14 出迎えの練習
翌日から、ヘンリー様が数人の兵士と冒険者と共に狩りに出かけた。
朝には不思議な……不味い訳ではなく、食べた事がないという意味での……お肉のシチューが出てきて、このお肉はどうしたのかと聞くと「練習で狩ってきた」という。質問した口で、そのままごくんと肉片を飲み込んだ私は、何の肉かは聞かないことにした。
これがこの領の普通ならば、私は慣れるべきだ。この領の領主に嫁いできたのだから。
そして、お屋敷からヘンリー様たちを見送ると、私はドレスではなくワンピースに着替えて私服の侍女と共に街に降りてみた。
馬車での屋敷から屋敷、城への移動へは慣れていたけれど、街におりたら歩くものらしいので、歩きやすいブーツも履いた。
一週間後に帰ってくるヘンリー様を一番外壁で出迎えるのが目標だが、今日は一先ず高級住宅が並ぶ街を見るともなしに歩いて回った。
素直に足が痛い。こんなに歩き回る事なんてなかったし、外を歩くのは屋内の柔らかい絨毯を踏むようにはいかなかった。足の裏に水膨れができてしまったが、こんなことでは一週間後に出迎えられないので、次の日も、その次の日も歩き回った。
4日目、護衛を付けて兵舎や冒険者の集う、壁の一つ向こう側へ出かけた。
高級店と住宅街の閑静な街並みではなく、獣と家畜の匂いがすごく、足元も均されていない土を踏み固めたような道のそこは、なんだか知らない世界のようだった。
食堂にも入ってみたが、粗野な見た目に反して食べ物は美味しい。護衛の好みに任せたが、出てきたのは臓物の煮込みだという。臓物が食べられるのだと初めて知ったし、思った以上に美味しかった。あとは、気軽に声を掛けて来る人が多かったのも印象深い。
「領主様は優しいだろう?」
「はい、とっても」
「そうなんだよ、あの人たちは俺らにも分け隔ても無いし、仕事として依頼を出してくれる。隣の国じゃあ冒険者じゃなく徴兵されて魔物狩りに使われて雀の涙だからな。腕に覚えがあるヤツはここにくるんだ」
「……お隣の国とは、我が国は険悪だと聞いておりましたが」
「あぁ、そんなのはお上の都合だろう。そういう事にしておきたい、んだよ。この領に人が寄ってこないようにな」
「俺らは皆隣の国の出身だけどな、別に地元でも隣国に恨みがあるなんて話誰もしなかったぜ」
「そうなんですね……」
私は手を止めて理由を考えたが、私一人で考えても分かる事ではない。
ヘンリー様にご相談する方が早いだろうし、知らない方がいいことならば追及しないようにしよう。
私は、少し冷めても美味しい臓物の煮込みを食べ終えると、次の日はまた一つ壁を越えて一番賑わう市井に出た。
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