十一話 『声』
7月8日 午前5時13分──、
あの後の事は、自分はよく覚えていなかった。
唯一しっかりと覚えていたのは、僕は二人の人を助ける事ができず、泣き、喚き、走り、家に帰ったという事だけだった──、
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
罪悪感に苛まれ、僕はリビングでうずくまっていた。
『レイ! しっかりしろ! コンノレイ!!』
グラシャボラスは自ずとあの男の子の契約者との契約を破棄した。
悪魔達が罪刑変化と呼ぶ力は『契約者に降りかかる刑を悪魔が罪を費やし変換して形となる』訳で、無論、心臓を潰されたままの契約者の肉体は、悪魔か契約者が力を使わない限り再生することは無いのだ。
グラシャボラスはあの小さな契約者が稼いだ罪を、あの『存在を消す罪刑変化』を使ったおかげで、僕達相手に全て罪を使い切ったのだろう。
バラム曰く、基本的には悪魔にとって、契約者と言う存在は自らの夢を叶える為の道具に過ぎなく、僕達はたまたま『気が合う』というか『バラムが僕を気に入ってくれた』お陰で、比較的安定した主従関係を結べているだけであり、基本的にはグラシャボラスの様な悪魔が契約者を騙すことが多いらしい。
「どうしてだよ……! どうして!」
甘く見ていた。バラムの力さえあれば、なんとでもなると思っていた。
けれど、いざ、本当に人を助ける為に動こうとすれば、そこには悪魔がいて、悪魔は僕を嘲笑う様に人を殺し、契約者を見捨てた。
結果的に、僕はあの女性を救う事は出来ず、男の子を殺してしまった。
『違うぞレイ! ああしなければ、オマエはきっと──!』
「黙っててくれ!!」
殺した。
僕が殺したんだ。
それは『皆の為になる事ができなかった』んじゃない『僕の為になる事ができなかった』んだ。僕が弱かったからだ。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
『待て……! レイ! それ以上自分を攻めるな……!それ以上は──!』
まるで穴が開いているかの様に、僕の胸からは、ドロドロとドス黒い液体が漏れ出て来た。
「うるさい!だまっててくれ!」
『それ以上は!溢れ出た罪が行き場を無くし──!』
その“罪”は、ドロドロと憎たらしく僕の周りに段々と広がり、
『──罪が刑に変わるぞ!』
やがて無数の棘となって──、
『レイ!』
グサリ、グシャリと、一斉に僕の体を串刺しにした。
「あ」
痛みは感じなかった。
ただ、これが僕に対して神様が下した罰なんだろう。
脳、目、心臓、肺、胃、腸、手、足。無数の棘は僕の体の至る所を貫いた。
痛みを感じない所が、神様の下した判断らしい所ではある。
『駄目だ! 再生が効かない……! 死ぬなレイ! コンノレイ!』
もういいだろ、どうせ僕は……。
“生きる価値も無い人間なんだ”
「……ぱい!」
……。
「紺……ぱい!」
え……。
「紺野先輩!」
あぁ——、
「救急車……!救急車呼ばなきゃ……!」
僕……家の鍵、閉め忘れてたんだ……。
*******
7月13日 午前10時23分──
「……」
『目が覚めたか、レイ』
「……」
ただ白さだけが目立つ天井だった。
体を置き上げた途端に薬品の臭いが鼻に着いた事、回りをカーテンが囲んでいた事、僕が白いベッドの上で寝かされていた事、そのベッドに『305』という番号札が付けられていた事、色んな事情が脳で整理されて行き、ここは病院だと僕に気づかせてくれた。
『大丈夫か……? レイ?』
ベッドから身を乗り出して、カーテンを捲る。
部屋にいる患者は、僕と、あと一人らしく、そちらもカーテンで遮られており、そこそこの距離があるので——、
「(……大丈夫)」
そちらに聞こえない様に、出来る限り小さい声でバラムと話す事にした。
『ならば良かった……』
「……」
『彼女……ヒデカンナには感謝する……。お陰でレイの気を取り治し、意志の強さと、あの溢れんばかりの罪を使って、体に開いた致命傷を塞ぐ事が出来た』
「……」
僕はまた、日出さんに助けられたのだろう。彼女を理由にこの世に残ってしまった。
あの朦朧とした意識の中で見た光景、彼女が“僕を大事に思ってくれていた”それだけを理由に、僕は残ってしまった。けれど——、
「(……どうしたら良かったって言うんだよ……? バラム……!)」
バラムに聞いた。
『躊躇わずに殺せば良かったのだ』
「(それじゃダメなんだよ、いくら契約箇所を壊すって言って、人の頭なんて潰したら、殺してしまう。悪魔だったら生きてるのかも知れないけど……あの子は……あの男の子は……人間だったんだよ? バラム?)」
『……しかしアレは殺してしまったも同然だ』
「(うん……殺した……僕が殺した。女の人も……自分の事で必死で……助ける事が……出来なかった……)」
涙が頬を伝った。悔しさ、情けなさ、辛さ、色んな物が入り混じった涙だった。
人を殺しておいて、見捨てておいて、好きな人を理由に生き続けるなんて、僕は──、
「(もう……どうしたら良いんだよ……)」
なんて最低で最悪な罪人なんだろうか。
『レイ』
しかし、そんな最低で最悪な人間にこそ、悪魔は囁いた。
「……?」
『それは違うぞ……』
どうせバラムの事だから“悪魔からすれば良い事だ”だとか言うのかと思った。けれど──、
『好きな人間を理由に生きる等! 得られる罪こそ少ないが! 素晴らしい事では無いか! レイ! 嗚呼! 良い! 良いぞコンノレイ! 流石は我が認めた人間よ!』
この悪魔は、相当に僕の事を気に入っていた様だ。
正確には、この悪魔はグラシャボラスとは違って、罪の量や、契約者の扱い易さでも無く、僕の信念を気に入っていた。
『それでこそだ! それでこそ我が願いを叶えるに等しい悪魔よ! コンノレイ! さぁ! 願いを言うのだ! オマエの本当の願いを我が叶えてやろう!』
「(本当の……願い……)」
『そうだ! 本当の願いだ! 死や生に囚われる事も無い本当の──!』
と、バラムが話している最中。
「先輩は目覚めて無いんですか?」
「はい、もう5日は経つのですが……」
誰か……いや、1人は日出さんで、もう1人の男の人の声は……きっとこの病院の人だろう。
近づく足音と共に、シャラッと勢い良く丁寧にカーテンが捲られた先には──、
「あ……」
小袋を持った日出さんと、それに付き添う“白衣を着た髭面の男性”の姿があった。
「せん……ぱい……」
と、唖然とする日出さん。
「……どうも」
対して、心配をかけた相手に対して、僕はそんな味気の無い挨拶をしてみた。
「先輩ッ!」
そしたら、日出さんは持っていたのかを忘れたかの様に、手から小袋をすり落として目を拭う。
「……グスッ……大丈夫ですか!!」
小袋からこぼれ落ちたりんごよりも、僕の事を気にしてくれた。
「……うん、大丈夫」
「本当……ですか……ッ!本当に……大丈夫なんですか……ッ!?」
彼女は両手で僕の手を取り、ギュッと強く握りる。
「……ありがとう」
僕は嬉しさと涙の原因が釣り合ったのか、いや、ただただ嬉しかったのか、その言葉が口から漏れ出た。生きて良かったと思った。
『レイ、お前は本当にややこしい奴よ』
“自分の為に生きる”
そう言って僕は“本当は他人の為に生きてるのかも”と思っていた。けれど本当は、バラムの言う通りに、僕はしっかりと自分の為に生きていた。
「嬉しい所ですが、失礼します、日出さん。少し部屋から出ていただいても?」
「……はい」
日出さんは言われるがまま、リンゴを袋に入れ直し、僕に渡した後、部屋を出て行く、
「ちょっと体の様子を見せてもらうね」
白衣の男性はそう言って僕の手首に触れた。
「うん、脈は安定してるね」
その後も、検温をしたり、聴診器を胸や背にあてたり等の検査をした後──、
「落ち着いて聞いてほしい」
と、その神郷町中央病院の医師“語部葛城“先生は僕が意識不明になっていた五日間”の事を話してくれた。
「五日間?!」
「うん、五日間、けれど紺野君、キミの体に外傷は一つも無かった。かといって何か悪い所がある訳でも無く、寧ろ無さ過ぎてびっくりした程だよ」
「なるほど……じゃあ『ただ寝てただけ』と……?」
「そうなるね」
通りで妙に腹が減っている訳で、僕は日出さんが持ってきてくれたリンゴに丸々かじりつきながら先生の話を聞く。
「それなのにこの五日間と数時間、一度も目覚める事は無かった。不思議だねぇ……」
「……」
大体の察しはついているというか何と言うか、あとで自信満々気に話を聞いているこの悪魔に事情を聴かねばと思った。
「その……日出さんはキミの学校の後輩かい?」
「ハイ」
「彼女曰く、君を見つけて病院に知らせを入れる前キミは”血まみれで倒れていた”と言うが、私がキミを見た頃には傷は無かった訳で、色々と話がおかしい訳になるわけだが、それについて、何か心当たりはあるかい?」
「それは……」
勿論心当たりしか無いが……、
「多分信じてくれないし、自分も信じられないので言えません」
そう答えるのが妥当だと思った。
「なるほど、まぁ無理も無いよ、この世は不思議な事で満ちているからね、医学で解明出来ないことも起きてしまう事もあるさ……。所で──」
流石医師と言えるのもあって、
「僕は出来る限りそう言うことは信じるようにしてるから、聞かせてくれないかい? 勿論、他言無用で」
案外興味津々だった。
一方で、バラムは、
『良いだろう、話せ』
と、コイツもコイツで意気揚々だった。
ならばと、
「先生、先生は悪魔を信じますか?」
そんな怪しい宗教の勧誘みたく、僕は話を始める。
「うーん、どちらかと言えば信じてるかな?」
「ならいいんですけど、僕、実は悪魔と契約をしたんです……」
「……確かになかなか胡散臭い話だね、猶更興味が湧いた。続けて貰ってもいいかい?」
「……はい」
僕は、バラムと契約してからの起きた物事を語部先生に話した。
先生は真剣に聞いてくれていて、少し嬉しかったし、当のバラムも自信満々気に話していた。
「そして今に至ります……」
「なるほど、ちなみに、今も君の中には悪魔が?」
「ハイ……」
「じゃあ、一つ聞いてほしいんだ」
「どうぞ」
「悪魔は、キミたちは僕の様な『命を助ける存在』をどう思う?」
「……どうなんだ、バラム?」
バラムはその先生の質問に対して、
『我は別になんとも思わん、しかし、神はきっと気には食わないだろうな』
そう答えた。
「バラムはなんとも思ってないらしいです。けれど──、」
「けれど?」
「神様はその存在を気には食わないらしいです」
「ほう」
質問の答えに、先生は『意外だ』と言わんばかりの表情をする。
「今まで人を助ける事は神様に好かれる事だと思ってたんだけどなぁ……」
「僕もです……」
僕たち二人の反応を見てバラムは、話を続けた。
『神は何よりも、物事が予定通り進まない事を嫌う。“死の運命”という予定を変える存在は、きっと奴等は好まないだろう』
そして僕はそれを直接先生に伝えた。
「それだとまるで神様が悪魔みたいじゃないか?」
「『安心しろ、普通、死の運命はたやすく変えられるものでは無い、故に、お前達、医師がしている事柄には対して恨みを持つことも無い、寧ろ事柄を運命通りに進められる存在として気に入ってすらいるだろう。しかし、一方でそれをたやすく変えられる存在がいるそれこそが──』」
「“悪魔”かい?」
「……『そうだ』って言ってます」
「なるほど、興味深い」
「『我々悪魔は運命を変える事を生業としている、故に神からは勿論好まれていないのだ。実際、我は既にコンノレイという一人の人間の運命を変えてみせたそして──』」
「そして?」
「『それを代償に、悪魔と契約した者には、一つ、してはならない、すれば罪を得られる──』ってバラム! なんだそれ! 聞いていないぞ!?」
「……? 何かあったのかい?」
「『悪魔と契約した人間には、契約者が〈神が選んだ行動〉をするだけで、神が一方的にそれを〈罪〉と裁き、罪が成される〈神定罪〉と呼ばれる罪がある』って……!」
「それは紺野君にもあると?」
「『ある』らしいですけど……」
「けど……?」
その『けど』を話そうとした瞬間に、
「語部先生、急患です! お戻り下さい!」
と、一人の女性の看護師が駆け込んできた。
「おっとすまない、また後で聞かせてもらおうかな?」
「は……はい……!」
「じゃあ、またあとでね」
看護師と一緒に、語部先生は急ぎ足で部屋を出て行った。
そして、彼等と入れ替わる様に、
「どうですか?」
「うん、大丈夫そう、明日には出れるってさ」
「なら良かったです!」
日出さんが僕の元へと戻って来た。
「リンゴありがとう、美味しかったよ」
「え?! そのまま食べたんですか!?」
「うん、いちいち切らせたりするのもなんだし、それに──」
「グウッ」と、『もっと飯を寄越せ』と言わんばかりに、約五日間空っぽだった腹の音が鳴る。
僕と日出さんはそれを聞くや、二人で微笑む。
「あはは、まだちょっとお腹空いてるや」
「うふふ、リンゴ一個じゃ流石に足りませんよね」
「そうだね」
僕の腹減りの具合を見た日出さんは、
「あのー、丁度下の階にコンビニがあるので、もし良かったらおにぎりでも買ってきましょうか?」
と申し訳ない事を聞いて来た訳で、僕はそれに対して──、
「え……? いいの?」
「ハイ! 大丈夫です! それに……! この前カフェで奢ってくれましたし!」
「じゃあ……」
少し悩みながらも──、
「ツナマヨおにぎり一つお願いできるかな?」
「ツナマヨですね! 他には?」
「じゃあ、お茶で」
「わかりました! 待っていてください!」
「ありがとう」
僕は日出さんに甘えることにした。
「ゆっくりで大丈夫だからね?」
「わかりましたー!」
と、日出さんは下の階へと向かって行った。
「ふう……」
『お? 久し振りに罪を感じるが?』
「……王様って訳じゃないから人を使わす事に抵抗があるんだよ」
『ふむ、その割にはなかなかの使せぶりだが?』
「……うるさい」
僕はベッドに仰向けになる。
「なぁ、バラム」
「なんだ?」
「さっきの続き、いいか?」
「良いが、その前に我から一つ良いか?」
「いいよ、何?」
「ヒデカンナには、我の事は言わなくても良いのか?」
珍しくバラムから僕に質問をして来た。
「……なんだ?言って欲しいのか?」
「あの娘であれば、レイのいう事を信じるだろうと思ったのだが?」
確かに、彼女であれば僕の言った事ぐらい二つ返事で信じそうだ。実際、僕が血まみれで倒れている時に出くわしていたわけだし……、でも──、
「……それでも言わないし、言いたくないかな」
彼女だけには、言わない方が正解な気がした。
「それはオマエの為にか?」
「僕の為でもあるし、彼女の為にでもあるかな……。何かこう……、僕達に関わると“良くない事”が起きそうで仕方が無いんだ……」
「ほう……」
実際、僕はあのグラシャボラスに目を付けられてしまった訳で、もし彼女が奴に目をつけられたらと考えると、寒気しかしない、きっとバラムも僕のこの考えは分かっているだろう。
「……で、バラム」
「なんだ?」
「僕の神定罪は何なんだ?」
『……それに関してだが──』
些細なことであってほしい、楽をして罪を稼ぎたいのもあるし、人を殺したくないというのもある、というかそれに尽きる事は──、
『──〈不明〉と言うのが正解だ』
「……え?」
『〈わからない〉だ』
「……そういうものなのか?」
「否、普通は契約者と契約した際に、悪魔がその人間の神定罪が『何か』は分かっている筈なのだ。しかし……」
「わからないのか?」
『そうだ』
「『分からなかったら』どうなるんだ?」
『そこまで大事には至らぬ……と言う訳でも無いな、楽な罪の稼ぎ方を知らぬままにいる訳だ』
「困ったな……ん? 待てよ……!」
一つの事に気が付いた。
「まさか、グラシャボラスに会った頃、バラムがあれだけの力を使えたのは……!」
『レイ、オマエが神定罪を成していたが故にだ』
おかしいなと思った。
僕は罪を一度も犯していなかった、けれど、バラムは使い方や能力などは解らないが、力を使っていた。それも一度じゃない、かなりの回数だ。
「だったらいつ、僕が何をしたら罪を得られるかは分からないのか?」
『その事なんだが、レイ、オマエからは今でも罪は湧き出ているのだ……!』
「……今も?」
『そうだ、今もだ……!』
「どういうことだ……!」
『わからない、しかし──』
僕達が思考を明晰し合うその時だった。
『いや……待て!』
それはバラムだけでは無く、僕にも気づいた。気づいてしまった。
グラシャボラスとの事があってだろう、きっとあの時に覚えてしまったのであろう──、
「分かるぞバラム……! 何だ……“コレ”!」
心の奥底で感じるドス黒さ、黒さに沁みついてしまったその匂いを僕は覚えてしまっていた。
『奴だ……!』
「まさか……嘘だろ……! ここは病院だぞ! それに──!」
いや、僕が気を失ってから五日間、奴が何もしなかったとは考え難い……だとしたら何をしていた? きっと僕達を殺す為にその策を模索……いや……奴はそんなことはきっとしない気がする……! だったら──!
『自棄か……! 奴らしいと言えば奴らしい、しかしそれでも──!』
「こんな事あるか……!」
いや、ある。ここ神郷病院は坂見市の代表的な病院の一つだ、市内で重傷を負った患者の大半がここに連れられて来る可能性の方が圧倒的にある。悪魔の契約対象とグラシャボラスの契約の手口……そしてこのタイミング……!
「……ッ!」
駄目だ。
考えちゃいけない。
これ以上考えると嫌な予感しかしなくなる。
「キャアアアアアッ! 誰かアアア!」
遠くから悲鳴が聞こえる。
「バァアアアアラァアアアアアムウウウウウッ?」
思わず口を塞ぎたくなる声が聞こえる。
「シンサつのォッオ時間ですよぉ~!」
さっき僕達の元に、語部先生を呼びに来た看護師の声だ。
「バラム~くぅ~ん!!」
しかし、元の彼女らしさと言う物も感じ取れない、その声が近づいてくると同時に、その胸の底から感じる悍ましさや気持ち悪さが強さを増していた。
「ここですかァ!!」
来た……! 部屋に入って来た……!
「どーこかナァ!」
この話し方、間違い無い、グラシャボラスだ……! マズいぞ……ここには僕だけじゃなくて他の人もいる……!
けれど、それよりも──!
「ここかなぁ?!」
シャッと、自分の前の病床のカーテンがめくられた音がする。
日出さんは大丈夫か……?!
「あの……どちらさまで──」
「なーんだ……違うのカァ!」
「……え?」
前の人の声が、一瞬で聞こえなくなる。
「……ッ!」
『落ち着けレイ……!』
落ち着けと言われても……! ていうかバラム、話していいのか?!
『囁きの力を使っている。おそらくヤツに聞かれることは無いだろう……! しかし……!』
足跡がこちらに近づいて来る。
きっと逃げ道は無い、だとしたらもう、ここでやるしかない……!
体を起こし、ベッドから這い出ようとすると……、
『待て、レイ!我に考えがある……!』
バラムが僕を止めた。
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続きは来週土曜日十九時に投稿予定です!




