閻魔庁の執成さん 壱 ~ あなたの罪は、浄玻璃鏡に記録されています
藤原高藤、その位階 長く 従五位にとどまるも、仁和3年 娘・胤子の夫である源定省が、宇多天皇として即位したため、正五位下に叙せられた。
寛平2年に 正五位上、次いで従四位下。 寛平6年には、従三位となり、翌年、参議となる。
しかし、この年、高藤、西三条にて病に倒れる。
彼は、冥府へと旅立つこととなった。
★
そこは、黄泉の国。
高藤は、6文を払い 広い川を渡った。
亡者は、何者であっても その先に見える閻魔庁で、現世の罪を裁かれる。
恐る恐る 入廷する。
高藤が被告席に座ると同時に、空だった裁判長席に閻魔の姿が浮かび上がった。
「浄玻璃鏡を持てっ。」
槌でトンッと音を立てて、閻魔が叫ぶ。
この魔鏡、亡者の生前の行為を記録し、裁きの場でスクリーン上映する機能を持つ。そのため、裁かれる亡者が閻魔王の尋問に嘘をついても、たちまち見破られるのだ。
空中に、高藤の姿が映し出された。
そこには、国司から、わいろを受け取る彼の姿があった。高藤は、官吏の任免権を持ち、これを恐れた国司から貢物を受け取っていたのだ。
「いや、こんなものは、誰でもやっておる。」
しかし、ここは閻魔庁。そのような言い訳が通じるわけがない。
閻魔の業務を補佐する司録と司命がツツっと高藤に近づく。彼の右袖はまくられ、赤く熱せられた鉄の棒が押し付けられた。
ぎゃぁぁっぁ
肉の焼ける音と、高藤の悲鳴の後、肩に残ったのは、20211225という数字。
焼き印だ。
地獄では、肩の焼き印によって、亡者を管理するのである。
その時である。閻魔の助手である執政が、鋭い声を上げた。
「閻大王、大変です。
亡者の書類が揃っておりませぬ。」
高藤は、執政の顔を見て驚いた。
こ、こやつ、小野篁…
小野篁。参議・小野岑守の長男である。
「閻大王、書類不備では、罪は裁けませぬ。
一度、生者の世界に戻しましょう。」
閻魔の助手を務める小野篁の働きかけで、高藤は、閻魔庁を後にし、現世へと戻ったのであった。
★
目を覚まし、布団をめくりあげる。高藤は、自分がひどい寝汗をかいていることに気づいた。
体をぬぐう布を持たせようと、侍女を呼ぼうとし、手を上げた時、彼は、右肩の痛みを感じた。
そこにあったのは、赤く腫れあがった数字…20211225であった。
ひぃっ…
思わず後ろに倒れかかった時、枕もとの1枚の紙に気づく。
身慎むべし 篁
それは、小野篁の筆跡。
夢ではない。そう、右肩の痛みと1枚の紙きれが、それが夢ではないことをしめしていた。
文字数(空白・改行含まない):1000字
こちらは『第3回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』用、超短編小説です。