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1947.07(米)ロズウェル事件、円盤墜落(中編)


「もうすこし可愛い服にしてください!」

 私は少しふくれっ面で訴えた。

 せっかく『地球(テラ)』の探検に行くのだし、おしゃれしたい。もし、向こうで地球人(テラート)と友だちになれば、パーティにお呼ばれされるかも。その時にも恥ずかしくない服がいい。


「確かに……グレイアの言うとおりだ。機能性を重視するあまり、面白……ぷっ、いや、先進的になってしまったね」

 さっきまで爆笑していたローズウェル伯爵は、なんとかクールな表情をとりつくろった。でも私の銀ピカな全身タイツ姿を見て、笑いをこらえているのはあきらかだ。

「うー」


「実は『地球(テラ)』は危険なんだ。少し前に物質の元素(マナ)を人工的に原子核分裂(・・・・・)させた兵器、爆弾が炸裂したらしい」

 ローズウェル伯爵は真剣な顔つきになった。

 私にはなんのことだかさっぱり。でも服の話をしているのではないことだけはわかる。


 伯爵さまは手のひらで空中に円形の情報表示魔法(ウィンドゥ)を展開。そこに映像を表示した。

 次元跳躍型の遠視魔法(ズーミィ)で捉えたものらしく映像は粗い。でも眩い閃光のあとに、不気味で巨大なキノコ雲がたちのぼるのが見えた。


「原子……核分裂?」

「毒の光を撒き散らす、恐ろしい爆弾だよ」

「ばくだん……」

 地球人(テラート)は魔法は使えないくせに、こんな恐ろしい武器を使うんだ。少し怖い。


「撒き散らされた未知の光源毒素(※放射能)から、君の身体を守る必要があったんだ」


「……心配してくださったんですね」

 これは毒から身を守るための防護服なんだ。

「大切な弟子を、危険な目にはあわせられないからね」

「お師匠さま」

 青い瞳で真剣に見つめられ、私は全身銀色タイツのまま赤面、くねくねしてしまった。


「すまなかった。発想と方針を変えよう」

「どんなふうにですか?」

 まさかスカートをつけるとか言いませんよね?


「まず、君が直接行く前に、もう少し無人の『飛行魔法結晶体(エンジェリング)』を飛ばし調査するとしよう」

「以前、それを試しましたよね。遠隔操作でうまく対応できませんでしたし」

 最初の頃、調査目的で無人の『飛行魔法結晶体(エンジェリング)』を何度か地球側に飛ばし、いろいろなデータを採集した。

 でも複雑な動きはできないし、すぐに魔力を失って消えてしまった。


「今度は人造生命体……ホムンクルスに行かせてみようと思う」

 人造生命体、ホムンクルスは一種のゴーレム。

 違いは魔力で遠隔操作するのではなく、擬似的な脳に行動のパターンを仕込んでおける。

 人間の子供程度の動きが可能なので、単純作業に向いている。戦場では足止めと時間稼ぎのために、大量の人造生命体(ホムンクルス)兵を放つ場合もあるらしい。


「なるほど! あらかじめ私と同じ反応ができるよう、仕込んでおくんですね」

「そのとおり。グレイアも手伝ってくれるか?」

「はいっ!」


 私たちは人造生命体(ホムンクルス)を造ることにした。

 お屋敷の魔法実験室で、お師匠さま――ローズウェル伯爵が基本的な構造を練り上げる。

 人間型の小人は、身長1メルテ(1メートル)ちょいの子供サイズ。

 それを三体ほど魔法で育成、あとは私が人間としての動きの術式を仕込んでゆく。

 魔法実験室に二人きり。

 二人の共同作業。

 二人でつくる小人。まるで……子供をつくってるみたいな。

 いかん、興奮してきた。

「……ぐふっ」

「グレイア、魔法が乱れてる」

「すみません」

 思わず内股になってクネクネしてしまった。


「できましたね!」

「うむ、こんなものだろう」

 小一時間ほどで出来たのは、小人型ホムンクルス三体だ。

 洋梨を逆さまにしたような大きな頭、全身は灰色で無毛。手脚は細くて頼りない。けれど筋肉を付ける必要も無い。最低限の動きができればいいのだから。だから心臓や肺も簡素。情報処理の関係上、脳と目だけは大きめ。だから頭でっかち。

 口はスリット状。水も食べ物も摂取しないのだからこれでいい。


「あまり……可愛くない」

「美的センスは二人とも無いみたいだね」

「そうですね」

 苦笑する私とお師匠さま。

 ちょっと共通項があって嬉しい。


「この子たち名前はどうしましょう?」

「そうだね、魔術的に名前を与えないと動作が安定しないし。グレイアの弟みたいなものだから、リトルグレイアでどうだい?」

「じゃぁ『リトルグレイ』で」

 フルネームはなんだかアレだし、一文字カット。


 こうして出来上がった三体のリトルグレイを私は得意の『飛行魔法結晶体(エンジェリング)』で包みこんだ。

「いってらっしゃい!」

 がんばってね、グレイくんたち。

 オレンジ色の円盤が、青空へと舞い上がる。

「転送術式、励起」

 ローズウェル伯爵が魔法で、次元の壁を跳躍させる。そして『地球(テラ)』へと送り込んでくださった。


「さぁ、向こう到着するまでお茶にしよう」

「賛成! 今日のおやつは何かなー?」

 私は嬉しくて思わずスキップ。

 先日はチーズケーキだったし、今日はイチゴタルトが食べたい気分。


「……グレイア、まず着替えてきたらどうだ?」

「んはっ!?」

 振り返ると伯爵が含み笑い。


 しまった。

 銀色タイツのままでした。


<つづく>

【ワンポイント解説】

・ロズウェル事件。

 1947年7月、アメリカ合衆国ニューメキシコ州ロズウェル付近にて、墜落したUFOが米軍によって回収されたとされる有名な事件。

(Wikiより)


・原子爆弾(人類初の核実験、トリニティ実験)

 1945年7月、アメリカ合衆国ニューメキシコ州アラゴモート空軍基地近郊の砂漠にて実施された。


・リトルグレイ

 エイリアンとして有名な灰色の小人型宇宙人。

 大きな頭、黒目、全身は無毛。銀色のタイツ状スーツを着込んでいる。

 呼吸器のようなものを鼻に装着した「ラージノーズグレイ」も存在するらしく「上位種」という説もある。


 2011年にFBIが公開した資料には、未確認飛行物体(宇宙船?)の破片を回収した、宇宙人を目撃したという記録、およびロズウェル事件に関する記述も散見される。


※ロズウェルで起こる一連の事件は、グレイアとローズウェル伯爵が暗躍、宇宙人とされる遺体も「人造生命体ホムンクルス」というのが真相である。


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[良い点] ※ロズウェルで起こる一連の事件は、グレイアとローズウェル伯爵が暗躍、宇宙人とされる遺体も「賢者ググレカス」というのが真相である。
[良い点] 銀色の怪しげな衣装を着せられたグレイア。 伯爵さまが呪詛を放つと、似非宇宙人のグレイに変身する話だと思っていたのですが、そして中編ということで、生体解剖は後編に持ち越されたのか!? と考え…
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