1952.04(米)爆心地UFO乱舞 ~グレイア空戦~
◇
「久しぶりの地球……!」
今日はどんな風景がみられるのか、私はウキウキ気分。
だってローズウェル伯爵様はおっしゃった。
『グレイア、今日から地球の探査計画は新たなるステージに移行するよ』
なんと空を飛び回るだけじゃなく、私自身が地球人との接触を試みることに。
そのために可愛い余所行きの服も買った。あの「銀色のピッタリタイツ」じゃないヤツ。
あんなのを着て挨拶したら宇宙から来た怪人だと思われちゃうもんね。
うん、楽しみ!
やがて私の操る『飛行魔法結晶体』は、極彩色の次元回廊を抜け、地球の空へと飛び出した。
途端に、まばゆい光に目がくらむ。
「わっ、何!?」
――警報、危険空域!
――位相次元転換シールド展開!
警告音が鳴り響き、ローズウェル伯爵様の仕込んでくだった魔法が、自動で対応してくれた。
オレンジ色のプラズマが『飛行魔法結晶体』を包んだ。それでも私の円盤はグラグラと揺れた。
前方に見えるのは赤い灼熱の火の玉だった。上昇するに従い黒いキノコ雲が空を汚してゆく。
――警告、光源毒素検出!
高温の嵐に未知の高エネルギー粒子、濃度も濃い。生身なら即死しかねない。
「これって、伯爵様が言ってた地球人の兵器だ!」
急いで座標位置を確認、地図と照合。場所はいつもの北米大陸、ネバダ州の砂漠地帯。
たしか軍事基地が沢山あるあたり。地上には特徴的な軍用機の並んだ飛行場や、黒い鉄の車が沢山見えた。ここは兵器の実験場なのだろう。
「もう、危ないなぁ!」
こんなとこ、さっさと離れよう。とてもじゃないけど、お友達にはなれそうもない。
今日の目的は別にある。こんな危ない北米大陸から離れて、もっと他所の土地を探そう。
海の彼方にも地球人の国はあるんだから。
緊急展開していた位相次元転換シールドが解除された。
おそらく地上から私の円盤は丸見え。
次元振動探知、確か「レーダー」に見つかっちゃう。
すかさず円盤を5つに分身させた。こうすれば地球人の目をごまかせる。
気味の悪いキノコ雲を避け、おおきくUターンしたときだった。
キノコ雲に沿って、いくつかの銀色の輝きが急速に迫って来ることに気づいた。
――不明飛行物体、急速接近!
――魔力反応検出!
「地球人の飛行機じゃない……!?」
飛行魔法結晶体だ。私以外に誰かが来ているんだ。
銀色の円盤はハチの群れのよう。左右に揺れながら十機ほどが迫ってくる。
「ちょっ、体当たりする気!?」
咄嗟に手元の魔法操作盤を操作、飛行魔法結晶体をくるりと回転させて突進を避けた。
「危なッ……! 何するのよ!?」
『ローズウェルの飼い犬め、この地から去れ!』
「はぁ!? 誰よあんた!」
いきなり喧嘩腰?
それも地球の空で。
ローズウェル伯爵様の弟子の私は、よく魔法使いや魔女に勝負を挑まれる。それがまさか地球に来てからも絡まれるなんて、ホント嫌になる。
折角のワクワクも一瞬で吹き飛んだ。
『私たちの聖域へ、土足で踏み込むな!』
女の子の声だ。
興奮気味に感情を昂らせているのがわかる。
「どこの誰だかしらないけど、いつから貴女の物になったのよ!」
ここは兵器の実験場だから早く離れたい。
天地逆転した視界の中、次々と銀色円盤が襲ってきた。
「こなくそっ!」
ヒラリヒラリと避けたけれど、プラズマシールドが削られた。
このままじゃ危ない。一体何のつもり!
――生命反応無し、撹乱用ダミー円盤
魔法の情報表示盤に銀色円盤の解析結果が表示された。
やっぱり私が使っているダミー円盤と同じもの。分身の魔法だ。
つまり相手は同郷の、七賢者のうちの誰か……いえ、弟子が操っているに違いない。
「なら手加減しないんだからね!」
地球で魔力はなるべく温存しなきゃいけない。だけどそんなことも言っていられない。身の危険を感じるほど絡まれちゃってるワケだし。
急降下して地上スレスレをターン。
だけどしつこく銀色円盤の群れはついてくる。
再び上昇して八の字を描きながら、空間の相対位置を把握する。
銀色の円盤の群れは、次々と進路を妨害するみたいに突っ込んでくる。それぞれの動きを見切って、うまく避ける。
動きは意外と単純。体当たり攻撃だけ。相手も魔法力が無限じゃないから、攻撃系の魔法を放ってはこないんだ。
銀色円盤は10機。
遠隔操作しているにしても、動きの精度は高くない。
精密に体当たりさせるため、同時に操れるのは2つが限度みたい。
私は発信型索敵結界で空域をサーチ。
操っている本体がいるはず。
いた!
「あれか……!」
はるか上空。太陽太陽を背にして11機目がいる。
あれが声の主、術者の円盤に違いない。
キラリと太陽の光を反射する。キノコ雲が消えた空域のはるか上空を見下ろすように飛んでいる。
対する私の飛行魔法結晶体の分身、オレンジ色のダミー円盤は4つ。
数の上では半分以下。
貴重な魔力を注ぎ、機動術式をそれぞれに注ぎ込む。
ダミー4つをバラバラに精密操作、叩きつけてやるんだから!
「いくよ、全方位同時操術ッ!」
ギュンッ! と4機のダミーが爆発的に加速。
相手の銀色円盤を次々に貫通、四機を一気に爆散させた。
『なにっ!? 動きが……変わった!?』
「本気だからね!」
更に鋭角的な機動でターン、残りの銀色円盤を追尾して体当たり。
正面に一瞬だけシールドを展開。
衝撃で撃墜する。
オレンジ色の私の分身たちが追う番。右往左往と逃げる銀色円盤を次々と削り、破砕する。
全部無人のダミーなんだし遠慮はいらない。
残った銀色円盤は上空の一つだけ。
これで形勢逆転ね。
「いっけぇえ!」
4つのオレンジ色のダミーを上昇させ、相手のプラズマシールドを削る。
『そんな、きゃ、きゃわわ……!?』
相手は完全に錐揉み状態で落下し始めた。
なんとか飛行は維持しているけれど、もう限界だろう。
撃墜してやりたいところだけど、地球でそんな事をしたらあの子は帰れなくなる。
オレンジ色のダミー円盤で取り囲み、
「決闘を申し込むなら、まず名乗りなさいよ」
それが礼儀ってものでしょう。
『くっ……聖女さまの眷属、アルクトゥス』
銀色の円盤に近づくと、金属質にみえる外殻をもっていた。魔法の結晶の質がきれいだった。
「聖女……? やっぱり七賢者の弟子。ってことは私と同じ観光目的?」
『違うわよ一緒にしないで! 聖女プレアデスさまは別格なの! 崇高な目的のため、聖域であるべき地球を……』
「ふぅん? 崇高な目的って何?」
『……そ、それはその』
円盤がゆらゆらして限界みたいだった。
今のうちに一応、私も名乗っておく。
「私の名はグレイア! 素敵なローズウェル伯爵様の可憐な一番弟子!」
胸を張ってえっへん。無駄に円盤をキラキラと輝かせて見せる。
『し、知ってるし……!』
「え? 知ってるの?」
なんで?
『お、覚えておきなさいよバーカ!』
「あっ!? まてコラ」
アルクトゥスの乗る銀色円盤は急上昇。オレンジ色のプラズマフィールドを展開すると次元回廊の彼方へと消えた。
「……ま、いいか」
あとで記録映像を伯爵様に見せれば。
出鼻をくじかれたけど、気を取り直して。
私は一路、東へと進路をとった。
北米大陸を通り抜け、大きな海を渡る。
海の向こうの大きな大陸、ユーラシアにもまだまだ沢山の街や国があるのだから。
<つづく>
【作者ワンポイント】
1952年に行われた核実験の際に、無数のUFOが目撃された。様々な色のUFOが上空を乱舞し、飛行機の追撃、地上施設への接近などがあったという。
この事件を皮切りに、全米の空軍基地、核関連施設上空でUFOが度々目撃されるようになった。
これは主に聖女プレアデス陣営によるもの。
眷属の天使少女アルクトゥスによる人類に対する「警告」であった。
なお、ネバダ核実験とUFO出現は1952年4月から5月。
その後の同年7月には首都ワシントンでUFOが乱舞する事件が起きた。
ワシントン上空を飛び回り騒ぎを起こしたのは、魔女レプティリア陣営。半竜人少女のミナティによるものである。
これらが関連し米国内では「宇宙人の警告」のように受け止められた。
だが核開発を行う地球人(主に当時の米ソ中)が開発の手を緩めることはなかった。
1952年の一連の事件を経てUFOの目撃は世界各国に広まるようになる。
ヨーロッパ、アジア、そして日本。
こちらは主にグレイアの仕業である。
好奇心が引き起こしたものだが……以下次号。