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1954.10(伊)フィレンツェサッカー試合中断事件


「おー? 傷が治ったのだ」

「ふふん、当然ですわ! 私は聖女さまの寵愛を一身に受ける第一の眷属アルクトゥス。治癒魔法ぐらいお茶の子さいさい……」

 額に触れて傷が消えたことを喜ぶミナティに、ドヤ顔のアルクトゥス。

 ミナティの額に出来た傷は意外に深く、自然治癒するのに時間がかかっていた。

 それを見かねたアルクトゥスが治癒魔法で傷を塞いであげたのだ。


「って、聞いてるの!? 聖なる私の奇蹟の力に感動するなり感謝するなりしなさいよ!」

「あー……ありがとうなのだ、アルクトゥス」

「感謝が足りない!」

「どうすればいいのダー?」

「額に傷ができるまで頭を床にこすりつけなさい!」

「えー?」

 ミナティとアルクトゥスのコントが繰り広げられ、『飛行魔法結晶体(エンジェリング)』の操縦に集中できない。

「お願いだからもう少し静かにしてくれる!?」

 高度が下がり、グラグラと揺れる。


「見るのだグレイア、額の傷が消えたのだー」

「よかったね、ミナティ」

 私の円盤の中は、とても賑やかになった。

 魔女の子ミナティと、聖女様の弟子アルクトゥス。ふたりが乗り込んだのでギュウギュウだ。

 正直、狭いけど仕方ない。三人で地球(テラ)から元の世界に帰るため。


 二人が争ったことが原因で、次元回廊(ポータル)が崩壊。地球(テラ)を揺るがす重力場の異常、時空震が発生した。

 地上から1000メルテ以上の空域からの宇宙空間は、まるで嵐のように荒れ狂っている。

 とてもじゃないけれど危なくて『飛行魔法結晶体(エンジェリング)』は飛べない。


 フランス、ドイツ、リヒテンシュタイン、オーストリアなどの広範囲なエリアで、次元回廊(ポータル)の再接続も阻害されたまま。

 影響はしばらく消えないだろう。


「あたしは『飛行魔法結晶体(エンジェリング)』を飛ばす魔力しか残ってない」

「私は次元回廊を開くことは出来ますけど……この空域では無理ですわ」

 つまり互いに協力しないといけない。


「オラは円盤は作れないけど、魔力をグレイアに分けてあげるのだダー」

「ありがとうミナティ。それにアルクトゥスも」

 ミナティは私の背中に手を当てて、魔力を補充してくれた。


「ふん……三人で力を合わせるしかありませんから」

 額の傷を癒してあげたアルクトゥスも案外いいヤツじゃん。

 

 あたしたち三人は東へと向かっていた。

 高く飛ぶのは危険なので、雲の中をゆっくりと移動。

 地球人(テラート)の軍隊が使う飛行機に見つからないように、地球人(テラート)のレーダーとかいう空間探知から逃れるため、なるべく低く町や村の上を飛ぶ。


 必然的に、目撃されることが多くなる。

 地上から空を見上げ「UFOだ!」「空とぶ円盤だ!」という声を魔導センサーが拾ってくる。

 とはいえ高度を上げる事も難しい。


 するとアルプス山脈という巨大な壁が邪魔をする。


「仕方ない、イタリア半島を通っていったん地中海へ向かおう」


 場所は……イタリア・トスカーナ州。

 眼下にはなんだか懐かしい、元の世界を思わせる建物が多い。

 海沿いにおしゃれな町がいくつもみえる。


「海がきれいなのダー! 遊びたいのダー」

「地球人にはもったいないですわ。いつか聖女さまに献上させないと」

「アルクトゥス、それ侵略者のセリフだよ」

 思わず苦笑するけれど、あたしたちは海岸線の美しさに目を奪われた。


 と、巨大な競技場が見えてきた。

 騎士が決闘をするような円形の競技場、コロッセオだ。


「地球人が何か戦っていますわ! 野蛮ですわねぇ」

「おー? 殺し合いなのダー?」

「ちがうよ!? ふたりともよく見て、ボールを蹴り合ってるだけだよ」


「……確かに、てっきり血で血を洗うように争っているのかと」

「ボールが武器なのカー?」

「うーん、確か『スポーツ』とかいう遊びだよ」

 この二人、同じものを見ても捉え方が全然違うのね。


 見物がてらスタジアムの上空をゆっくりと通過する。

 忽然と現れたあたしたちの円盤は完全には隠れていない。


「あれはなんだ?」

「み、見ろ! 円盤だ!」

「ぉおおお!? 宇宙人か!?」

 競技場内はどよめきが沸き起こり、観客たちが口をあんぐりとあけて指さしている。

 ボールを蹴り合っていた選手たちも足を止め空を見上げて騒ぎ出した。


「ありゃ、なんだか驚かせちゃったみたい」


「戦闘が見たかったのにナー」

 つまんなそうなミナティ。


「愚かな地球人(テラート)の間抜け顔がいっぱい。うふふ、気持ちいいものですねぇ」

 対してアルクトゥスはは恍惚としたような危ない表情を浮かべている。

「アルクトゥス、あんたね……」


 先はまだ長い。

 イタリア半島にそって地中海へ向かうため、あたしたちは競技場に別れを告げた。


<つづく>



【作者ワンポイント】

 イタリアのUFO事件となります。


★サッカー競技場上空、UFO出現事件

 1954年10月27日、イタリア、イタリア。トスカーナ州フィレンツェにあるサッカー競技場上空にUFOが出現。大騒ぎとなり試合が一時中止されたとされる事件。

 約1万人の観衆と選手がUFOを目撃。競技場の外でも多数の市民がUFOを目撃し大騒ぎとなった。


 現場ではエンゼル・ヘアーも採取され、成分分析が行われたという。

 しかし続報は無く、有耶無耶になった。


※三人を乗せて飛行を続けるグレイアの円盤も魔力切れ寸前。

 外装がほつれ、エンゼルヘアーを撒き散らしたようです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 『混ぜるな危険』と三人の間で諍いが起こるのが必定であると考えていたのですが、取り敢えずは呉越同舟ながら協力する事らした模様。 但し、『家に帰るまでが遠足』というフレーズある通り、まだまだ油…
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