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『生罪の悪魔』 ─ A Devil of life sin ─  作者: リクトシヨン
五章:悪魔達
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二十八話 『手』


 最後にその顔を見たのは、確か二週間前、あのマンションのだった。

 今はすっかりと黒い煤に塗れた冴木の顔は、僕の顔を睨み付けながら笑っていた。

 

「ハッ……どうする? どうするかな……?」

「殺す気か?」

「殺す? あぁ、その手もあるか……でもごめんな、この子は後で『グラシャボラスに渡す』んだ」


『それは殺すも同様だ』と言いたくなるのを僕は堪える。


「なぁ、冴木」

「なんだよ、偽善者」

「お前、澪ちゃんをどう思ってるんだ?」

「……!」

「あの様子だと、すぐそこの通路で会ったんだろ?」

「澪は……! アイツは……!」

「なぁ、冴木、お前一体どういうつもりでこんな事してるんだ?」

「俺を認めない奴は……全員殺す……!」

「答えろよ『偽善者以下の悪人』が」

「黙れ!」


 僕の軽い煽りに反発した冴木の声が響くと同時に、辺りの炎が大きく揺らいだ。


「俺が答えても、お前は! 最後にまた俺を裏切るんだろ?!」

「……」

「人を勝手に助けておいて、後は自分勝手! ふざけるのもいい加減にしろ!」

「……」

「自分を助けた人間に! 一度自分を認めてくれた人間に裏切られる事が! どれだけ辛い事かも知らない癖に!」

「……!」


 その気持ちは知らない筈が無かった。


「どうなんだ偽善者!答えろよ!」

「……ってるよ──!」


 ついこの前、僕はそれをこの心で味わったのだから。


「──知ってるよ!」


 バラムに、冴木の言うようなことをされていたのだったのだから。


「ああそうか! なら分る筈だろ!」

「ああ! 痛い程わかったよ! 裏切った奴の事が大嫌いになるくらいだ! でもな──!」


 けれど僕は、冴木の様な過ち何て犯さない。


「──僕も悪かったんだ!」


 だって、僕自身にも非があったのだから。


「……ッ!」

「どこか大切な物を見失っていたんだ! だけど──!」

「やめろ──!」


 だから必死に、バラムを理解しようとした。

 バラムが僕に何をしていてくれていたかも痛感した。

 だからその分、僕は努力した。


「今は違う! 僕はお前とは違う! 見失っていた物を! 失った物を自分で取り返した! 仲間も! 友達も! 力も! 心も! 全部だ!」

 

 戦い方。


 人との付き合い方。


 生き方。


 リゼル同盟の皆に、様々な事を教わった。


 そして僕は、見失っていた物を見つけた。


「──それ以上! 俺との差を作るんじゃない!」

「いいや! 作るね! コレが僕の生き方だから! 願いだから!」


 バラムの言う『本当の願い』というものを僕は見つけ出すことが出来たのだった。


「だったら……だったらそんな願い力ずくで止めてやるよ! この偽善者がああアアアアアッ!」


 冴木は手に何かを取り出した。包丁だ。

 冴木はそれを振り上げ──、


「……! やめろッ!」

 思い切り、日出さんへ振り下ろした。


「この女だ! この女を殺せば! お前はアアアアアッ!」


 僕が今立っているのが教室の後ろ側なのに対して、冴木と日出さんがいるのは、教室の前側。大きく開いたその間を距離で言うならば『10メートル』はある。


「やめろおおおお!」


 右足に力を込め──、その渾身の右足の一踏みで、僕の体は一瞬にして冴木の前へ飛び出た。


「……なッ!?」

「うおおおおおっ!」


 そのまま教卓を越えて、冴木に身体をぶつける。


「……ッ!」

罪刑変化(アルターパニッシュ)! 獄罪鎧(ギルティアマ)!」

 僕は仰向けに倒れる冴木に馬乗りになり、拳に獄罪鎧を手中させて、一発、顔面に拳を──!


「……ッ! 罪刑変化! 千寿菊(マリーゴールド・)一 輪(ブラスト)ッ!」


 当てる直前で、体が勝手に身構える。と、同時に。


「ッ!」


 目の前で起きる小規模かつ高威力の爆発に、僕の身体は教室の後ろへ帰る様に吹き飛ばされる。が、日々の鍛錬の成果もあってか、体は自然と受け身を取り、直ぐに体制は整い、目の前の敵を警戒せんと前を見る。


 日出さんは無事だ。一方で──、


「……アアアアアクソッ! クソクソクソクソクソォッ!」


『ク』と『ソ』の二文字の言葉を繰り返し口ずさみながら冴木は起き上がり、凄まじい形相でコチラを見ていた。


「アモンッ!」


 冴木がその名を呼ぶと、そこに炎の梟の頭を持つ悪魔、アモンの姿が現れる。

 向こうが二人なのにどうして僕達は僕の体一つで戦っているのだろうと疑問に思ってしまう。


『バラムはどうしたのですか……?』

「……僕の心臓の中で寝てるよ」

『そうですか、ならば今が殺し時ですね』


 アモンは右手の人差し指を僕へ向ける。


『罪刑変化“砥草(ホーステイル)”』


 人差し指に何か丸いものが浮かび上がって来る。そして次の瞬間──、


「……ッ!」


 アモンの指先から放たれた熱線が、僕の左肩を貫くどろこか、後ろの壁をも貫き、壁に穴が開いた。


「痛っ……!」


 左肩に走る激痛を僕はすぐさま抑えた。

 アモンの罪刑変化で貫かれた肩の完全な治癒は出来ない、が、しかしアモンは狙っていたのか、傷口は完全に焼き切られていて、出血の心配は無く、痛みを我慢するだけだ。


『次は足を狙います〈なるべく生かし、いたぶれ〉とユウヤに言われているので』


 アモンがそう口にする一方で、冴木は教卓の前へと出る。そして──、


「罪刑変化──!」


 まずい! 来る!


「──千寿菊(マリーゴールド・)十輪(クロスブラスト)!」


 冴木の罪刑変化が放たれた。

 先程同様、小規模かつ、高威力の爆発が僕の周囲──、


 右から一発──、


「死ね!」


 上から二発──、


「死ね! 死ね!」


 左から三、四発──、


「死ね! 死ね! 死ね!」


 後ろから五、六、七、八発──、


「死ね死ね死ね死ねえええええええッ!」


 前から九、十発と、炸裂する。


 突如として発現する爆発を避ける事は出来ないので、ひたすらに、獄罪鎧を体のあちこちへ集中させてはを繰り返し、体を守り抜いた。


「ッハァ……!」

『耐えましたか……』

「厄介すぎる……!」 


千寿菊(マリーゴールド)


 冴木が唱える罪刑変化は、周囲の狙った場所に爆発を起こす力だ。

 ただ。僕が楓さんに教わった通りであれば、罪刑変化という物には、必ず『起点』と呼ばれる『力の発動のきっかけ』が必要になって来るのだ。


『水路を通って蛇口から水が出る』様に『火の無い所に煙が立たない』様に、この罪刑変化も、何もない所へ突如として爆発が起きる事は無い筈だ。


「罪刑変化! 万寿菊(タジェット)!」

 

 変わった。今度は何だと、体を身構える。


「……!」


 しかし何も起き──、無い筈が無いのだ。

 教室後ろの壁が大きく盛り上がり出した。


「──ッ!?」


 そしてそのまま、瓦礫をまき散らして爆散する。


「ウアアアアアッ!」


 瓦礫の破片と、爆風が一緒になって僕達を襲う。

 マズイ! 日出さんは──?!


 大きな破片が、倒れている日出さんをめがけて飛んで行く。

 僕は“血液点火(ブラッドリット)”に力の充填を任せ、足を踏み込んで力のトリガーを引く。

 先程同様の足へ力を集中させ、放つ『一歩駿足のステップ』踏み込むたびに掛かる足への負担は凄まじく、肉体能力を強化していたとしても殆どの筋肉はその反動で断たれ、骨にはヒビが入る。


 この二週間の間で、僕がシュウに体の動かし方、楓さんに罪刑変化の使い方を学び、編み出した。捨て身で成せる瞬間にして一瞬の技だ。模擬戦では未だに使った事は無いが、ぶっつけ本番で使ってみると案外効いている。


「罪刑変化──!」

「──!?」

「“炎魔竹(バーンブゥ)”!」


 大きな破片へ間を詰め、砕こうとした瞬間、今度は僕の足元の床が盛り上がる。


「下!?」


 コンクリートの床を貫いて、大きな炎の柱が現れた。

 僕は寸での所でかわし、砕くつもりだった破片は一瞬にしてその炎で原型を留める事無く燃え尽きる。


「──ッ?!」


 自身で編み出した技が良いとは言っても、油断をしてはいけないと思った。


「なぁ、紺野」

「なんだよ……さっきから遠くからばっか狙いやがって……!」

「最後に選択肢をくれてやる。俺と手を組まないか?」

 何を聞いてくると思えば、そんな事だった。

「……『組む』って言ったら?」

「今すぐこの女を開放してやる。ついでにグラシャボラスに渡すのも、ほかの女で我慢してやる」

「……『組まない』って言ったら?」

「お前も、この女も、殺す」

「へぇ……言い切るんだな……!」

「どうする?」

「断る……! 第一、他の女で我慢してやる”ってのが気にくわない!」


 迷う理由も無いし、口に出した通り、他の女で我慢するのが何より気に入らなかった。


「……だったら女もろとも死ね! 罪刑変化! “炎  魔  竹 (バーンブゥ・)十本(クロスファイヤ)”!」


 またもや地面が盛り上がる。

 しかし今度は僕の真下では無い、僕の周りだ。僕の周りを囲むようにして……まさか──!?


「……ッ!」


 何とかその場から離れようとするが、

──ダメだ! 間に合わない!

 気付いた頃には遅く、地面から冴木の罪刑変化が生えると同時に、僕もろとも床が崩れ落ちる。


「……畜生ッ!」


 家庭科室の下の階は購買部だ。

 夏休みの期間中は夏季休業となっており、商品が並べられている事は無い。

 商品が並べられていないだけでも十分に異質な光景とも言えるが、それよりも──、


「熱ッ……!」


──すさまじい炎と熱気の量だ。

 購買部一面を橙色に染め上げ、揺らぎ、踊り狂う炎が今にも僕を襲わんとしている。更には崩れ落ちる際にこのC棟校舎全体に伝うガス管が破れ、管からはゴウゴウと火が噴出していた。


「どうだ偽善者! 俺特注の灼熱サウナの居心地は!」

「ケホッ……! ガス臭いし熱すぎるし、最悪だよ……!」


 恐らく、先ほどからの床を貫き、僕をここへ落とした罪刑変化の起点は、この炎にあるのだろう。


「強がるのもそこまでにしろよ偽善者、こうなったらお前も袋のネズミだ。まぁ、もともとこの女がいるからにはそれに近かったけどなぁ!」


 しかし──、マズイことになった。

 冴木と日出さんは上、僕は下、状況から見て正に天国と地獄だ。


「アモン、やれ」

『わかりました』


 これじゃこちらに勝ち目何て無いに等しい。


『では、手始めに、罪刑変化“炎儡(パイロドール)”──』


 辺りの日が揺らぎ始め、人を模り始めた。

 以前屋上で一度味わった、燃やした人間を憶え、炎として操る罪刑変化だろう。


「……ッ?!」


 確かに厄介だと思った。人の形をして、更に声まで出すんだから。


『……アツイ』

『……アアアッ!』

『……タスケテクレッ!』


 しかし一番厄介なのは“コレ”だ。


「嘘だろ……?!」


“知っている人間を模る”


 しかもそれが、一度は夢を語り合った仲の相手なら猶更だ。


「感動の再開はどうだ? 偽善者?」


 神郷高校二年四組出席番号三番“青木大河(あおきたいが)


 同クラス出席番号六番“亀田洋治(かめだようじ)


 同クラス出席番号二十番“三木優希(みしろゆうき)


 かつて『例の三人』と呼ばれた、三人の生徒達だった。


「……」

「嬉しすぎて涙も出ないか? 偽善者」

「……さ……ない──!」

「オマエが俺を裏切るからこうなったんだぞ?」

「……さない──!」

「どんな気持ちだ? 情の移った豚どもを潰されて、料理されて目の前に出される気分はさァッ?!」


 一つの感情だけが、僕の全身を動かした。


「──許さないッ!」


 『怒り』だ!『怒り』しか湧いて来ない!


「ハハハハッ! そうだ! その顔だ! 見たかったんだよなぁ! いつも勝ち誇った様な顔してる奴の! そういう怒りに満ちて仕方の無くなった顔が!」


 感情が思い切り顔に出たのは何時ぶりだ? いいや、こんな感情任せに、表情と声を荒げたのはきっと初めてだ。


「冴木ィィィィィイッ!」

「アハハハハハハハッ!」


 足に力を込める。

 もう一度だ!もう一度一瞬で間を詰めてやればこんな状況──!


『──砥草』


 アモンが再び放った熱線は──、


「……ッ!?」


 再び僕を、僕の両足を貫いた。


「……あ」


 足の力が一気に抜け、身体が前へ崩れ落ちる。

 立ち直ろうとしても力が入らない……! 腱をやられたのか……?


「そのまま死ね……! 偽善者……!」


 冴木が僕を見下ろす中、三人の人型が、僕の元へ近づいてくる。


──あぁ、そうだった。すっかり忘れていた。

──僕はつい二週間前、怒りで二つの物を失っていたんだ。


 一つは助けたかった人で、もう一つは僕の事を思ってくれた存在だった。


『怒りは体を動かすが、それ以上に心を突き放す』


 いつか読んだ本にそう書いていた気がする。

 正しくその通りだった。

 僕が怒りで否定した冴木は僕を『偽善者』と呼び。

 僕の事を思って、神定罪の事を黙ってくれていたバラムまでも、僕は怒りで否定した。


『……アツイ……アツイ!』

『ワアアアアッ……!』

『……ノ』


 僕の元へと、三体の人型が歩み寄って来る。


「……クソッ!」


 立ち上がれないし、這う事ですら、痛みを耐えたとしても、さっきアモンに貫かれた左肩がダメになりかけているせいでままならない。

 身の回りを怒りで否定した結果、最後に自分の体にまで否定される。

 怒りで否定した者の末路だった。

 どうすれば良かったのかと、後悔する。


『後悔だけはするな』


 シュウはそう言うけど、まだ僕にはそれは出来ない気がした。

 だったらどうすれば良いんだ。

 頭の中で、試行錯誤と偽った後悔を行う一方で、


『コン……ノ』


 地に伏せ、死の瀬戸際で悩んでいる僕に声をかける様に、その三城を模した人型は言った。


『スマ……ン……コンノ……』

「……!?」

『ゴ……メン……ナ……』

「三城……?」

 

 聞き間違いじゃ無い。


『ゴメンナ……ヤサシクシテヤレナクテ……』


 辞世の句を詠む様に、燃え盛る三城の人型は僕に誤っていた。

 そしてどういう訳か──、


『オマエラ! モウヤメロ!』


 三城の人型は、他の人型二体を止めようと、僕の前へ立ち始めた。

 僕を守ろうとしているのか……?!

 僕が驚愕する一方で──、


「アモン! これはどういう事だ!」

『……懺悔ですか』

「は……? 懺悔……?」

『己を払拭しようと、罪そのものが懺悔を始めているのです。何故こんなことが……?』


 アモンと冴木の反応を見る限り、その驚きは僕だけの物では無かったらしい。


「三城……!」

『ウアアアアアアアッ!』


 ダメだ。

 折角、僕を守ろうとしているのに、見ている事しかできない。


「アモン! あの人型を消せ!」

『それはできません。原因は分かりませんが、どうやらあの人型は、他の二体と違って、自身の意思だけで動いているのです』

「だったら他を増やせ! 出来る限り多く! 今まで焼き殺した奴等の罪! 全部吐き出せ!」

『しかし! それではアナタの罪が──!』

「良いからやれ! ここまで来たんだ! ここまで来たならもうやるしかないんだ!」

『…………分かりました』


 その場で踊り狂う炎全てが踊りを止め、人の形を模り始める。


『ウオオオッ!』


 一体、二体、三体と、更に人型が増えて行く。


「もう……もういいよ──!」

『ウガアアアアアアアッ!』

「もう僕の為なんかに頑張らなくていい! だから! だから! もう休んでくれよ!」


 それ以上は、意味が無い。

 生きているだけで罪になる人間を助ける為に、どうしてここまで頑張ろうとするんだ……!


『アアアアアアアッ!』


 バラムも、三城も、シュウも、楓さんも、帝原さんも、皆、どうしてこんなにも──、


「紺野! お前は──!」


──僕に優しくしてくれるんだ?!


「──お前はどうして! いつも誰かに助けられるんだ!」


 何体もの人型に囲まれる三城、遂に手も足も出なくなり。手を持て余した他の人型はコチラへと寄って来る。


「……」

 これが本当の最後か。

 でも、僕からすればあの日、あの時、マンションの上から飛び降りた時よりかは、案外頑張った方なんじゃないのか?


「……」


 最後に一度、冴木の顔を見上げる。


「……?」


 どうしてアイツは、涙ぐんでいるんだ?

 自分を認めなかった人間を殺せると言う時に、どうして涙を流しているんだ?


「……!」


 あぁ、そうか、アイツは、冴木は後悔してるんだ。


 僕と同じだ。


 自分を思ってくれていた人に裏切られて、それに期待しすぎて、果てにはその人を突き放してしまう。


「ごめんな……バラム」


 すっかり忘れていたその思いを僕は口にする。

 罪が僕を蝕むせいで、理由はわからないけど、涙が流れて来た。


──せめて、アイツの願いを叶えてやりたかった。


 人型は僕の周りを囲む。


──僕の願いを叶えてくれたアイツの願いを叶えてやりたかった。


『……ユウヤ』

「……なんだ」

(とど)めはどうしますか?』

「……好きにしろ」

『……コンノレイ、バラムの契約者よ──』


 アモンが僕に指を向ける。


『この一撃を以て、アナタは死を迎えます──』


 時に思う、どうして悪魔は、時にこれほどまでに人に優しいのであろう。

 

グラシャボラスは兎も角、アモンやバラムは、少なくとも契約者を思い、行動していた。


『アナタはよくやった。だからどうか、安らかに眠りなさい──』


 中にはビトルみたいな、契約者を好きになる悪魔もいた。


『罪刑変化──』


 ああそうか──、

 

 死を覚悟しながら、その理由に僕は気付いた。

 簡単な事だった。確かバラムは『人を支配することを拒んで』天使から悪魔になったのだった。


『──砥草』



──優しいから、悪魔なんだ。



 アモンの放つ熱線が、僕の背中のど真ん中をめがけて飛んでくる。

 目を瞑る。もうコレが、二度と開くことは無いだろう。いいや、三度か、僕は一度死んでいるのだった。


「……」


 最後に日出さんの事を思う。

 嫌だなぁ、僕のせいで人が死ぬんだ。

『ごめんね』と心の中で彼女に、謝りながら、僕は最後を──、


『……?!』

「……何?!」


……?


「……何を謝っているのだ? レイよ?」


……え?


「全く、相変わらず、こういう時は勘が悪いのだな、お前は」

「何でだよ……」


 三度目に開いた瞳で僕は見た。

倒れ伏せる僕の背から、その『手』は生えていた。


『コレは……!』

 辺りの人型達は不意を突かれたアモンの心を表す様に、驚きたじろぎ、その場から離れる。

 手はアモンの放った熱線に貫かれる事無く、そのまま受け止め消失させた。


「何で? 何でも何も、三度目の正直と言うヤツだ」


 そしてその手の主は紛れも無く──、


「バラ……ム……!?」

「待たせたな、レイ」


 僕の最高にして最悪の、唯一の契約悪魔、バラムだった。






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