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1952.11(米)アダムスキー、金星人と遭遇(?)【前編】


 ◇


「では、頼んだよマース」

「お任せください、ローズウェル様」

 少年執事のマース君が頷いた。

「私、任せられちゃうの?」

「そうですよ、はい。グレイアさまはこちらへどうぞ」

「年下に子供扱い……」

 少年執事くんに背中を押され向かったのは、ローズウェル伯爵邸の門の先だった。

 薔薇や季節の草花が咲き誇る庭を抜け、鉄製の門をくぐり抜ける。

 そこに立派な二頭立ての馬車が用意されていた。


「これに乗っていくの?」

「はい。街もお店も僕が案内します」

「お姫様になった気分」

「大袈裟ですね、普通ですよ」

 普通。

 貴族の普通と、貧乏庶民出身の私とでは普通の感覚がずれているときがある。

 街までは近いし、歩いてもいいのに。


 伯爵邸は王都ネオ・メタノシュタリアの郊外に位置している。

 付け加えるならここは広大なティテラシア大陸の東側、神聖メタノシュタリア王国の王都です。

 庭先から見えるのは白亜のお城、キラキラと輝く神威水晶城(カムナクリスタル)

 見るものを圧倒する荘厳なお城を中心に、真っ白で巨大な建物がいくつも見える。魔法の人造大理石によって組み上げられた巨大建造物は、王国議事堂や王立図書館、競技場などなど。

 その周囲には人々が暮らす家々が立ち並び、巨大な都市を形づくっている。

 ローズウェル伯爵邸は王都から少し離れた小高い丘の上にある。周囲は緑に囲まれて閑静な雰囲気。もう少し街から離れると麦畑や果樹園が広がる農村地帯が延々とつづいている。


「ここから歩いても気持ちいいのに」

 天気もいいしのんびり王都まで散歩したい。歩いてもそんなに遠くないし、商店の立ち並ぶ区画まで小一時間もかからないだろう。


 買い物にいくだけなのに馬車が用意されるなんて、流石は貴族というかなんというか……。

「伯爵家の体面というものがございます。それにグレイアさまはお弟子様ですから」

「絡まれちゃうもんね」

「それもあります」

 マース君が苦笑する。

 実のところ私の日常はそんなに平穏でもない。


「何かと面倒ごとに巻き込まれるのよね」

「仕方ありませんよ」

 しれっとした調子のマースくん。


 他の貴族がお抱えの魔法使いや魔女、あるいはその弟子に、腕試しを挑まれることがある。

 七賢者のお一人、ローズウェル伯爵は偉大なる魔法使いであることは皆が知っている。故にその弟子である私はいったい、どれほどのヤツかと興味本位で勝負を挑んでくるのだろう。

 先日も伯爵家の近くを流れる川で散歩――故郷を思い出して魚捕りに興じていたのだけど――していると、魔法使いが現れた。

 俺様はナントカカントカ! と名乗っていたけど覚えていない。貴族お抱えの魔法使いらしいおじさんが、私に勝負を挑んできた。

 頭おかしい。

「不審者……!」

 普通に考えたらキモイでしょ。

『な、なめるな小娘が……!』

 いきなり炎の塊を投げつけてきた。

 もう、めんどくさい!

 私は防御魔法(シールド)で相手の魔法を叩き落とした。

『なにいっ!?』

 驚いた様子の変質者。

「ソーンシュラブ」

 いばらの魔法。

 私は地面からトゲつきの蔓草(つるくさ)を無数に生やし、がんじがらめにしてやった。

 何か叫んでいたけれど、その場に放置。

 きれいな花を咲かせる土の肥やしにでもなれ。


「仕方ないわね、馬車でいきますか」

「そうして頂けると」

 うーん。

 山道や森を歩かない貴族の暮らし。

 美味しいご飯に、三時のおやつ。

 このままでは太りそう。

 思わずお腹のお肉をつまんでしまう。


「もしかして、私を肥えさせて食べようとしている?」

「何をおっしゃっているのか、よくわかりません」


 せっかく今から買う服が、すぐに着れなくなったら困るじゃん。

 今日はいつもより気合を入れて身支度をした。

 若草色の髪を丁寧に整え、サイドに髪飾り。

 服装はいつもの「魔法使いの弟子」用の制服だけど、これだって悪くない。

 白いシャツの上に濃い緑色の燕尾ジャケット。袖や襟に銀色の縁取りがあって高級感が素敵。

 スカートも同色のチェック柄でプリーツタイプ。上品でちょっと可愛い。

 左胸にはローズウェル伯爵家の家紋が刺繍されている。これで杖を持てばどこから見ても「伯爵家に仕える若い魔女」というわけ。


「今日はオフだから杖は持たない方がいい?」

「それは……おまかせします」

「やっぱり持とう」

 神聖文字が彫り込まれた杖はお守り代わり。持たないとなんだか落ち着かない。それに不審者をぶっ叩くのにもちょうど良いのだ。


「では、どうぞ」

「お……ありがと」

 美少年執事のマースくんが、すっと私の手をとって、エスコートして客室に乗せてくれた。

 こういうところは流石だなぁ。

 マースくんぐらいの年の男子って普通、女子の手を握ったら照れるよね。

「あの……?」

「指先、細いし爪もキレイね」

 うへへ。

 私はマースくんの手をすりすり。

「はっ、放してください……!」

 流石に顔を赤くして手をひっこめられた。

「ちぇっ」

 なぁんだ、ちゃんと照れるのね。

 マースくんと向かい合って座ると馬車は動き出した。


 車窓からは空と街並みが見える。

「マースくんってさ、メイドさんの中では誰が好み?」

「い、いきなり何を!?」

「いーじゃん、教えてよ」

「別にそんな」

「いいから、ここだけの話にしとくからー」


 私はマースくんと、たわいもないおしゃべりに興じることにした。


 ◆


「さて」

 弟子のグレイアを少年執事のマースに任せ、ローズウェル伯爵は庭先で魔法を準備し始めた。


 七賢者の一角が動き出した。

 他の魔法貴族の暗躍、新天地地球(テラ)を巡ってし烈な暗闘がはじまろうとしている。


 慎重に空から観察をつづけてきた地球(テラ)

 それが今やアメリカ合衆国では空に警戒の意識を向けつつある。

 彼ら地球人(テラート)とは敵対したくない。

 にも拘らず、他の七賢者が下手に地球人(テラート)を刺激することで、警戒心が生まれ敵だと見なされかねない。

 それは避けたい。地球人(テラート)の工学技術も日進月歩。魔法に頼れない世界で、独自の進化を遂げつつある。

 そしてついには元素崩壊を利用したエネルギー兵器、つまり核兵器さえも手に入れた。それは危険きわまりない。元素の崩壊による次元振動を引き起こし、多元世界に影響を及ぼす。

 なんとしても乱用は阻止しなければならない。


 先手を打つ必要がある。地球人(テラート)の意識をそらし、警戒心と攻撃的な意識を分散させたい。

 そのためには撹乱する必要がある。


 ローズウェル伯爵は、人間そっくりの人造生命体(ホムンクルス)を練り上げた。

 金髪に少しとがった耳。グレイアをモデルにしたホムンクルスを。

 これに銀色の対汚染防護服を着せる。


 グレイアは有能で可愛い弟子だ。

 将来性もあり、後継者として申し分ない。

 だから危険からは遠ざけたい。

 脅威となる可能性は事前に手をうっておくべきだと考えた。


「君にまずは地球人(テラート)とのファーストコンタクトを試してもらおう」

『……わかりました』


<つづく>

【ワンポイント解説】


 地球上で目撃されるUFO、あるいは遭遇したという宇宙人はさまざまだが、いくつかの系統に分類されるという。

 グレイあるいはその上位種族とされるラージノーズグレイ。

 トカゲを思わせるは虫類型のレティキュリアン。

 金髪に碧眼、やや小柄だが人間に近いノルデック、または金星人など。

(諸説あり)

 他にも多種多様な形状の宇宙人と遭遇したという証言は枚挙に暇がない。

 これらはすべて魔法貴族(ローズウェル伯爵を含む七賢者)の一部が送り込んだ人造生命体ホムンクルスまたは「本人」である。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔法の弟子であるグレイアを少年執事のマースくんに頼んで街に連れ出して何を暗躍するのかと思いきや、ローズウェル伯爵は弟子の身を案じての行動でしたか。 どんな暗躍をするのかと期待していたのです…
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