表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/38

1952.11(米)アダムスキー、金星人と遭遇(?)【後編】


 ローズウェル伯爵は庭を見回した。

 バラが咲き誇る庭園は、美しく手入れされている。

 草花の花壇、涼しげな水音を奏でる噴水、人造大理石のオブジェ――伝説のメガネ賢者の胸像――が配置されている。

 これらは雑然としているようで、魔術的に意味のある配置になっている。外部からの魔力干渉を排除し、常設の結界を形作っている。だから手の込んだ魔法を唱えるには最適な場所だ


 銀ピカの防護スーツに身を包んだホムンクルスが戻ってきた。

 肩まで伸びた金髪に、尖った耳で細面。

 切れ長の目で、灰緑の瞳の色。弟子のグレイアに何処と無く似てしまったが、本人が見たら「似ていません!」と怒るだろう。 


『マスター、準備できました』

 声ではない。

 魔法による波動転移を応用、つまり念話(テレパス)だ。


「君に名前をつけよう。えぇと……オーソンでどうかな」

『オーソン、ありがとうございます』

 驚きという意味の言葉をもじった名前だ。

 今回の人造生命体(ホムンクルス)は少々自信作。

 念入りにこしらえた。前回、グレイアと一緒につくった『グレイ』シリーズは突貫工事で、使い捨ての土人形だった。しかしオーソンは違う。

 再利用を考え、弟子のグレイアの探索を手助けする役目を与える算段だ。


「うむ、いい子だオーソン。君には地球人(テラート)と直接会って、メッセージを伝えるという危険かつ重要な役目を与えよう」

 ローズウェル伯爵は指先をオーソンの額に当てた。

 言葉を魔法の波動に変え、擬似的な記憶領域へとインストールする。

 地球(テラ)までの行程、現地での対応、離脱まで。一連の行動パターンをあらかじめ植え付けておく。


『……了解しました、伯爵様(マスター)

「さぁ行っておいで」

 空を飛ぶ魔法『飛行魔法結晶体(エンジェリング)』でオーソンを包み込む。

 白い粒子が渦を巻き、結晶構造が生まれてゆく。

 結晶化した魔法の力は、金属状の擬似物質を形成。周囲に金属の光沢をもつ円盤状のフィールドを作り上げた。

「そうだ、地球人(テラート)の使う電波に対応しないとね」


 魔法結界が機能しない地球(テラ)用に、『飛行魔法結晶体(エンジェリング)』を改良する必要がある。


 アメリカ合衆国の国土の大半は、空間波動――電波を利用するカラクリによる探索網で覆われていた。

 それは『索敵魔法(サーチナ)』と同じ働きをしてこちらを発見、追尾してくる。

 更に、電波は『飛行魔法結晶体(エンジェリング)』の飛行にも影響を及ぼす。


 だから今回は少し改良を施すことにする。

「……下部に三点式のプラズマ・フィールド形成ユニットを増設。それと窓も欲しいね」

 円盤の下に半球形のドームを三つ生成する。

 オレンジ色の光を放ち周囲の空気を電離。プラズマ化して電磁波を防ぐフィールドを形成する。


 窓は周囲の視認用。

 今までは密封式で、外部の様子は特別な遠視の魔法を通じて把握していたが、これでは搭乗者の負担が大きい。

 シンプルに魔法で強化したガラス状の窓を周囲に形成し、目視できるようにする。


『窓から外が見えます、マスター』

「うむ完璧だ」

 ドーム状の上部構造に丸い窓がズラリと並んでいる。そこからオーソンがこちらを眺め、ぎこちなく手を振った。


『いってまいります』

「期待しているよ」


 改良型『飛行魔法結晶体(エンジェリング)』の円盤はフワリと空に舞い上がった。

 時空の穴を上空に開け、転移させる。


「良い地球人と出会えれば良いのだが」

 次元回廊(ポータル)に吸い込まれてゆく円盤を見上げながら、伯爵はつぶやいた。


 ◆


『……ここが地球(テラ)……』


 極彩色の超時空トンネルを抜け、飛び出た先は広大な空と、砂漠の広がる大地だった。

 すぐさまマスターの言いつけ通り、マッピング魔法のコンソールを操作し位置を特定する。


 ――地球(テラ)、北米大陸。

 ――アメリカ合衆国、カリフォルニア州、モハーヴェ砂漠付近


 高度を下げながら眼下を観察する。

 いくつかの街が見えた。砂漠と、それを貫く直線的な道が網の目のように広がっている。

 道の上を金属製の乗り物がいくつも動いていた。馬のいない馬車だ。そのカラクリは不明。

 後方から熱と汚染物質を含む空気が観測できた。何かを燃やし、動力としているのだろう。


 オーソンの人工頭脳は自己学習と推論を繰り返すことで、複雑な人間の脳に似た構造を作り出す。

 見ること、考えること、知ること。

 これらはとても重要だ。

 ――地球人(テラート)の活動領域は、どこまで広がっているのでしょう?


『あ、ぽつんと一軒の家があります』


 砂漠の外れにちょうどよさげな家があった。

 周囲に家のない、牛と人間が暮らしているであろう建物だ。どうやら牧場を営んでいるらしい。

 金属製の乗り物、牛、人間。テーブルの上には食べ物と飲み物まで。

『あれが地球人(テラート)……』

 拍子抜けするほど、普通の姿だった。

 オーソンが上空を飛びながらしばらく観察していると、家主たちが気づいた。

 外でパーティか何かをしていたのか、数人がこちらを見上げ、騒いでいる。


 ――あれを見ろ!

 ――空とぶ円盤だ!?


 周囲には他に家も、乗り物も見当たらない。

 農場主なら危険は少ないだろう。

 そう判断したオーソンは、近くに着陸してみることにした。


『……降下、着陸』

 音もなく砂漠のなかに着地する。


 するとほどなくして、向こうから一台の乗り物が近づいてきた。

 砂煙をあげながら近づいてくる。

 色と形からしてさっきの牧場主のものだろう。

 三十メルテほど先で停車すると、ドアが開き男が降りてきた。

 肌の白い男で、髪はブロンズ色でごわごわしている。

「……え、円盤だ! 本物だ!?」


『あの方と話してみましょう』

 外に出ても良いようにと、ローズウェル伯爵は銀色の防護服を用意してくれた。

 円盤の下から階段状のタラップを生成、地面に足をつける。

 恐る恐る、外へと降り立った。

 熱い、砂の大地だった。


「うぉ、わぁああ……ああああ!?」


 見るとさっきの男が尻餅をついて、小便をもらさんばかりに驚いていた。


 ――友好的に、メッセージを伝えるだけでいい。


 伯爵様(マスター)からのいいつけを思い出し、オーソンはコミュニケーションを試みる。


『こんにちは、テラート』


「……っ!? ひぅ!? あっ!? しゃ、しゃべ……ってない?」


『私はオーソン。あなたの頭に直接語りかけています』


「テッテレパスィイイ!?」

 いちいちうるさい男だ。

 あわてふためき膝をガクガクさせながら、なんとかたちあがり、近づいてきた。

 互いの距離は十メルテほどで止まる。


「あ、アンタ……どこから来た?」


 オーソンは少し困り、空を指差した。


「宇宙……金星か!? 金星人か!?」

 男は勝手に納得したらしかった。


 ちょうど空に小さく光る点があった。

 惑星地球(テラ)の姉妹星。彼らはたしか金星と呼んでいる。

 事前観測の情報では、地表は90気圧、500度近い高温で生命は存在しないはず。だがこの地球人(テラート)はそれを知らないのだろうか。


『あなたの名前は?』

「ジョッ、ジョージ・アダムスキー」


『ジョージ、私はメッセージを伝えに来ました』


 あまり長居はできない。

 メッセージを伝え、帰投する時刻が迫っている。


「メッ、メッセージ?」

 目を白黒させるアダムスキー。


地球人(あなたがた)は、間違った原子……の使い方をしています。爆弾、使うのは誤りです』


「お、おぉ……? 俺もそう思うが……」


 原子核分裂を利用した熱反応兵器。

 それをアメリカ軍は開発し利用していた。

 危険を伝えたかったが、言語の翻訳はうまくできているのだろうか?


『みんなに伝えてください。原子……爆弾……は危険で、毒を撒き散らします』

「わ、わかった……」

『では』

「えっ? 終わり? ちょっ……ま」


 オーソンは伝え終えると踵を返し、円盤に乗り込み舞い上がる。

 地表では放心したように空を見上げる男――ジョージ・アダムスキーの姿があった。


<つづく>

【ワンポイント解説】

ジョージ・アダムスキーはUFOの研究家。

コンタクティーの元祖である。

1952年、UFOから降りてきた宇宙人(金星人)とテレパシーで会話したと主張、金星人は「核の危機」を訴えたという。

1953年に発表した『空飛ぶ円盤実見記』は大ベストセラーとなる。

世界中に信奉者がいるが、懐疑派も多い。

(真偽については読者様の判断に委ねる)


★ちなみに「アダムスキー型UFO」はこの時撮影したという円盤からきている。下部に三つの半球体、上部にはドームと窓をもつ典型的な円盤として。


★実際のところ、アダムスキー氏が「何か」と遭遇したことは間違いない。

真実は、異世界人ローズウェル伯爵の操るホムンクルスであり、金星人ではないのだが。

この事件を発端として、コンタクティーを自称する人々が発信する情報は人々の興味の対象となった。

UFOに関する様々な目撃証言は、真偽論争に巻き込まれ、政府の陰謀、宇宙人説、インチキ説と様々な議論と情報が錯綜。

伯爵の思惑とは裏腹に、地球の人々の目を「真実」から逸らすことには成功したといえるだろう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] >「メッ、メッセージ?」  目を白黒させるアダムスキー。 『地球人あなたがたは、間違ったスティック……の使い方をしています。お尻に、使うのは誤りです』 「お、おぉ……? 俺もそう思うが…
[良い点] 円盤といえばアダムスキー型。 そしてズラの魔法使いといえば、眼鏡の賢者様ですか。(笑) 嘗て某賢者様が生きていた証がありました。 さて、ローズウェル伯爵の暗躍は!? そう思ったのですが、単…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ