家族
ノートさんの会心の一撃によって空中から叩き落とされたフェンリルは、上手く着地もできずに地面に衝突した。
「よし!」
ノートさんが喜んだのも束の間、フェンリルは立ち上がり、光線を発射した。
狙いは……
「ルーシェ!」
え、私?
ロキがすぐに私を抱えて後退した。後少し遅ければ私はあの光に焼かれていただろう。
「お前……」
ロキが今までで1番怒っていることは誰の目にも明らかなことだった。
強力な魔力と殺気がひしひしと伝わってくる。
「ロキ! 気持ちは分かるけど、正気を失うってことはやめなさいよ。サラも!」
「……分かっている」
「焼くだけなら良いではな……って分かったわよ~!」
想像以上にロキもサラマンドラ様も怒っているが、私たちが避けている間に再び上空に浮いたフェンリルに向けてどうやって攻撃するのだろう。ノートさんのように宙に浮くのだろうか。
「浮いたところであの光線を浴びせられるのが関の山だ。あいつがさっきのノートの攻撃を2度も喰らうとは思えん。面倒だ……!?なんだこの魔力は」
「嘘!? アイツなの!?」
「ルーシェちゃん、たぶん眩しいから目を瞑って耳を塞いでおこうね~☆」
私は目を閉じ、サラマンドラ様の両手が私の耳を塞いだ直後、突如轟音が鳴り響いた。掌越しでも聴こえる。それは雷鳴だった。
だけど日常で聴くものとは違う、終末の訪れのような、強大な力を本能的に感じさせてくる。
「あ、フェンリルが……」
雷は何故かフェンリルに直撃したようだ。
雷のせいでぐちゃぐちゃになった地面の上で気絶しかけている。四肢がピク、ピク、と動く。この状態で生きているのが奇跡だろう。
「な、んだこ、れは……精霊の力、か」
「アンタ最高にラッキーなのに不幸よね。あのイカヅチの雷を浴びたのだから、もう自由には動けないわよ」
「アイツが人のためになることをするなんて明日は槍が降るかも」と物珍しそうにしながらノートさんは私たちに先ほどの雷について教えてくれた。
「さっきのは雷の精霊による攻撃よ。大精霊の命令もほとんど無視するやつだし、クロノスのことは嫌っているから……もしかしたらアウラがアイツに頼んだのかも」
「あれが...」
そういえばロキは会ったことがない精霊もいるんだったな。初めてあんなに大きな雷を見たからなのかあっけにとられている。
あぁ、ただでさえ大変なことになっていた城の前の道一帯が更に大変なことに。フェンリルが立っていた所の石畳は、粉々というかもはや砂になっている。この世界の雷は前世の世界の雷よりも更に強烈な破壊力を持っているようだ。
地面に倒れ込むフェンリルに近づいて氷を作る。
「魔女よそれは何を代償に手に入れた」
「それはこれから払うのよ」
問いかけに答え、私の氷に肉体を貫かれたフェンリルは雪解け水のように溶けていった。
「人間のいない我らの世界を……」
その言葉はとても小さく、私にしか聞こえなかった。なんだか細い針が体に刺さった気分。
それでも私はとりあえず一安心だと胸を撫で下ろす。
「倒せたのですか!?」
この声……!
振り返ると、ミシェルに支えられながらではあるが、セツナが立っていた。
「セツナ! 無事だったのね!」
「この度は大変なご迷惑を……申し訳ありません!! 私はもう研究所には戻れないでしょうが、私のような人間を生み出さないためにもできることはなんでもやります……!」
相変わらずオドオドはしていたけど、以前会った時に比べると、何か憑き物が落ちたようだ。
きっと今の彼女ならこれから先の困難も乗り越えられるだろう。
「お~~い!」「やっほ~~!」
男性2人の声が聴こえる。
声がした方を見ると、セン様とアウラさんがこちらに駆けてきていた。
「うるさいのがダブルで来たな」
ロキがこめかみを押さえる。
「聴こえてるぞ~~?」
「いやぁアウラくんったら本当に追いついたから驚いたよ~」
「約束は守るって決めてるからな! どう?久しぶりのイカヅチの雷は」
「うるさくて眩しい以外はさいっこーだった☆ もう帰っちゃったの?」
「うん。えっとまぁ、イカヅチも色々あるみたいだしな…! ……詳しく話したら怒りそうだ」
あれ? 一瞬アウラさんが気まずそうな顔をした。
「詳しく話したら怒りそうだ」って言った?
どうやらサラマンドラ様たちには聞こえなかったようだけど。言いにくそうだし訊かないでおこう。
セン様は尻尾が見えそうなくらいの明るい笑顔でこちらに駆け寄ってきた。
「ルーシェちゃんにはまた助けられちゃったね」
「いえ、セン様がアウラさんと共に援軍を呼びに行かなければ、私たちがこうして立っていたかも分からないのですから」
セン様は「土地いる?」と恐ろしいことを言い始めた。目が怖い。瞳のハイライトなし枠は私だけでいいはずなのに……
ロキが「ルーシェには領主になる予定はない」とツッコむ。
事態が混沌としてきたため、助けを求めるようにセツナの顔を見ると
「ダメですよ、セン!」
と珍しく険しい顔をしていた。
「それじゃ足りません! あのクソジジイが隠し持ってたお金でよければ贈与します!」
とサムズアップしていた。
「なんだか2人、似てますね」
思わず口にしてしまった。
家庭環境が複雑故に不快にしてしまったのでは。すぐにそう思ってしまったが、セン様とセツナは顔を見合わせた後
「家族だからね!」
と嬉しそうに笑っていた。




