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ボクと私の人格考察

「精霊は気に入った人間のことは決して裏切らない。もし、精霊からの信頼に応えることができたら……この世界のどの人間よりも深い情を注いでくれるだろう」

__エルフィン王立図書館所蔵

「世界の神秘」より一部抜粋



「入るぞ」


 ルーシェの夢から退出したロキは、エルフィン王立魔法学園の学園長室にノックもせずに入室した。


 中にいた少女は、夜空のような深い青色の髪を三つ編みで2つ結びにしており、幼めな顔には丸メガネをかけ、クラシックなワンピースに身を包んでいた。

"学園長"にはあまり見えない。


「あなたがここに来ることは視えていましたが、一言だけ言わせてください」


ロキは確信した。一言じゃ済まないだろうと。


「今の入室の仕方は、深夜に訪ねて来る者の態度ではありません。あなたのおかげでボクは先程まで書類作成をしていたのです。そのことにも感謝し、もう少し年長者を敬うべきですよ」


 文句が一言で済んでいないぞ。と言うと鉄拳が飛んでくるということは、未来予知のできないロキにも分かることだった。


「悪い悪い」とロキは適当に返事をして来客用のソファーに座る。


「あなたの行動によってボクが拳を放つ未来は3秒後から100年後にズレました。今後も気を付けるように。

……雑談はここまでにして、あなたが森から出てまでこの学園の生徒になりたい理由を訊きましょう」


 学園長はロキが生徒になることを拒否することはなく、理由を訊いた。


 鍵を授ける時以外は森から出ない精霊が今はこの学園にいる。

学園長にとっては想定外の出来事であるため、すぐには入学の許可を下さないはずである。

けれど、拒否していないということは、ロキが生徒となり授業を受ける未来が視えたのかもしれない。


 ロキは学園長の立つドア側ではなく窓の外を眺めながら答えた。


「面白い人間を見つけた。そいつは1年生の炎属性のクラスにいる」

「ノーブル・エルフィンに求婚された令嬢のことを言っていますね。鍵を授ける時以外は人間に干渉することはなかったのに、何故関わろうとするのですか」


「悪影響を及ばさない限り、人間に関わることはいいですけどね」と呟いた学園長は自分の机の近くに置いてあった紙袋を取って、ロキが座るソファーの上に置く。


 中身はまだ一度も使われていない制服だった。


「別に深い理由はない。鍵が見えるのに王子からの求婚を断ろうとする令嬢は初めて見たから興味があるだけだ。お前こそ制服を用意してくれていたようだが、俺の入学を許可するということだろ? 何故だ」

「……未来とは運命と同じく可変するものなので断定はできませんが、今のままだと卒業するより前にルーシェ・ネヴァーは亡くなります」


 ロキは嘘だと思いたかったが、学園長の悲痛な顔を見たときに本当なのだと理解した。してしまった。

 つい先刻まで自分と話していた人間の死の宣告は、彼にとって中々に堪えるものだった。


「ご存じの通り、ボクの未来予知は視ようとして視るものではなく、ある日突然視えてしまうものです。もう少し細かく視たかったのですがそれは叶いませんでした」


「死因は恐らく他殺。ボクは直接干渉はできませんが、こうして伝えることはできます。学園長として罪なき生徒が亡くなるのを見過ごせないのです」


 学園長は遠くを見ていた。過去に喪った誰かのことが頭をよぎったのだろう。


「よってあなたが入学することは渡りに船なのですが……1つだけ忠告を」


 精霊は視線だけで「言ってみろ」と続きを促す。何を言われるのか分かっているようだ。


「教室という空間では生徒同士の嫉妬や憎悪などの負の感情が蓄積されてしまうものです。ボクはもう人間を祝福するなんてごめんですので、『運命の精霊ロキ』を保つことをいつも以上に心がけてくださいね。"悪竜"」


"悪竜"と呼ばれた精霊は紙袋を手に持ち無言で扉のノブに手を掛けた。そして


「今の俺はただの精霊だ。その心配は必要ない」


と言い残して学園長室を去った。


「はぁ、『大精霊は未来を伝えても良いが、自らの手で変えてしまうとエトワールから消滅する』なんて困った裏設定を決めたのは『私』です。別人とはいえ身から出たなんとやらです」


 穂乃果の人格を持ったまま生まれたルーシェとは違い、大精霊は『私』の記憶を持っているが人格は『ボク』だ。前世で体験したことも大精霊にとっては他人事だ。


「ホノカちゃん、なんだか精神年齢が16歳に戻っている気がします。それに、あそこまで明るい性格だったでしょうか……記憶とは少し違いますね」

「いえ、まずは彼女が死なないで済む方法を考えなければ」


 彼女が本当に主人公を傷つけた結果、死を迎えるのならば静観するつもりだったが、何の罪も犯していない彼女が殺害される未来は『私』の記憶を持つ者として見過ごせなかった。


「彼女はボクの大切な生徒たちの1人でもありますが……『私』の親友だったのですからね。殺されてしまうのは避けたい。あとは彼を信じるしかないですね…」


表舞台に上がらない裏側の存在ならば、その役目に徹するまで。

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