1954.10(欧州)ヨーロッパUFO集中目撃(ウェーブ)事件【3】
ユーラシア大陸はとても広い。
西側のはヨーロッパと呼ばれ、多くの国々がパズルのようにひしめいている。
最初に訪れた北米大陸はアメリカとカナダの二つの国だけだったのに、どうしてこんなに違うのだろう。
「地球人は小さな国を作るのが好きなのかな」
地球は世界中、あちこちに小さな国だらけ。
おまけにお隣どうしでしょっちゅう戦争をしている。
言葉も国ごとに違うみたい。
不便じゃないのかと不思議に思う。
私の世界では人間でも亜人でもエルフでも同じ言葉を使う。
違う言葉を使うのは、魔物の類、つまりオークやゴブリンぐらいなもの。
人間同士で違う言葉を使ったらそりゃぁケンカにもなるわよね。
『――(ザッ!)こちらスペイン空軍! 所属不明機、領空を侵犯している!』
私の円盤を追いかけてくる飛行機がいた。
「いつもお出迎えご苦労さま」
観察すると空飛ぶカラクリ「飛行機」も国ごとに形も微妙に違う。
『円盤だ! 宇宙人か!?』
「宇宙人ってどこの国の人よ」
ただ飛行機からは同じ英語が聞こえ伝わってくる。
地球のどこでも通じる公用語みたいなものだろうか。
すこし覚えてみようかな。
のんびり追いかけてくる飛行機を置き去りに、飛行魔法結晶体を加速。
小さな国の山脈を超えると、国境線を越えたらしかった。
「国境を越えると追いかけてこないのよね」
魔法の地図で位置を確認。
どうやら私はスペインの隣国、フランスヘ来たらしい。
昨日はポルトガルやスペインという国の空を飛んでみた。
遺物を見つけ伯爵様に報告する。
夕飯を食べながら、地球での体験や感じたことをお話すると喜んでくださる。
そんな地球の探訪を私はここ何日か繰り返している。
「さて、今日はこの地方を調べましょう」
地球の地図と地名を照らし合わせる。
場所は北フランスのバレンシエンヌの近郊のカルーブル村らしい。
ぶどう畑と森、川と家々がぽつぽつあるばかり。どこか私の故郷を思い出させる風景でほっとする。
魔力の反応を探し当てた。
森の中の遺跡だろうか。
慎重に森へ近づき降下する。
飛行魔法結晶体を空中に滞空させたまま、外へと出る。
「よっと」
浮遊魔法で地上へと舞い降りる。
あまり姿を見られたくないので、光学迷彩で姿を偽る。
森の中を探し回ると、古い石碑が苔むしていた。
近づいてみると魔法の文字が描かれている。
「やっぱり古い魔法の文字、ルーンだ」
写し絵のような文字。
それを記録してこのエリアの調査はおわり。
そのときだった。
索敵結界に反応があった。
「やばっ、地球人」
森の木々の向こう、驚いて立ち尽くしている女性と目があった。
手にはキノコの入った籠を持っている。
「森の妖精……エルフ!?」
女性は驚いて、でも逃げるわけでもなかった。
「あっ、こんにちは」
思わず私は挨拶をした。
驚かさないように円盤へと戻らなきゃ。
「空に……円盤……妖精の……光?」
認識を阻害する魔法が通じていないらしい。
私をどう見るかは、相手の記憶と経験による。
きっと私は彼女の認識する森の妖精「エルフ」に見えるのだろう。
まぁハーフエルフではあるけれど、妖精ってほどじゃない。
「またね」
「まって妖精さん!」
友達になれたらいいけれど、まだ地球人と深く接触することは許されていない。
いつか、普通にお話出来るようになれたらいいね。
私はふわりと空に舞い上がった。
◆
同時刻――。
ドイツ、ュルンベルク上空。
ふたつのプラズマフィールドがぶつかりあった。
紫色の輝きと、緑色の輝きが激突し火花を散らす。
「おぉ見ろ!」
「一体何なんだ、あれは!?」
「天使と悪魔がが争っているのか?」
ドイツの都市ニュルンベルクの空を多くの人々が見上げている。
赤や緑の光の球体が突如出現、まるで戦っているようにぶつかりあう。
『魔女の奴隷風情が、神聖な空を飛び回るなんて不愉快ですわ!』
『いきなり誰なのだおまえ、ムカつくヤツなのダ!』
『聖痕の調査、邪魔をしないでくださいまし!』
『オラが先に見つけたのダ!』
聖女の眷属アルクトゥスがジグザグに飛翔する。
その後ろをミナティが追い、緑の稲妻を放つ。魔女オプティヌス・オリオンヌが仕込んだ次元雷砲は、飛行魔法結晶体を削り破壊する。
『きゃっ!? なんて野蛮な威力! 地球で魔法を使って攻撃するなんて』
アルクトゥスも負けてはいない。
白い聖なる光を放射し、ミナテイの円盤周囲の空間を相転移。魔力を削り朽ちさせる。
『にょわっ!? グラグラするのダー!』
次元回廊がふたつ開いた。
ミナティとアルクトゥス、それぞれが帰還するための帰り道だ。
強制帰還の術式が発動した。
それは近すぎた。
『な、なんですの!?』
『のわわわわっ!?』
ふたつの時空の穴が干渉しあい、渦が激しくなり凝縮してゆく。
爆発的に拡散したかとおもうと空間に凄まじい波動を撒き散らした。
時空の渦は消え、空間の歪みもやがて溶けるように消えてゆく。
『か、帰り道が……』
『爆発しのたダ!?』
次元回廊が消滅してしまった。
これは自力での帰還が困難とななったことを意味していた。
『あなたのせいですわ!』
『お前がケンカしていたのダ!』
プラズマフィールドを失い、銀色の円盤型の結晶をむき出しにしたまま、二機の円盤はギリギリと互いにぶつかり合った。
喧嘩神輿のように激突し、そのたびに破片を散らす。
そして魔力も失い、飛行さえもままならなくなってゆく。
「お、墜ちますわ……!」
「また墜落なのダー!?」
激しい戦いの末、ドイツとフランスの国境付近へと落下――。
ドゥン! と森の奥で爆炎がたちのぼった。
◇
「今の衝撃……次元震!?」
私が元の世界に帰ろうと思った矢先、何かが起きた。
地球では考えられない、魔力の激しい激突が。
場所は今いるフランスと隣のドイツの国境付近。
波動からして『次元回廊』の崩壊だ。
ミナティ!?
なんとなくそんな予感がした。
以前と同じ胸騒ぎがする。
衝撃のあった地点は……ドイツとフランスの国境付近、いくつかの国々の国境が交差する場所らしい。
「行ってみよう」
私は飛行魔法結晶体の進路を変えた。
<つづく>
【作者ワンポイント】
アメリカから始まったUFOの目撃、宇宙人との遭遇は、やがてヨーロッパへと波及します。
それは東へ東へと伝わり、日本へも。
まるで文化の伝播を思わせるのは何故でしょう……?
グレイアたちの冒険は、新たなる局面を迎えます。
●フランス、カルーブル村、短足宇宙人目撃事件 ※グレイアが目撃された事件。
1954年9月10日、 北フランスのバレンシエンヌの近郊のカルーブル村で、マリウス・デウィルドが円盤を目撃。さらに小柄で短足の宇宙人を目撃した。
●ドイツ上空、UFO同士の空中戦。
目撃情報として「中世」にまで遡ります。
現在のドイツの都市ニュルンベルクにて、1561年4月14日の夜明け頃、上空に無数の光の玉(UFO)が出現。
光同士が戦った様子が当時の木版画に記録されています。
実際に爆発し墜落したという記録もあるのですが、破片などは痕跡もなく消えてしまったようです。集団で幻を見ていた可能性も否定できませんが。
※実際はミナティとアルクトゥスの空中戦が、次元回廊の干渉により時空を跳躍。中世ドイツの空に投影された可能性が高い。




