから西の海側に舟で移動すれば教会があるテール島、そのテール島から南に移動すれば自然豊かであり牧歌的な雰囲気で有名なリシュ島がある。他にも島はあるが小説の舞台になっていたのはこの2つだ。


「オレらはこの教会があるテール島に家がある。だから島までは船で一緒に行くが、その先はオマエらだけで行け。オレらは別件で教会に行く用事があるからな」


 船は帆がついており、風の力を利用して進むタイプだ。船に携わる者は風魔法使いが多いため、進路の調整なども少しであれば可能らしい。


 テール島までの移動は、案外時間がかからないようだ。

船員さんが風魔法で加速しているし、ロキもこっそり魔法を使っている。イカヅチ様は「アヴニールは本当に移動が面倒だぜ。オマエかアウラ、どっちかアヴニールに引っ越せよ」と言い始めていた。


「そういえばお菓子持ってきたんだった」

「ん」


 スッ……とロキは手のひらを私に見せる。鞄からクッキーを2枚取り出して手のひらに置いた。


「イカヅチ様もいかがですか?」

「1枚もらう」


 正面から私の左隣に移ったイカヅチ様は1枚をゆっくり食べながら、私の右横に座るロキの顔を見ていた。気が散ってきたのかロキもイカヅチ様の顔を見る。

何故か私を挟んで見つめあっているという奇妙な光景が生まれてしまった。


「昨日から思っていたが、オマエ大食いだな」

「食べることが生きがいだからな」

とロキは視線をクッキーに戻しておかわりを頬張る。


「オマエの生きがいには興味ねェが……あァ、そうか。おい、魔女、あまりコイツを甘やかしすぎンなよ」


 突然小声で警告されたので驚いたが、イカヅチ様の表情から警告する理由があり、そしてそれはロキの前では言えないのだな……と気づいた私は「分かりました」と頷く。

それにしても良い声だな。普段は荒くて強めな口調が多いけど、小声で話すと落ち着いた大人っぽさがある。


「もうすぐ着くな」

「オレは着いてはいかねェから忠告してやる。魔女、お前はまだマトモだから言うことはねぇ。ロキ、テメェ絶対に正体を話すなよ! ついでにオレのこともだ! 大体の人間はエルフィン王国の王族に鍵を渡す精霊は大精霊だと思ってる。それが実は元悪竜だとバレたら……」


「なんだ。監視でもされるのか」

「学校に通えなくなるどころか、そこにいる魔女とも離されるだろーな。昔のフェンリルのように封印もあり得るぜ。教会のやつらは精霊を信仰しながらも自分たちの理想を精霊に押し付けようとしてくる。聖女と騎士は例外だ。大精霊の抑えがあるから今はおとなしく見えるがなァ……」


 かなり念を押された状態でアヴニール教会にやってきたのだけど……

うん。確かに厄介っぽい。今いる部屋がドラマとかで幹部たちが集まっている部屋のように見えてきた。


「よくぞ遠路はるばるお越しくださいました。魔女となったあなた様のことは大精霊様から聞き及んでおります。実績があることも」


 部屋の中心に厳かなオーラを出しながら立つ老齢の男性が自己紹介もせずに話し始めた。この人誰なんだろう。


「別にそれを疑うつもりはありませんよ」

「それ疑う人が言うや……んぐ」


 つい緩んだ口がロキの手によって押さえられる。幸い、おじいさんは話すことに夢中で気づいていないようだ。この人、相手の様子を見ずに自分の話したいことを話して1人で満足するタイプだな。


「しかしですね、聖女とは違いずっと現れなかった2代目魔女が突然誕生したということで我々も少し混乱しています。なので無礼を承知でテストを受けていただきたいのです」

「内容を伺っても?」


 ずっとおじいさんの語りを聞いていたが、ようやく会話が始まった。


「フェンリルのように知能が高いわけではないのですが、最近アヴニールの森で狂暴な1体の魔獣の目撃が相次いでいましてね……その討伐を依頼したいのです」


 思ったより普通というか理不尽さがない内容だった。次の一言さえなければだが。


「聖女や精霊の助力なしは難しいのならば無理にとは言いませんがね」


 おじいさんは少し嘲笑うような目をしていた。中々に失礼な人だ。ロキは意外にも冷静に無言で立っている。冷静というか怒るのも無駄な手間になるのかも。

私はというと前世の元上司よりマシだな……と思った。ムカつくことには変わりないが。


 結局あの会長とやらは依頼するだけして詳しい情報を教えてくれなかった。

ちなみに帰り際に見送ってくれた教会の人が、あのおじいさんは教会の会長だと教えてくれた。正式名称は別であるらしいが、長いから皆『会長』と呼ぶらしい。



「情報収集もテストの一環です」と言ってはいたが……思い出すはあの目。あれは嫌がらせだ。


 私たちはそのまま教会を出て街を歩く。帰りの船の出航の予定時刻まではかなり時間があるため、今の私がすべきことはすぐに分かった。


「やっぱり情報は集めないとだよね」

「その必要はないかもしれないがな」

「なんで?」

「そもそもあの人間が言っていた魔獣が本当にいるのかも怪しい。そんな狂暴な魔獣がいるなら俺かイカヅチが気づくはずだ。それに、アヴニールは樹の精霊ロートスの庭だ。本能的に魔獣はアヴニールを避ける。だからアヴニールに魔獣は全く現れない」


 あの人よりロキの方が断然信じられる。それに、もし仮に狂暴な魔獣がいたらイカヅチ様やロートス様が何もしていないのは引っかかるのは私も同意見だ。

もし本当に会長が嘘をついたなら……


「じゃあ、会長の言葉か嘘だという証明をしないといけないってこと?」

「……そうなるな」

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