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『生罪の悪魔』 ─ A Devil of life sin ─  作者: リクトシヨン
四章:生
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十七話 『穢炎』

 燃える人柱達の前で立ち尽くす冴木。

「息はもう止めなくていい、でも……目はまだ瞑っておいて……!」

 僕は冴木を見ながら僕は女の子を背から下ろし、小声でそう言い聞かせた。

「……その声、紺野じゃないか……どうやって来た……って言っても、ここにいるって事は、紺野、お前は──」

 バラムの言う通り、冴木は昼の時点では僕が契約者だとは確信づいてはいなかったらしい。

「いろいろ言いたい事はある。けど、その前に──!」

 もう、悲しめない。

 冴木が何を考えているかは分からない。けど、いくら人が死んだとしても、僕はそれを悲しむ事はできない。


 けど──、まだ話し合う事はできる筈だ。


「この人達は何もしてない筈だ! 人殺しも! 放火も! お前に何かした訳でも無い!それなのに……!」

「ん? あぁ……この人達、いや、ゴミ達は……その女の子を置いて、自分の事だけを考えて逃げ出したゴミ共だ。今頃は、自分の部屋で消し炭になってるアイツと同じゴミ達だ」

 冴木は女の子を指さして言う。

「……アイツ?」

「……“岡寺”の事だ」

「……ッ!?」

「前に……ココに会いに来たことが事あったのさ、そしたらアイツ、何て言ったって思う?」

 冴木は笑った。

「ハハハッ……『三城と仲良くしろ』だってよ」

 人を馬鹿にする様な笑い声だった。

「ハハッ! バカだよなぁ! 無理な事言って俺が景気付くと思ってたんだろなぁ!『その言葉のせいで教え子の成績も!仲良くして欲しかった人間も死んだ!』って教えてやったらよぉッ! 大の大人が顔面くしゃくしゃにして泣いてたよ!」

「どうして──!」

 そんな笑い方、最近なら見慣れた筈だった。聞きなれた筈だった。けど──!


「──どうして殺したッ!」


 込み上げて来た怒りには、どうしても慣れず、僕はそれを抑えきれなかった。


「どうして?」

「岡寺先生も! 三城も!『お前の間違いを治したくて』ああしたんだよ! それなのに! それなのに──!」

「どうしても何も……嫌いなんだよ」

「──は?」

「その人を思って、()()()()()()する奴、僕は嫌いなんだよ……なんつーか──、」


 冴木は僕を見て──、


「『人の事思って怒る奴』丁度『お前みたいな奴(・・・・・・・)』が、俺は大嫌いなんだよ、紺野……!」


 そうはっきり言った。


「冴木……」


 だから僕も──、


「僕はお前を──!」


 冴木の目を見て言ってやった。


「──どうしても止めなきゃいけないッ!」


 願いを叶える為には──、


「やるぞ!バラムッ!」

『うむ!』


 いつも、いつだって、いつであろうが──、


「俺はお前が嫌いだ……だからお前も燃やしてやるよ、紺野──!」


 ──『争い』が付き物だ。


「……アモン」

『ええ、ユーヤ」


 僕達の周りを、炎のリングが囲む。

 いや、ここはコンクリートだ! 燃えるものなんて一つも──!


「……ッ?!」

 女の子は──!


 急いで後ろを振り返って後ろの女の子が無事かを確認する。

「……! 良かったまだ大丈──!」

「よそ見するな、偽善者が──!」

「──ッ?!」


 何かに肩を掴まれた──、


「やれ! アモン!」

罪刑変化(アルターパニッシュ)穢炎(ダルフ)”』

 その声と共に、何かに掴まれた僕の肩が一気に燃え上がる。

「熱ッ!?」

『この力……その男の言う通り、アモンらしいな……』


“アモン”


 その悪魔が僕の肩に放った炎は暫くすれば何事も無かったように消える。しかし──、


『気を付けろレイ、今できたその傷は我の力で治す事ができない……!』

「……?!」

『罪を燃やす炎だ。今、力ずくで治すとまた再発火する恐れがある……この厄介さ、流石だな! アモン!』

 冴木に目をやると、彼の背後には、そのアモンという悪魔がいた。


『久しぶりですね、バラム』


 梟の顔を持った炎の魔人、背には炎の翼を生やしたその悪魔は、腕を組んで僕達を見下した。


『その様子だと、オマエもこの状況には驚いているらしいな……?』

『ええ、まさかこの場に私を含め、我々悪魔と契約者が四人も集結するとは……』

『気持ちは分かる。が、オマエは一体、何をする気でいる? こんな箱一戸と人間どもを燃やして満足か……?』

『ええ、我が契約者の為です。それであれば私は』

『そうか、ならば──、』


 じりじりとバラムを通して伝わってくるこの感覚、グラシャボラスとも、ビトルとも違う……この感覚は……?!


『──失せよ! 我が契約者の邪魔だ……!』


 闘志だ──!

 バラムが僕の願いでは無く、悪魔を相手に、やる気になっている……?!


『柄でも無いですね、普段は見てばかりいるアナタがやる気になるとは』

『そっちこそ、普段は救世主気取りのオマエが〈この様な行い〉をするとは柄でも無いでは無いか?』

『何度も言いますが……〈我が契約者の為〉です』

 やる気になったバラムに呼応する様に、僕の身体を強化する力は、身体を動かさずとも、だんだんと、更なる力が籠っているというのが分かる。


『レイ、やるぞ!』

「……分かった!」

 だったら僕も、バラムのその気に答えられる限りは頑張らなければ!


「なぁ、紺野……」

「……なんだ!」

「お前ってさ、なんで悪魔と契約したんだ?」

「……死にたくなかったから、自分らしく生きたいから契約した」

「……そうか、じゃあ死ね」

 冴木がそう言うと、僕の右横、炎の壁から何かが飛び出してくる。

「コレは……!?」

 燃え上がる人型、その頭を見ると──、


「岡寺先生……?!」

 体育の授業に熱を注いでいた彼の顔、あの岡寺先生の顔をしていた。

「ハハハッ! 面白いよなァ! 悪魔の力ってのはさぁ!」

 冴木は笑い、火だるま……いや、火その物で創られた岡寺先生はイノシシの如く僕の元へと走って突っ込んで来た。


 確か先生は元ラグビー選手だった話を聞いたことがある。更に──、


『気を付けろレイ! その炎全てが罪を焼き切る炎だ!』

「わかった!」


 直ぐには回復を効かせられない厄介なオマケ付きだ。しかし──、


「そこだッ!」

 今までのに比べたら、単調な間の詰め方だ! 

 目で視て岡寺先生のタックルを僕は回避する。

 グラシャボラスやビトルの様な、フェイントや巧妙な手を使う悪魔なんかに比べたら、アモンの直線的な攻撃を避けるのは、今の僕にはいとも簡単な事だった。

 僕を外した岡寺先生は僕から見て左側の炎の壁へとぶつかって一体化するように消える。

「アモン! もっとだ! もっとアイツに『俺達』をぶつけろ!」

 前と左右に人型が現れる。

「良いか紺野! 俺はお前みたいなそんな弱い意志で悪魔と契約したわけじゃねぇ! 俺はな! 俺はなぁ──!」


 それぞれの人型の顔は、


「──『認められたいから』契約したんだよッ!」


 そう主張する冴木と同じ、苦しみと悲しみに満ちた表情をしていた。


『うああああああっ! タスケテッ! タスケテッ!』

『燃える! 燃えるよぉッ!』

『誰か! 私を助けてッ!』

「行け! 殺せ! 僕を認めない人間は! 全員焼き殺せッ!」

 燃えながら嘆く人型達に冴木が命令すると、人型達はふらつきながら僕の元へと走って来る。


『自身の炎で燃やし殺した人間の罪と形、記憶を憶え、それらを炎として蘇らせる。正に〈生ける屍〉ならぬ〈死に損ねの炎〉か……』

「『助けを呼ぶこと』が罪だって言うのか!」

『その娘を助ける事もしなかった人間達がそう言うのだからそういう事だろう』

 僕の後ろで勇気を振り絞り、涙を堪え、この熱さに風邪を拗らせながらも耐えている女の子を見て、その事には納得してしまう。しかし──、


「……ッ!」


 報われるべきは──、


「バラムッ! この子を守るぞ!」

『分った!』


 この女の子だ。

 絶対に死なせちゃいけない、絶対に一人にさせてはいけない、絶対に罪を背負わせてはいけない!


「お前の()()()()()が嫌いなんだよ! 紺野ォッ!」


 更に増える人型達、冴木は一体、どれだけの人を燃やしたのだろうか?

『イヤアアアッ!』

 断末魔を上げて、その炎が近づいて来た。もう僕が燃え尽きる覚悟で戦うしか無い。

「ごめんなさいッ!」


……幸いにも、この炎は僕の獄罪鎧で纏った拳で殴れば、僕の体に燃え移るだけで、それであればこの女の子を助ける事は出来た。


「お前はッ──!」


 二人目、三人目、四人目、五人目──、


「どうしてそこまで──!」


 六人目、七人目、八人目計──!


「──お前は人助けが好きなんだよぉッ! この偽善者がァッ!」


 偽善だっていい『人の為にいられる事』が僕の願いなんだ。

「どうして自分が傷ついてもそうやっていられるんだよォッ!」

 熱い、全身が燃えている。それでも尚、僕は人型を殴り続け──、


『ウアアアアアッ!』


 ──やがて二十八人目、冴木が罪を切らしたようで、それが最後だった。


 一方で、僕は合計二十八人の罪を背負って、その場に倒れた。

 全身が内側から燃えて行くのを感じる。更に今直ぐにはバラムの力で治せないと来た。

『レイ! 貴様、また死ぬ気か!』

 死ぬ気は無い、けど、コレで死ねるなら僕は──、


『まただ……! またもやこの状況で……! 神定罪からの罪を得られない……それにもう〈例の罪刑変化〉を使う事ができる罪も残ってはいない……!』

 願いを叶えて死ねる。幸せな死を──、



「そこまでッ!」



 しかしその男の声が、幸せな死を迎える筈だった僕を死の淵から蘇らせた。

『……?!』

 その男は、上から降って来た。

 僕達の前に、晴れの日なのに、雷鳴が如く音を立てて、落雷の如く、降って来た。

 その場には凄まじい暴風が吹き荒れ、その暴風で屋上全ての炎が消し飛んだ。勿論、僕の体を焼いていた炎も。


「うーん、二十二番目がマズイと聞いて来てみたら、オマケに二十一番目が丸焦げかぁ」

「……何だよ、何だよお前?!」

「んー? 制定者? まぁ、どっちかって言うと、もう君の立場には立てないかなぁ……二十二番目の契約者クン」

「……ッ!」


 僕は虚ろな視界でその光景を見ていた。

 赤い甲冑、いや……獄罪鎧(ギルティアマ)か? 全身に鎧を纏った男だ、顔を隠している為素顔は見えない。


「……クソッ!」

「逃げるの? 良いよ、今回はおあいこだ。僕達としても、これ以上の混乱は避けたいしね?」


 一方で──、冴木は炎にアモンに全身を包まれ、その炎の翼で飛び出し、どこかへと去って行った。


「さて、二十一番目くん……ああ、流石にその様子だと喋る事も出来ないか……まぁ、いいや! ひとまずは『僕達』と一緒に来てもらうよ!」

 その男の顔は見れなくとも、僕は心の奥底で思った。


『どうしてこんなにも落ち着くのだろう』

「ん? 落ち着く? どうもありがとう!」

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