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番外編2 とある貴族令息の末路(ややグロ注意)

蛇足かなと思ってカットするか悩んだのですが、番外編だしいいかなと・・・。

胸糞悪く少々グロい表現があります。ご注意ください。

次の話につながっていないので読み飛ばしても大丈夫です。

「クソ!なんで俺がこんな目に合わなきゃいけねぇんだ!!」


 ガン!!と低く野太い音を立てて裏道に乱雑に置かれていたがらくたが大きく凹んだ。


「あの女のせいだ!クソ!クソ!」


 ガン、ガン!と何度も蹴りつける。恐らく何か液体を入れていたであろう分厚い木でできた樽のようなものが見る影もなくただの残骸になった。



 男は三年前までは社交界で女を侍らせていた。整った顔立ちで口がうまく貴族の家の生まれ。ただ次男という点だけが気に食わなかったが、その分気楽に遊べる立ち位置でもあった。

 綺麗だと噂される令嬢たちに甘い言葉を囁き手を出しては飽きたら捨てる、というのを繰り返していた。



 ある時、月の女神のように美しいのに何度も婚約破棄を繰り返している捨てられ令嬢が実は尻軽だという噂を耳にした。美しすぎる見た目と体つきは前々から目を付けていたのでその話を聞いたときは体がほてって仕方がなかった。細い体にでかい胸という男の理想を詰め込んだような彼女の体を好きに暴けるなんて最高じゃないか、と同じように遊び歩いている仲間たちと盛り上がり、ある賭けのゲームをしようという話になった。


 自分に自信があった男は引っかけ役に立候補し意気揚々と捨てられ令嬢に声をかけたが・・・


「お断りいたしますわ。」


 返ってきたのは温度のない言葉と表情だけだった。


 憤慨した男は夜会で見かける度に彼女を物陰に連れ込もうとしたり、媚薬を入れた酒を飲まそうとしたり、あえてぶつかってドレスを汚しそれを理由に休憩室へ、などと様々な方法で彼女を犯そうとたくらんだものの、全て躱された。


 振られた、などと認めたくなかったのでその後は手を引いたが、彼女のありもしない噂をこれでもかと流してやった。ベッドの中では饒舌だった、淫乱すぎて疲れてしまった、などと。




 噂が広まるのを見て溜飲が下がり、そのあとは本当に尻軽な令嬢に目をつけては遊び、を繰り返していた。



 が、ある時、うまくやっていたはずなのに全てが父親にバレてしまった。自慢の顔があざだらけになるほど殴られた後弁明の機会も与えられず勘当され、何も持たされないまま家を放り出された。



 それなりに悪いことをしてきた自覚はあったが、お互い様だと思っていた。ここまで手酷くされるような覚えはなくいきりたちながら友人たちに助けを求めたが、どの家に行っても友人に会えず取り合ってくれない。

 仕方なく着ていたものを売り、ケガさえも武器にしてそこらの女に取り入って金を貰ったり家に住まわせてもらったりとしていたら、同じような状況に立たされた遊び仲間と出会った。


 そこであの捨てられ令嬢がバシード公爵と結婚したという話を聞いた。

 公爵夫人に不埒な真似をしたということで勘当されたと遊び仲間から聞いた男は憤慨した。


 あの女・・・あのアデリナとかいう女がすべて悪いのだ!!



 それから男はバシード家の近くをうろついたりしてアデリナが一人になるのを待った。

 だが彼女はなかなか外出しないため機会がなく、苛立ちだけが募って毎夜酒によっては裏道で暴れていた。



「ずいぶん楽しそうだね、お兄さん。」

「あ?誰だおまえ」


 男が蹴り足りず次の樽に足を延ばそうとしたところ、暗がりから人の声がした。若そうな男の声。


「だいぶ荒れてるね・・・そんなに悔しいの?」

「悔しいとかじゃねぇよ、むかついてんだよ。俺を嵌めやがって。あのクソ女殺してやる!」


 そう言って男はボロボロの上着のポケットからきらりと光るものをとりだした。


「あんだけ白い肌してんだから甚振りがいがあるよなぁ。殺す前に犯してやるさ。そこら辺の浮浪者にもおすそ分けしてやるさ、あの尻軽ならよろこ」


 嬉々として語る男の腹に熱が走った。

 気が付くと暗がりにいた男が自分のすぐ目の前にいて、腹に何か熱いものを押し付けている。


「なん・・・だ・・・お前・・・」


 熱さに耐え切れず手で押さえようとするとぬるりという嫌な感触があった。いつの間にか手に持っていたナイフが消えている。同時に目の前がぼやけ、暗くなっていく。


「ほんと、勘当されたぐらいじゃ屑は更生しないんだよね。義兄上は甘いんだよな。」


 男は崩れながら、消えたはずのナイフが自分の腹に突き刺さっていることに気が付いた。


「屑が平民になってうまくやっていけるわけがない。君は生活の苦しさから自殺したんだ。えーっと、アルバ伯爵家の次男の・・・名前忘れちゃった。とにかく君は自殺。ちゃんと処理してあげるからね。」


「・・・あ、が・・・」


「姉上を貶めておいて楽に死ねると思うなよ。」


 男の体に再度熱いものが押し当てられるような感覚が走った。それが痛みだと気づいたときには次の熱さが、そしてまた次の痛みと熱さがやってくる。


 地獄だ。ああ、これは夢だ。きっと今頃自分はうなされている、早く起きなくちゃ。



 ザシュ、ザシュ。グチュ。

 汚い音が誰もいない裏道に響く。




 男の目はすでに何も映していない。それを確認すると男に持っていたナイフをしっかりと握らせて、その手で腹の傷をもう一度刺した。



「・・・お疲れさまでした若。」

「若やめて。まじでそれヤダからね。人払いごくろうさま。次の準備は?」

「完了しております。」

「おっけ、じゃあさくっと行こう。」


 フードを被り直し、影に溶け込んだ姿のない男と会話しながら若と呼ばれた若い男は別の道へと歩き出す。


「害虫は根絶しないとすぐ沸きだすからね。姉上のためにも綺麗に掃除しないと。あーあ、もっと前からやっとけばよかったよ。陛下や父上に遠慮なんかするんじゃなかった。」


 その声に声も音も何もなく影が蠢くように頷く。

 影の一家としても少々変わった毛色だと噂される次期当主は影と同じように闇へと消えていった。





 一年ほど経った頃、バシード家の執務室で当主は少しだけ安堵の息を吐いた。


「・・・次は煩わせないようにしないと手酷く怒られそうだ。」


 その声にまた部屋の影が蠢いていた。



次はほのぼのエピの番外編となります。

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