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打ち明けよう

「私、魔女になるわ」


私の宣言にルリは悲しげに微笑み、ロキは……怒っている気がする。


「ルーシェ。引き返せるのは今が最後だ。魔女になれば本当に『普通』からは外れた生活を送ることになる」


「フェンリルやクロノスの件を解決して、普通の令嬢に戻り、幸せな生活を送る。そういう選択肢はこれから消えてしまう。お前の人生はこれからお前だけのモノじゃなくなる。他人や世界に自分を消費する場面が出てくるんだ」


 ロキはただ怒っているのではなく心配してくれているんだ。


私を世界に消費する。それはつまり命の危険もあることを示唆しているのだろう。

恐らく精霊ならば魔女の誕生を祝うはずなのに、目の前の精霊は私を止めようとしている

……本当に優しい精霊だ。


「私はこの選択を後悔しないわ。誰かに殺されてこの命を奪われる未来があるとしても、この使命は果たしたい」


あの人が描いた世界を守りたい。

この世界は彼女の人生そのものだ。それを壊されるのは私が耐えられない。


 それに、クロノス様に接触できる機会も増えるかもしれない。良いことだらけだ。


もう守られるだけではいたくない。


 私の目をじっと見た後、ロキはため息はついた。どうやらもう怒ってはいないようだ。


「余計な世話だったようだな」

「いいえ。最後にそう訊いてくれて嬉しかった。ロキ、ありがとう」


ロキは「あ、あぁ。うん」と動揺している。

これはとても珍しい。


「ん?待て、ルーシェお前『殺されて命を奪われる未来』って…やっぱり知ってたのか!?」


「え? ルリから言われたから知ってるよ」


ロキは驚きながらもにルリを睨む。

「だって無知がバッドエンドへの一番の近道だから」

と悪びれる様子もなく笑っていた。


「精霊たちは私が殺される未来を知っていたの?」

「そうだ。大精霊に俺は『ルーシェを死なせるな』と命令された」


 そっか。私とノーブルがどうなるか気になったって言っていたけど、本当は守るために来てくれていたのね。


「黙っていて悪かった」

「私を守るために来ていてくれたのでしょう? 責める理由がないわ。それに……この前『一緒にいる時間が好き』って言ったのは嘘じゃないって分かるから」

「あぁ、それは嘘じゃない」


 ロキはそう言った後、私をじっと見る。

そして


「アウラが言っていたことの意味が分かった」


と満足そうな顔をした。何を言われていたのだろう。


「はいはい。わたしのことを置き去りにしないで! あとルーシェちゃんに近づくな。いつも思うけど距離近いんだよこの野郎」

「お前こそ近づくなよ」


 突然2人の攻防戦が始まった。ルリはロキを押し退けて私に近づこうとして、ロキはロキでルリを遠ざけようとしている。


「あの、2人とも?」

「あ、ごめんごめん。話を戻すね」


 声をかけたら、2人ともパッと両手を上げて同時にお互いから離れた。

意外とこの2人は息が合っているかも?


「わたしが未来を視たということは、ルーシェちゃんには魔女になれる所以が必ずある」


「だから大丈夫…と言いたいけど、あなたは今まで以上に死の恐怖と隣り合わせの生活を送ることになる。怖いという感情を持つことは罪ではない。時には怖いことを『怖い』って話してもいいのよ」


 ルリは優しく私の手を取って、そっと自分の手で包む。彼女の温かい体温が掌越しに伝わる。

あぁ、目の前のこの子もこの世界を生きているんだ。

きっと、私と同じで生の温もりと死の冷たさの両方を知っているんだ。


『怖いと思うことは罪ではない』

と優しく手を握って言ってくれたルリ、そしてずっと傍にいて私を守ってくれたロキには話したいと思った。


「終着点としてではない死。うん、怖いよ。死は私と大切な人を引き離した。死ぬこと以上に私はそれが怖い」


 一周回って笑顔になった。でも大丈夫。怖いからといって立ち止まることはない。

弱さを認めた上で進み続ける。


「うん、少なくとも『私』たちにとって死は別離をもたらす存在ものだもの。2度と味わいたくないよね」


 でも、私はその恐怖を理由に立ち止まりたくはない。


「だからこそ魔女になって、強くなって、未来を変えてやるの!」


この決意表明に

「上等上等! それでこそルーシェちゃん!」

とルリは私を鼓舞してくれた。


「そうそう! もう1つ話したいことがあったの! クロノスがウルで暴走していたでしょ? だから『彼女のことはロキが守るから卒業まで祝福するな』ってお願いしたから安心して」


 一般的に『するな』はお願いではなく命令のような気がする。


「クロノスと仲間なの?」


 ルリは「あいつと?違う…と思う」と、少し迷いながら首を横にふった。


「迷子になっていたあなたを助けるようには言ったり、殺される未来は伝えたけど、祝福についてはあの精霊の独断。でもまぁ……わたしもルーシェちゃんが祝福されること自体には賛成よ。アハハッ!」


 先ほどの可愛い攻防戦とは違い、ロキは本気の殺気を纏った。

ご機嫌に笑いながらルリは窓の淵に器用に立ち、月を背景にしてこちらを向く。


「ロキ、ルーシェちゃん……あなたたちにはそれぞれ隠している過去がある」


隠している過去。それは前世についてだろう。

ロキは自分の過去についてだけでなく、私の過去に秘密があると言われて、少し混乱しているようだ。


どちらにしろ、先ほどの私とルリの会話を見守ってくれていたのだ。説明は避けられないだろう。


「秘められた過去は時に己を苦しめる重荷になる。あなたたちは少しそれを分かち合った方がいいと思うよ」


「じゃあ、フェンリルの問題については任せるね!」

ウィンクをしながらルリは窓から飛び去った。


部屋は夜の静寂に包まれる。


 いつかはぶつかるであろう壁の1つに

『私の前世について話さなければならない時』はあった。

その時が今だっただけ。


むしろ、そのきっかけをくれたルリに感謝したいくらいだ。


 信じてくれるかな。受け入れてくれるかな。確信はできない。それでも、私は覚悟を決めた。


「ルリの言った通り、私には隠している過去がある」

「どういうことだ」

「聞いてほしいの。私が『ルーシェ・ネヴァー』になる前の記憶を」


 私は全てを話した。前世での記憶があり、この世界は友人が書いた小説と同じ世界であること。

 本来のルーシェはノーブルに恋をする。

彼女はライバルであるクレアを疎ましく思い、最後には処刑されるということを。

 シリーズの内容を全ては思い出せていないが、自分とカルティエ様とセツナについては思い出せていることを。


 あり得ないと言われる覚悟はしていた。

だけど、何か腑に落ちたところがあったのか、

「そうだったか」と案外すぐに信じてくれた。


「ごめんなさい」

「それは話していなかったことについてか? お前が自分を守るためにしていたことを責めることはない」

「ありがとう」


 彼は黄金色の瞳でこちらを見つめる。開いたままの窓から柔らかな風が吹き込む。

今の気持ちを言葉にするのは野暮かもしれないけど、なんだか心地がいい。


「初めてお前の夢に入ったとき、一瞬ではあるが見慣れない景色が広がっていた。今思えばあれはお前の前世の記憶だったんだな」


「どんな景色だった?」と訊く。


「とても細長く空まで届きそうな建物がたくさんあったり、たくさんの人間がぎゅうぎゅうに詰められた大きな部屋が動いていた」


 どうやら未知との出会いをしていたようだ。

恐らく私が働いていた職場のビルと電車で通勤していた時の記憶だろう。


「次は俺の番だな。お前に話していないことがある」


 唐突に

「その小説には『悪竜』はいたか?」

と聞いてきた。


『悪竜』という言葉を聞いた途端、また消えていた記憶が蘇った。


「思い出した。確かエルフィン王国が興る前に顕れた竜…」


 これは後世には伝わらなかった、忘れられた伝説。


覚えているのは精霊と初代国王と王妃のみ。

人々の怒り、憎しみ、諍いに呼応するかのように顕れた悪竜。


 精霊に祝福された青年、後のエルフィン王国初代国王に倒され封印されたが、アヴニール編で復活して主人公の前に立ちはだかる。

エトワール史上最も凶悪で最強と詠われた、感情を持たない悪役。


 ロキは「そっちの俺も変わらないようだな」と呆れ気味に笑っている。


え、ならば、私の目の前にいるロキは…


「俺がその『悪竜』だ」


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