24話 魔王からの刺客
柚葉さん達と別れた僕はサーチ&デストロイを繰り返しながら、森の中を駆け回る。
「なかなか、いい魔物がいないな……」
今まで遭遇した魔物はグロウウルフ、グレータースパイダー、ゴブリン、コボルトだ。その中で唯一、素材として使えそうな物はグレータースパイダーの糸とウルフの骨だけである。
『この森には、マスターが遭遇した魔物の他に、スライム、ブラッドバットしかおりません』
あ、そうなんだ。それなら、グレータースパイダーの糸は靭性でとても丈夫なので優先してグレータースパイダーを倒そうかな。
「[音波探知]」
魔法で魔物の位置を索敵しようとすると上からも反応があった。
「ん? なんだあれ?」
空を見る大きな翼を広げ、飛行している魔物を見つける。
『あれはワイバーンです。蜥蜴系統の魔物が進化の過程で飛膜を手に入れた魔物です』
あれ? 【大賢者】さん? 目の前に素材にうってつけの魔物がいらっしゃるのですが?
【大賢者】は世界記憶に干渉してありとあらゆる事を知ることができるばず……では?
『あのワイバーンは世界記憶に記録されておりません』
……ん? つまりどういう事?
『何者かが世界記憶に干渉して記録を隠蔽または削除していると思われます』
世界記憶に干渉するなんて……。もしかして……。
『ご察しの通りです。神があのワイバーンに関する行動の情報を隠蔽していると思われます』
もしかして、ソフィア様?
『ソフィア様はそんなことをしません。恐らくですが、魔王を支援している大罪の男神サミュエルが干渉してるのでしょう』
と言う事は魔王の支配下にある魔物って事……。つまり!!
僕はすぐに親友の顔を思い浮かべる。
【大賢者】!! 恭也の位置は!!
『ここから北東に92mです』
ありがとう!!
僕は急いで恭也の元へ向かう。
魔王が勇者を殺すために用意した刺客だとしたら恭也が危険だ。【空間魔法】が使える僕なら彼を遠くに転移させることができる。
ワイバーンは狙いを定めたのか、急降下する。
駄目だ。もっと急がないと!
僕は【魔力エンジン】も使用し、限界まで身体強化して全力で走る。
「[望遠鏡]見えた!」
僕は光の屈折を利用した魔法で遠くを見る。
恭也達はワイバーンに気づいており、木々を駆使してワイバーンの攻撃を防ごうとしているようだ。
「これなら大丈夫かも……あっ」
ユエリア様がまさかのここで転んでしまったのである。ワイバーンは彼女目掛けて突っ込む。
「[短距離転移]」
僕は咄嗟に【空間魔法】で転移し、彼女を抱きかかえ、そのまま全力でその場から離脱する!
なんとかなったぁ……。正直、他人を助けるなんて面倒なことをしたくはなかったが、彼女が死ぬとエミリアが悲しむと考えたから助けたのだが……。
「大丈夫ですか? 聖女様」
僕はユエリア様が大丈夫か、確認する。流石にこの状態じゃ戦えないからね。
「は、はい」
彼女は頬を赤らめながら答える。
流石にお姫様だっこは恥ずかしいのだろう。
「それじゃあ、下ろし……っと危ない」
僕がユエリア様を下ろそうと時、ワイバーンが血眼でこちらに走ってくる。僕は身体強化をしながら、ワイバーンの突進を躱す。
う〜ん。両手塞がってるから早く下ろしたいんだけど、ワイバーンが邪魔だな。
そう考えいるとワイバーンの後ろに人影が見える。
「こっち見ろやぁ!」
後ろに居たのはあの模擬訓練で僕がワンパンKOしたバカと言うあだ名の奴だった。
バカは大剣をワイバーン目掛け思いっきり振り下ろす。しかし、ワイバーンは身体を反らし、躱す。
「バカ! よくやった!」
「うっせぇ! 俺はバカじゃねぇ!」
下ろす時間ができたから正直に褒めたのに……。
「とりあえず、下ろしますね」
僕は膝をついてユエリア様をその場に座らせる。そして、恭也ともう一人の女性がこちらへ来る。
「助かったよ、陸」
「たまたまだよ。それより、そこの君。【癒やしの勇者】だっけ? 一応ユエリア様に回復魔法を」
「は、はい。失礼します。【下級治癒】」
彼女はすぐさまユエリア様に回復魔法をかける。
「よし。それじゃあ、バカとキョウヤ。あのワイバーンを倒すぞ!」
「おう」
「だから俺はバカじゃねぇって!」
僕達は武器を構え、目の前の怪物に牙を向くのであった。
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