31話 信頼からの裏切り
《side恭也》
俺は目の前の男に精霊武器を向ける。男は腕から血を流している。そんな状況の俺らに視線が集まる。そして、重い空気が漂う。
「そ、そんな!」
最初に声を発したのはまさかのアメリア様だった。
そういえば、この男アメリア様の執事やってたんだっけな? 名前は……アントンだったっけな。
「この者は私の執事です! 魔王の手下のはずがありません!」
「実際、その男はナイフを持っていたんだぞ?」
「そ、そんなはず……。アントンは私が小さい時から……」
不安、恐怖、信頼……沢山の気持ちが彼女に渦巻いているのだろうな
アメリア様はアントンの手を取り、握りしめる。
「ね…ぇ……。アントンは私の味方……よね?」
「………」
「ねぇ。なんか……言ってよ……」
アントンはだんまりである。
次の瞬間、アントンの腕が溶け始め、腕だったものがアメリア様の腕にからみつく。
「きゃっ!」
アメリア様はアントンの腕を取り離そうとしているが、滑って取れない様子である。
「ま、魔物だ!」
「逃げろ!」
混乱のあまり周りの人達は会場から逃げていく。俺は鑑定してみた感じ周りに魔王の手下は居ない様子であったのでそのまま逃がすことにする。
俺はアントンの腕を斬り飛ばす。アメリア様に絡みついていた謎の液体は動きをやめた。しかし、アメリア様の腕には火傷のような傷が残ってしまった。
俺はそのままアントンの首を目掛け、精霊武器を振り下ろす。
「死んで……ないな?」
なんと、両手と頭を失ったアントンから、まだ生命力を感じる。
俺のその言葉を聞いたアントンは何事もなかったように立ち上がる。
俺は一旦アメリア様を抱きかかえ、離脱する。怪我人のアメリア様がいると戦いずらいしな。
「間宮さん、アメリア様に回復魔法を」
「わ、分かりました。[低級回復]」
間宮さんは慌てながらもアメリア様の治療にあたる。
とりあえず、これでアメリア様は大丈夫だろう。あの鬼龍にも力借りたいが……。
周りを見渡すと壁でぐーすか寝ている鬼龍を見つけた。
「酔っ払ってやがる!!」
なんと、鬼龍はパーティで出されたお酒を飲んで酔っ払って寝てしまったようだ。
「こんな時に! 間宮さん、アメリア様の治療が終わったらあの鬼龍を起こしてくれ」
「は、はい」
俺はアントンと向き合う。
現状、戦えるのは俺だけか……。王城を護衛している第一騎士団は何故か来ない。多分、アントンに何か盛られたのだろう。
「ふふふ」
アントンは顔が無いまま不気味に笑う。
「何がおかしい?」
「いや、あまりにも上手くいったもので」
「なに?」
アントンは手元にあったネックレスを見せつける。
あのネックレスは……ユエリア様の……?
「これはこの王都を守る結界の核です。今頃、大量の魔物が攻め込んでいるでしょうね! あぁ! 今日、この日のためにどれだけ待ったか。もう歓喜のあまり身体の震えが止まりませんよ!」
身体をウネウネさせながらアントンは笑い続ける。そして、アントンの身体はどんどん溶けていき、スライムのような形になる。
こいつはスライム系の魔物だったのか……。物理的に優秀な身体を持ってる。精霊武器で相手を凍らせて砕けばいいだろう。……しかし、問題は結界である。結界が壊れた。つまり、城壁の方には大量の魔物が攻め込んでいるってこと……。
俺は笑いがこみ上げてくる。城壁には既に彼がいるからである。しかも策があるみたいだったしな。
「城壁の方は大丈夫だろうな」
「なに?」
「城壁には既に俺の親友がいる。お前の計画は失敗するだろうな」
「ほう? だが、ここでお前達勇者を全滅させることも私の任務である」
「それはどうかな?」
精霊武器を構え、踏み出すのであった。
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モチベアップに繋がって執筆が捗るです(*´ω`*)




