表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎舞の鬼女  作者: Kaia
1/2

日常

「炎舞」

 作者 速水御舟

 昭和52(1977)年に重要文化財に指定され、御舟の最高傑作として、また近代日本画史上における傑作としても評価の高い作品である。

 作品の制作にあたっては、大正14(1925)年の7月から9月にかけて約3ヶ月間家族と共に滞在した軽井沢での取材をもとにしている。毎晩、焚き火をたき、そこに群がる蛾を写生したり、採集した蛾を室内で写生したという。蛾に関しては克明な写生がいまも残されている。

(山種美術館ホームページより)


 じりりりりりりり。


 部屋中に響き渡る目覚まし時計の音に顔をしかめつつ、ベッドから手を伸ばしスイッチを切る。

 起きぬけのぼうっとする頭を醒ますためにも、先ずは一服せねば。

 気怠い身体を起こし、テーブルに置いた煙草を手に取り咥え、ライターで着火しながら昨晩飲み干したビール缶の本数を数える。

 ―――5本か。昨夜は疲れもあって、大して飲めなかったな。

 そんなことを考えながら、白煙をすうっと肺に流し入れる。

 肺に煙が満ちるこの瞬間が一番好き。

 名残惜しく煙を吐き出しながら立ち上がり、そのまま洗面所に向かう。

 鏡の前の灰皿に煙草を置いて洗顔し、濡れた顔をタオルで拭うと鏡の中の自分と目が合う。


 醜いみにくい、大嫌いな顔。

 でも、そこに彫り込まれているのは大好きな“炎舞”。

 顔の左半分に燃え盛る美しい“炎舞”。


 そっと“炎舞”をひと撫でし、再び煙草を咥え直して髪を結う。

 髪をかき集める際、手に当たる自身の(ツノ)をうっとおしく思うも、鬼として生まれたからには仕方ない。

 仕事着の甚兵衛に着替えて洗面所を後にし、ベッドに腰掛け残りの煙草を堪能する。

 最後に吸った煙を細く長く吐き出し、灰皿に煙草を押し付けてビール缶を片付ける。

 そして財布と鍵、煙草とライターを懐に入れ、部屋を後にする。


 いつもと変わらぬ朝。

 いつもと変わらぬ日常。


 顔に“炎舞”を刻んだ鬼女・火乃華(ほのか)は、今日も職場へと向かう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ