表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/38

伯爵さまの冴えたやり方


「これって『次元回廊(ポータル)』ですよね」

「あぁ、実に見事なものだ」

 私とローズウェル伯爵様は空を見上げていた。

 ここは、ネオ・メタノシュタリア郊外、イスラヴィアへ向かう街道の途中。その空に突如、次元回廊(ポータル)が生じ、ぐるぐると渦を巻いている。

 魔力の目を通して眺めると、地球(テラ)へと通じる次元の通路に違いない。


「天然モノでしょうか?」

「いいや。おそらく何者かが地球(テラ)の、それも何百年もの過去(・・)に跳躍し、干渉した結果として生じた人工物のようだ」

「何者かって……」

 何百年もの過去へ跳躍する魔法。そんなことが可能なのだろうか?

「時間の流れに逆らい、因果に干渉。最初からここに存在したことになっている」

 お師匠様の素敵イケメンな横顔をぼーっと見つめながら思案する。

 そんな魔法を使えるのは七賢者クラス以外には考えられない。


「そもそも時間跳躍魔法なんて……禁呪ですし」

「禁呪どころか、存在さえ信じられていない。失われし『(いにしえ)の魔法』に属する神話級さ」

「そんな事ができるのは」

「あの人しかいない」

 顔を見合わせる。

 思い当たるのはお師匠様のお師匠様、最恐魔女のレプティリア・オリオンヌ。あの人しかいない。


「おそらく次元回廊(ポータル)は、過去に繋げたのだろう。それが我々のいる世界の時間経過に伴って、無数の可能性……時間軸へと分岐している。川に投げ入れられた石の起こす波紋のように、未来へと影響を及ぼすから」

「んー? わかったようなわからないような……。いずれにしても、地球(テラ)に行ける便利な近道が出来たのなら歓迎です」

 ここはお屋敷からも近い。数十分も飛べば到着する上に街道からも離れ、人目にもつきにくい。

 

「プレゼントに感謝しよう」

 お師匠様、ローズウェル伯爵様はなんだか嬉しそうに天空の渦を眺めている。

「そうですね!」 

 何処の誰かは知らないけれど、有りがたく使わせてもらいましょう。


「グレイア、行ってみるかい?」

「そうこなくちゃです」

 早速行きます、だって冒険は楽しいから。

 地球へ向かう次元回廊(ポータル)なら、どこでもいい。

 できれば「日本」がいいな。

 集めた遺物、印が示す最後の地。

 複雑な次元断層の折り重なる、地球上のパワースポットのひとつ、日本列島。大きな大陸の東の果てにある日本へ潜入し、色々なことを知りたい。

 それがお師匠様から与えられた、当面のミッションなのだから。


「グレイア。僕の夢……野望と呼んでもいい。それを君に話しておきたい」

「お師匠さま……?」

 空を見上げていた綺麗な瞳が私を見つめる。


 以前、話してくれたこと。地球人(テラート)を調べてやがては移住したい。

 進化の秘宝『賢者の石』を探し、地球人(テラート)の活力の源を知りたい。

 お師匠さまはそんなことを話してくれた。

 それとは別の野望って……?


 地球を訪れている人たちはみんな目的を持っている。

 光毒素で地球(テラ)が汚染されぬよう、警告を与え正しき道へ導きたいという聖女プレアデス様。そのお手伝いをするアルクトゥス。

 地球(テラ)は遊び場と(うそぶ)き、魔法の痕跡を探す魔女、レプティリアさん。そして自由気ままに地球(テラ)を訪れて美味しいものを味見しているミナティ。

 それぞれ表向きの目的に過ぎないのかもしれない。

けれど私だって地球人(テラート)の行く末、未来に興味がある。


「あはは、そんなに身構えないでくれるかい、グレイア」

 ローズウェル伯爵様は子供みたいに微笑んだ。


「私、難しい顔してました?」 

「にらまないで」

 指先が私のほほに触れる。

「は、ひ」

「ほんとうにね、あぁ……。うん、たいした話じゃないんだよ」


「……そうなんですか? だったら、その……気楽に話してください」

「そうだね。きっかけは……僕が子供のころに読んだ、とある秘密の日記みたいな『本』なんだ」

「本ですか?」

「うん。最初の賢者、ウィキミルンを名乗った魔法使いは、実は地球人(テラート)だったらしいんだ」

「ほんとですか!?」

 伝説の魔法使い。全ての情報系魔法の開祖として知られている。それが地球人!?


「かなり発達した世界から、知識と概念を持ち込んで、魔法の世界で再現しようとした。それが今の魔法通信技術や魔法の情報記録、解析系魔法の基になった」

「それは……習いました」

 魔法学舎で学んだと思う。寝てたけど。


「その最初の賢者ウィキミルンは、自分が育った環境、暮らしが魔法のアイデアの源だと書き記しているのさ」

「初耳です。学校でも教えてませんよね?」


「もちろんさ。だって我が家に伝わる古い古い……書物、いや見た目はボロボロのノートなんだけど、それに本人の直筆で書かれているのさ。……地球の日本語でね」

「え、えぇ!?」

 私は軽い衝撃をうけた。

 だから魔法のルーツを探していた。

「じゃぁ、つまり」


「彼の、ウィキミルンの偉大なる魔法、アイデアの源そのルーツ、それは日本の生活、しいては『学校生活』に秘密があると見た」

「学校……!」

「それを君が確かめてくるんだグレイア。体験し、楽しいこと、素敵なことを体験し、秘密を見つけてきてほしい。それが、僕らが求めて止まない魔法の真髄、つまり『創造力』の源なんだ」


 私の両肩に優しく手をおいて、おなじ目線の高さに膝を曲げ、ローズウェル伯爵様は言った。


「それが、お師匠さまの野望?」

「そ。楽しそうだろ?」

 悪戯っ子みたいな顔でウィンクする。


 地球(テラ)の日本、それも学校に潜入して体験する。それって……めちゃくちゃ楽しそう!

「はいっ! やります!」

 私はおもいきり頷いた。


 するとお師匠さまはすっと背筋を伸ばし、前髪をかきあげて、

「……ま、こんな肩書きのある立場になると、いろいろ面倒でね……。何事にも仰々しい『建前』が必要なのさ。さも凄いことをしています……みたいな」

「あ、なるほど」

「だからグレイアに僕の野望を託すよ。二人だけの秘密のね」

「任せてください」

 

「我ながら、冴えたやり方だと思うけど。どうかな?」

「そうですねぇ、回りくどいですけど。誰にも気づかれませんね」

「うんうん」

 優しいお兄さんみたいな雰囲気で、お師匠はニコニコしていた。それが嬉しくて、楽しくて。


 と、その時だった。


「んっ?」

「えっ?」

 二人でほっこりとしていると、次元回廊(ポータル)から魔力が激しくスパーク。空間が歪み黒い円盤が飛び出してきた。

 小さな黒光りする円盤だ。

飛行魔法結晶体(エンジェリング)……!」

「もう一機くるね、もっと大きい」

 今度は黄金色のシャンデリアみたいな形の飛行魔法結晶体(エンジェリング)が飛び出してきた。

 上空でぐるぐると旋回しながら追いかけっこをしている。

「あの魔力波動……ミナティとアルクトゥス!」

「お友だちだね」


『おー!? グレイア、助けてなのダー!』

『お待ちなさい、ミナティ! 違法ポータル貫通容疑でジャッジメントですわ! 電撃百回の刑!』

『死んじゃうのダー!』

『建前上、そういうことにしといてくださいまし!』

 ビリビリと雷撃を撒き散らし、あちこちで爆発が起こる。


「わー!? こっちに来る!」

「やれやれだ」

 私はお師匠さまが展開した飛行魔法結晶体(エンジェリング)に包まれた。二人でこっそりと上空の次元回廊(ポータル)を目指す。


「あぁ、偶然巻き込まれてしまったー」

「仕方ないですよねー」

 肩を寄せ合って笑いながら、私たちは地球(テラ)へ向かう。

 この先に何が待っているんだろう。

 私はワクワクが止まらなかった。


<つづく>

次回、最終回!


 ふたりは「日本」へ――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 次が最終話ですか。 巻き込まれた形を取りつつ、とうとう七賢者の一角である伯爵さまがグレイアと共に地球へと。 何やら学園生活を楽しみたいようですが……。 因みに最初の賢者ウィキミルンとは一体…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ