表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

実家での日常


 シバは罪に問われていた訳ではない。詐欺まがいの事をした事になって居るが、あの村の男性的には薄暗い事実しかない。外国商人籍なのでむしろ襲った側が咎められるのだ。売り飛ばそうとした事実はともかく。


 ムクルザードへの関所ではルーセントとミルカの二人のお陰で事なきをえた。彼女も襲われそうになった。酔い潰そうとして酷い奴らだ、と言う彼等を見て知り合い商人は二人が強くて返り討ちにあったと納得がいったらしい。

 なんとか便宜を図って貰えるようでほとぼりが冷めるまではやはりムクルザードで過ごすほか無さそうであった。

 新規ルートの開拓にでも勤しむ他なく、二人の働きぶりはいいものだったし基本的に二人は善人だ。護衛がわりにもなる為東への同行を申し出る事にした。


「新規販路の開拓?」

「そうそう。あたしは全土を商売して歩いてゆくゆくは四国の首都にでっかいお店を建てるんだから」

「なるほど。商店の女主人ってことか。夢があるな」

「でしょ? で。どう? あたしは四国全部の言葉が喋れるしお得でしょ」

「俺は構わないよ。

 東側の言葉もまた習わないといけないから。シドの教え方は分かりやすかったよ」

「うんうん! シドちゃん計算も早いし! ほんと凄い」

「えへへ、まあそれほどでも? 有りますけどね?」


 治療費も込めた慰謝料を友人に託したのでイズルーガのでの評判は時間と共に落ち着くだろう。それまでに東の販路でも作って良い商品を揃えて故国に帰れば良いと切り替えた。良い商人は切り替えが肝要だと自分に言い聞かせる。

 

 ミルカは外国が観れるとは思っていなかったので田舎への旅行だったが満足していた。仕入れた色々な(もの)を実家に持ち帰りたいと一度帰宅を提案した。

 ルーセントは少し考えて承諾し、三人は冬が近い事もあり三ヶ月後にクルカルシア国境に近い町ミーシアをで合流する事になった。

 その間シバは慰謝料回収のためなるべく単価の高くなる商品をかき集めると心に決めて走り出した。


 二人は故郷を目指し一週間ほどかけて北上する。雪の降り始めた地域を歩いてメイ用の飼い葉を買い溜めた。

 山沿いを歩くと温泉街が見え久方ぶりに温泉へと赴いた。この時期のこの街は最高と言って良い。暖かい湯に溶ける程浸かって温泉上がりに温めて飲む地酒を飲む。

 蒸した生地に細切れにした具材を載せて包んで食べる。蒸し包みという何の撚りもない名前で、熱い温泉源の多いこの地域ではよく食べられる。もちもち食感の生地にじわりと染み込む肉汁を勢いよく食べるのが最高だ。

 ミルカは暖かい酒をのんでふわふわしている。酔うのは珍しいが上手く酔う飲み方らしい。宿の主人は宿ではベッドを一つ借りてお互いで暖を取る。



 そう言えばこうするのは五年ぶりではあった。



 ルーセントにとってミルカは当たり前に一緒にいた兄弟だった。

 あまり広い家ではなかった。二人並んで寝て、冬場は二人で暖を取るのが普通ですらあった。

 村は平穏で農業が主体だ。芋を多く作って居るが畑を休ませる場所で羊の放牧も行っていたりした。


 彼女が怪力を発症したのは羊に体当たりされたのを持ち上げた時だ。村では若干騒ぎになったが、彼女の父親も同じ様な事ができるしその時は自分も出来ると思っていた。

 普通に力が付いてきたが彼女の様に軽々とは出来ない。それが不満でミルカと喧嘩した。それを見た両親は彼に本当の事を打ち明ける事にした。


 色々思う事があった。真っ白な景色を見て、この中に本当の自分を知って居る大人達が居て、自分だけ何も知らずに生きてきた。


 二人の事は本当の両親だと思って居る。それでも自分の異質さに気付いてしまった時にこの家族に自分は邪魔だったのかと思ってしまった。


 母方の両親は場所が分かる領主宅のようだったので会いに行く事にした。

 母とルーセントと言う名を出すと歓迎された。

 現当主の叔父ナーゼリックさんが母も行方不明な事を話してくれた。


 二人の性格で手紙も書かないのはおかしい。死んでいるのが妥当だとは言われた。

 そして母の息子としてこの灰の瞳が証明となり、同じ灰の瞳の叔父から騎士見習いの道を薦められた。本当の自分のルーツの確認が出来る騎士達の世界を知りたかった。

 旧知の仲であると言う者たちは皆顔も知らない父を褒め称え、君も立派になれると鼓舞してくれた。

 境遇は知れ渡っていたのだろう。皆厳しくも優しかった。

 雪国の騎士は強いと評判だったが、彼もまたその名が知れ渡っていった。


 体と心を育てるための三年が終了して、一度帰る様に薦められた。流石にいきなり出て来た事は謝りたいと思っていたし、心配して居ると言う手紙は多く貰っていた。

 赤ん坊から世話をしていたメイを賜って、二人で帰郷した。


 帰った時は大変だった両親には叱られ、泣かれ、兄弟にはひたすらに泣いて謝られた。そう言えば喧嘩別れの様になっていた事を思い出した。それを気にさせてしまっていたのならもっと沢山手紙を書けばよかった。申し訳ないと自分も心から頭を下げた。


 彼女は女性らしくなっていた。勿論女なのは知っていたが、家を出た時は遠目には女とわかる様な服でも髪型でも無かった。ルーセントが出て行ってから変わったらしく、お淑やかに女の子らしくしたいと思ったそうで大分丸くなった印象を受けた。朗らかに笑う彼女は村で人気なようだった。

 色々と迷惑をかけた事もあって彼女の結納金にでもしてくれと金を渡したが、いなかった間の迷惑料は叔父が払ってくれていたらしい。生活が困窮して居る訳でも無いので受け取れないと断られた。母はそれなら貴方が持っておけば良いのだと笑っていた。




 そんな人達のいる故郷が目の前だ。早朝の日を森の中で受けて伸びをした。

 皆元気だろうか。メイの引く荷車も長旅でくたびれて居る。春先には買い替えようと雪道を踏み締めた。

 深く積もる前に帰れた事に安堵しつつ放牧場に見える両親に声をかけた。

 冬が始まる季節に歓喜の声で出迎えてくれた。


「ただいま母さん」

「ただーいまー!」

「あらあら! お帰りなさい!

 手紙は貰ってたけど間に合わないかと思っちゃったわよ!

 メイちゃんもお帰りなさいねえ!」

「父さんは?」

「山の放牧手伝ってるわ」

「分かった。荷物運ぶよ。

 日用品とかもあるからトーガの婆さんとかに卸してくる」

「ウチ用のお酒もあるよ!

 これは家の蔵に入れとくね!」

「ありすぎじゃ無い?

 あんた内臓悪くするわよ?

 お父さんだって最近ちょっと控えてるんだから程々にしなさいよ?」


 家の土産分を先に下ろして、蔵に詰め込むとこの村唯一の商店に卸に行く。別の行商人が来て卸していたがどうせ冬の分はいくらあっても良いと言われる。下ろせる分を卸してしまう事にする。

 村長に挨拶をして商店に赴く。さらに精悍になったルーセントを歓迎して二人に子供はいつ作るのか詰め寄ってきた。

 田舎特有の若い子弄りだ。友人達も結婚したり子供がいると言うのを聞いて見舞いの品を持って行って婆さんの所で新しい品を卸した話など土産話で友人たちを楽しませると昼もすぎて早くに解散した。

 皆それぞれ夜の支度は日のあるうちに早くやらねばならない。

 ウチも例外ではなく、戻ると慌ただしい母をミルカが手伝いにいった。ルーセントも薪を運び込んでおいたり水を汲みに行ったりと便利に使われた。

 ルーセント達が帰った事は人ってに父にも伝わったらしく、揚々と帰ってきた父に二人とも抱きつかれた。何人かルーセント達の顔を見に来てくれた人達とも仲良く挨拶した。


 夕食は旅の話をした。合間にあった騎士の話などはかいつまんで騎士の仕事もして居る事を伝える。流石にミルカまで巻き込んでいる事は話せなかった。彼女が望んだとは言え褒められることではない。


「シバさんは見上げた良い人なのねえ」


 母は商売を止めてまで案内してくれた人情のある商人に感動していた。


「そうなの! 南の人で冬は嫌いみたいだからまた暖かい時に来てもらいたいな」

「同い年なんでしょ?」

「でもちっちゃくて可愛いの! 立ったお母さんの顎あたりくらい」

「そう。女の子としては負けてなさそうね。

 で、ルーセント」

「うん?」

「ミルカとはいつ結婚してくれるの?」


 母は強い。竜人を射止めた尻に敷いている言うのもあるがとにかく強い人だ。父は無言を貫いて居る。空気になるつもりの様だ。

 ルーセントを二人は婿にするつもりで育てた。居なくなった兄には腹も立てたが、ならばどう育てたって文句は言わせるものかと思っていたのだ。

 二人の思惑とは違って騎士になったがルーセントは変わらず優しさと強さを持った良い子で、常にミルカを心配していたのだ。


 精悍になってしっかりして帰ってきたそこにたわわに育った娘をぶつけた。しかも娘はメチャクチャ意識して一気に女になったなと思った。

 しかしルーセント。彼は兄の鏡の様な子になっていた。とにかく女性の好意に鈍感で善意に善意を返してしまう。

 村の半分以上の女を虜にしたまま村を出て騎士になり、嫁を連れて帰った時の村の女の絶望感たるや。あのお通夜の様な空気を思い出したくも無い。

 正直貴族家庭の孫なので何かしら許嫁などを貰ってくる覚悟はしていたが、意外にもそれはなくストイックに騎士として育って帰ってきた。


「いや、俺たちは兄弟で」

「私は夫婦になってもらうつもりで育ててたわ。ね、アナタ」

「うむ」


 逃げ場がないと冷や汗を掻くルーセント。ミルカはチラチラもじもじと彼を見て居るので満更でもないのだろう、傷つけず断る理由も見当たらない。


「……うーん。ミルカには感謝してる。幸せになってほしい。ただ俺について来てしまって危ない目に巻き込まれるのが良くないと思ってる。ミルカは強いし俺も守る気はあるけど心配だからね」

「だからあんたそんなふわふわした事言わない!

 男ならずっと守る、一緒に居ようでいいのよ! ねえ!」

「うむ」


 父親に対して胡乱な眼を向けたが、年貢の納め時が来てしまった。食事の後にミルカとちゃんと話す事を約束して食事を終えた。ミルカは買って来たお酒を一気に飲んで先に部屋に戻って行った。二人の部屋は一緒なのだ。


「ミルカ、入るよ」

「うん」


 どうしてもお酒の力を借りたいらしい彼女のそばに酒瓶が並んでいた。ランタンが淡く部屋を照らしていて、部屋には一つしか布団が準備されたベッドが無い。


「話そうか」

「ウチは、もうルーと離れたく無いよ。

 一人で過ごすと、ここ寒いんだよ」

「分かってるよ。じゃ、寝て話すか。寒いし」

「うん。新しい布団おろしたんだ」

「良い布団だな。ミルカ、昔の話からしよう」

「うん」


 普段から色々と話はする。

 恋愛には向いてないルーセントは色付く彼女に困惑していた。丁度わんぱくな彼女の印象のまま家を出たのも手伝って、兄弟と言う意識は抜けなかった。


 しかし育った彼女は女だった。献身的で体も女性らしい。この三年近くは一緒にいて楽しかった。

 艶のある茶色の髪を撫でて抱き込んだ。


「……どうやら俺もミルカと一緒に居たいらしい」

「ホント?」

「うん。俺は鈍いから世話をかけると思う」

「いいよ。ルーだもん。ウチの」

「結婚は春に挙げてから移動でもいいがどうする。

 暫くは腰は落ち着かないぞ。またハルセントの手がかりが消えた訳だし」

「まだ探す?」

「探すよ。俺は宝玉にもちょっと興味あるし。別にハルセントが勇者だろうがなんだろうが良いんだが。宝玉集めて世界でも救ってるなら納得する」

「世界を救ってるなら仕方ないね」

「そう思える日が来るといいな。

 将来を見据えた動きなんか出来てないから俺は良い男じゃ無いぞ」

「別に。ルーが困ったらウチが助ければ」

「そっか。ミルカは良い女になったな」

「ウチ、絶対嫌われたんだと思ったよ。ずっと、なんで優しく出来なかったんだって、力なんか要らないから、ずっとルーに帰って来て欲しかった」

「俺はショックだったんだ。本物だって思ってたものが違うって言われて、今までが全部否定された気がして。

 騎士になって叔父さんに心を育てられてやっとそのままで良かったって気付いた。

 ずっとみんなの事は心配だったけど、馬鹿みたいな行動で居なくなったから呆れられただろうなって思ってさ」


 勝手に想像して勝手に嫌われたんだ事になっていた。それはお互い様な事で何か変わった訳では無い様だった。

 騎士課程を行く事は手紙で知らされて驚いた。両親は兄嫁の家を頼る気は無かった。終わったら戻す旨は通達されていてそれまでに女性らしくなりたかった。

 垢抜けて、告白などを受けたがそれは断ってルーセントを待った。精悍な青年になった彼にまた惚れ直した。


 成り行きは母に話した。

 取り敢えず収まって安心だが腰は落ち着けてほしいらしい。


「兄さんのことは無理に探さなくて良いと思うの。

 だっていきなり剣で身を立てるって冬の時期にお金置いて出て行って、家族のお嫁さん貰って帰ってくる変な人よ?

 本人達に何がったにせよ、子供を預けて消えたんだから、生きてたらあたしが承知しないわ。説教よ説教。

 貴方にはそんな人になってほしく無いわ」

「まあ、同じ事をする気は無いよ。

 だから諦めてミルカは連れ歩く。行商でも結構稼げてただろ?

 俺も騎士仕事で飛び回るし、一緒に居てくれる気概は見せてくれたよ」

「心配だわ〜」

「俺もその気持ちはあるから待っててほしいんだけどね」

「ダメダメ。ホントどこ行くか分からないんだから」


 次の旅は本当に夫婦として巡る事になりそうだ。

 育ててくれた二人に恥じない様に生きたいと思った。


 ルーセントの考え方には父が理解を示してくれた。

 母は疑問視しているが父をしてあれほどの男が居なくなるのだからよっぽどの事態だと思って居ると言う。それこそルーセント達の言う世界を救うために身をやつして居るなら納得できるとすら言った。


「父さんはどうして竜人の血があるのにこんな田舎に?」


 竜人は身体能力が段違いな事から首都で重用されて居る。ここで暮らして居るのは隠して居るのだ。バレると徴兵されたりもする。


「首都は嫌いだったからな。田舎の方が性に合う。

 元々私達からすれば人間は庇護対象。守る人間は近しく生きる者の方がいい。都会は分かりづらすぎる」

「まあ、わかるよ。北方騎士隊の練習は分かりやすかったけど、合同演習だと蹴落としあいだったし」


 騎士の世界も上に行くには目立つ必要がある。

 成果をアピールするのは理解できたがわざわざ誰かを下げる必要はあっただろうかと問いたくなる場面もあった。

 実際問いただしてみた所で何か変わるでもなかった。貴族も混ざる世界で口先でも勝てねば名を汚されるだけだ。


 羊を眺めながら思う。

 ここでその生活を続けていればそんな世界は嫌だと思っただろう。


「ま、なる様になる。

 俺は二人が夫婦になるのは嬉しいよ。仲良く旅を続けてくれ。妻には俺がみて来た世界を見せることは出来なかったが二人はいろんな世界を見れるだろう。

 それは将来を豊かにしてくれる光景だ。

 俺はお前達はそれで良いんだと思ってる」


 母さんには内緒だぞと肩を叩かれる。

 自分が後悔しない為にも必要な事である。でも、そんな事にとらわれず自分達を豊かにする為に旅をしろと言った。

 商売の駆け引きに負けたり、流行をうまく追えなかったり。

 商人としての身分でも色々ある。

 成長を信じてくれる彼らに感謝して早朝の放牧から帰った。


 婚約の話は出回ってしまってもう外堀は平地となった。なる様になれと言う心境でルーセントは何度目かの祝福を受け入れ、その姿にミルカは満足顔であった。




 一週間が過ぎ、穏やかに過ごしたが、太陽も昇る少し前の朝っぱらから家の戸が叩かれた。その日は両親が放牧の方に仕事に出ていて、ルーセントとミルカはゆっくりする日だった。


「ルーセントは居るか」

「はい。――ああ、雪の中お疲れ様ですマーカスさん!」

「ははは! 一年ぶりだルーセント!」

「取り敢えず中へどうぞ」

「ありがとう」


 マーカスは領主付きの騎士だ。肘を悪くしてからは積極的に足を使う仕事を行なっており、手紙を届ける仕事はよくやっていた。重要な書類等全てを預かるベテランである。


 客用の椅子は一脚あってそこを薦める。朝食準備で暖かいスープを作っていたのでそれを取り分けて飲んでもらう事にした。


「ありがたい。ルーセントの嫁か? ん?」

「はい」

「はい!!」


 ルーセントが頷くと倍ぐらいの声がミルカから出た。


「おおぅ、元気な嫁さんだな。そうか、頑なに見合いを固辞するからナーゼリックが許嫁を用意しようとしていた所だ」

「もうウチの旦那なんでダメです!」

「ははは」

「丁度定期用に手紙を書いてましてそこにこの婚約者の事を書きました。言葉添えしておいてくれると助かります」

「任せておけよ。美人で元気な嫁さんじゃないか。ルーセントは大丈夫だと思うが大事にするんだぞ」

「はい。誠心誠意尽くします」


 美人な嫁という事に気をよくしたのか、良い茶葉のお茶も出てくる。


「まあ、新婚な所にすまんが、これを読んでくれ。

 灰騎士センカの方に依頼だ」

「拝見します」


 灰騎士センカは色々な身分から重用されて居る。

 依頼としてくるのは基本的には手の汚れる仕事だ。こんな冬真っ只中に来る仕事は何かと目を凝らした。


『中央の赤鬼狩り』


 そう一筆ナーゼリックの筆跡で書かれていた。

 直接的な依頼は初めてではない、が――。


「……すぐですか」

「ああ。単騎で城が受け入れてくれる。

 依頼主は、わかるな」

「はい」


 陛下が動く必要が出た。そのくらいの事を考えているという事は赤鬼将軍が陛下を蹴落としに来たのだろう。


「ウチも行く」

「今回はまずい。首都までは大丈夫だが、王城は騎士か貴族しか入れない。使用人も確か貴族級だけだ」

「ぶう」

「……そうだな、すまんが」

「いま、何か思いついたでしょ」

「そんな事はない……」

「ルー?」


 嘘が苦手なルーセントの目を見てにっこりと笑う。

 すぐに根負けしてルーセントは話し出した。


「……センカの中身の話は出回ってないからな」

「ウチがセンカでルーセントが世話役騎士をしてくれればいいわけね!」


「話には聞いてたが本当に嬢ちゃんなのかい?」

「そうですよ! ウチがカヒカの領門守備やりました!」

「ありゃ一人で千五百人止めた大金星だぞ……」


 センカとルーセントで十人ばかり斬って足を止めさせてルーセントが右翼に声を上げさせて敗走を始めたのを騎竜メルと追い込んだ。左翼隊が展開して右翼隊と囲い込んで圧殺し勝利した。戦略差は三倍だったがほぼ壊滅させ勝利した。

 ミルカは剣を杖にして立って眺めていたら終わったのだ。甲冑は暑いし初めての戦場で怖かった。

 灰騎士センカは立って居るだけで一騎当千などともてはやされた。


 勿論灰騎士センカの名声のために大きく喧伝されて居るだけでほぼ戦場騎士たちの勲功だ。センカには箔がつけば良いのでナーゼリック達が大きく喧伝して居るわけだ。

 そしてめでたく陛下からの極秘依頼が来た。


「でも流石に謁見もあるしな」

「ルーセントがやればいいと思う」

「キモ座りすぎじゃないか? 陛下の前に出るんだぞ」

「大丈夫大丈夫! 偉い人なんでしょ?」

「うーん、大丈夫かぁ?」

「ダメだと思います……」


 謁見の前には部屋で休ませてもらおう。そこで入れ替われば何とかなるか……。

 この女はもうついてくると言ったら付いてくるとわかって居るので最初から折りこんでおく事が必要なのだ。一度戻っての最初の旅で旅荷全部出されて鞄に入り込まれていた時に分かった。メルだけは最初に気付いて、その荷物を庇う歩き方をしていた事で異変に気づいた。彼の着替えは家に放置されていた。


 灰騎士センカの大舞台が年の瀬に幕を開けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ