実家の安心感
「もう帰っちゃうの?」
「実は今日、春休み終了前々日でして」
「そ、そうなのか。よかったら学園長の方に私から事情を……」
おっと、それはまずい。
心配してくれているのは分かっているしありがたいが、私がここにいて好き勝手していたことは友人にも家族にもバレてはいけないのだ。
私の焦りを察したロキがやんわりと断る。
「いや、大丈夫だ。気持ちだけもらっておこう。複雑な事情があるためルーシェがここにいたことは誰にも知られてはいけない。それに始業式を欠席してノーブルたちを心配させるわけには行かないからな」
そう、今からこの国を出ないと始業式に間に合わなくなる。
正確にいえば間に合うかというよりかは、私が過労で倒れる可能性を危惧している。今日のうちに帰って1日休みを堪能しておきたい。
もちろんロキの言うように始業式でノーブルたちに会うためというのもある。
「今度、ノーブルが城に来ることになっているの。やっと会えるわ……約束通り、あなたたちのことは話さないようにする。2人とも、ノーブルのことをよろしくね」
「はい! ありがとうございました!」
「アテナ」
「ヴィアちゃん?」
ヴィアちゃんは罪悪感に押し潰されそうな顔をしている。
「我はもう貴様に会うことはない」
「そうなの……?」
「今回は本当に特別だった。それに掟に抵触するようなこともしたしな……」
アテナ様は正体に気づいているのかいないのかは分からないが、
返したのは惜しむ言葉ではなく、
「そっか」の一言だけだった。
「2度と会えないわけじゃないよね?」
「そう、だな。今生の別れではない。それに……我はこれからもアテナの友であることには変わらない」
「えぇ! またいつか、お茶会をしましょう!」
こうして私たちはグランディール帝国を去った。
馬車によって国境付近まで送ってもらった。
ヴィアちゃんは移動中、私の膝に乗ってずっと抱きついていた。
時折「泣いてないぞ」とも言っていたので、頭を撫でたら更に力強く抱きしめられた。
とりあえずヴィアちゃんとアウラさんに出会ったときと同じ私の屋敷の近くの湖に移動する。
「うーん! やっぱりエルフィン王国の空気が一番合うぜ」
「我は帝国の方が合うが……これからはここで暮らすのだから慣れないとな」
「本当にここで暮らすのね」
ヴィアちゃんはこの湖の底を掘り進めて、家を建てて暮らすらしい。竜宮城みたいな感じだろうか。
「完成した暁には貴様らを招待しよう!」
と自信ありげに言っていた。
「それに我は今回のことで思い知った。我はこれ以上アテナと共にいたら精霊であることを忘れてしまう。やはり我は人ではないのだ。この別れは彼女にとっても我にとっても必要な別れだ」
「でも、出会いは不要じゃなかっただろ?」
そうアウラさんが問いかけると
「それは断言できる」とヴィアちゃんは力強く頷いた。
「大精霊様に怒られるよなぁ」
「ロキはともかく、我らについてはあのお方から許可は出ていた。怒られるときはロキだけだ。うん」
「そのことなんだけど……」
私はルリと会ったときのことを話した。
彼女が大精霊様のふりをしてアウラさんに会っていたことや、私が城を出ることを妨害したこともだ。
「もしかして、和装だった?」
「えぇ。彼女は和装だったわ」
アウラさんは天を見上げる。
「……ゴメン。顔も声も全部同じだったから」
「お前が間違えるくらいには似ていたんだな」
「いつか捕まえて問い詰めないとならぬな」
どうやらルリと大精霊様はそっくりなようだ。
未来が視える大精霊と未来が視える少女。
姿だけだなく能力も似ている。偶然ではないだろう。
大精霊様に祝福されたのがルリなのだろうか。
そのことについて訊いてみると3人は揃って首を横にふった。
「大精霊様に祝福された人間は後にも先にも初代国王様しかいないはずだぜ」
「だがルーシェが言っていることも本当だろう」
「今回、大精霊様の妨害もしたと言っていたのだな。わざわざ大精霊のふりをしたり妨害をするとは……」
もしかしたら大精霊様もルリの存在を知らないのだろうか。
まずは大精霊様に確認する必要があるだろう。
3人も同じ結論へ至ったようだ。
「とりあえず大精霊様の元へと行くか」
「ルーシェも疲れただろう。大精霊様の元へ行くのは我らで済ませておくから、ロキはルーシェちゃんを家まで送るとよい」
「ありがとう2人とも」
「今度一緒に遊ぼうぜ!」
「うむ。いずれ新居に招待するからな」
2人と別れてロキと2人で屋敷まで歩く。
「こうやって2人でこの道を歩くのも久しぶりだね」
「そうだな。と言っても明後日にはまた教室で会うことになるけどな」
「えぇ、始業式で会いましょう」
この後はというと、屋敷に帰った私は土産話を期待して待ち構えていた姉と兄に捕まった。
馬車の中で事前に家族を誤魔化すための話を考えていたのは正解だったようだ。




