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12 私の出来ること

 厨房で供される料理にも慣れて、ヘンリー様も私が来る前の生活リズムに戻っていった。


 といっても領地の運営は殆ど人任せでいいような体制を作ってあり、彼自身の肉体の鍛錬と魔物狩りが本来の仕事だと聞く。


 冒険者に混ざって魔物を狩る、その為の鍛錬だと言っていたが見学は不可らしい。危ないから仕方ないですよ、とルルーにも苦笑いされた。


(ヘンリー様がもっと知りたい……、私にばかりよくしてもらって、私にできることは何かないかしら……)


 お弁当を作る……のは無理だ。私は料理をしたことがないし、ヘンリー様の家事能力に今更太刀打ちできるわけもない。そもそも、お弁当など冒険の最中の一番最初に食べて、そのあとはお荷物だろう。


 私にできること、を一生懸命考えてみたものの、公爵令嬢としての淑女教育も、王太子妃教育も、生活能力や冒険者としての能力には一切役に立つことがない。


 魔法の才能というものにも恵まれなかったし、本当に何も……ヘンリー様にお返し出来ることがない。


「ルルー……、どうしましょう、私、ヘンリー様に何もお返しできない……」


「何を仰っているんですか。奥様は、旦那様が無事に帰られるのを祈って笑って見送って、帰ってきたら一緒にお祭りに参加すればいいんです。それが旦那様の喜ぶことですよ!」


「本当……?」


 泣きそうになりながら小さな声を震わせて訪ねると、もちろんです、とルルーは胸を叩いた。


「もうすぐ山のような大蛇を狩りに行くそうですよ。そうだ、お見送りはお屋敷からして、旦那様が帰ってくるまでに街に慣れて、街の門で旦那様を迎えられるようになりましょう!」


「そ、そうね。私が街に慣れたら、旦那様も少しは喜んでくれるかもしれないわ」


「えぇ! では、今夜街に出る許可をお取りになってくださいね。無断は私が怒られますから」


 茶目っ気いっぱいに言われた私は一瞬目を丸くすると、クスクスと笑いながら、わかったわ、と返事をした。


 その日の晩餐でヘンリー様にそのことを話すと、満面の笑みで了承してくれた。


 明後日には屋敷を出て、帰ってくるのは2週間後になるという。


「よかった。『収穫祭』は街でやるから、メルクールが街に下りてきてくれるなら助かるよ。沢山のご馳走で宴会するからね、出迎えの時はお腹いっぱい食べられる格好でいてね」


「まぁ、ふふ。楽しみにしています。……あの、ヘンリー様? もしかして、大蛇を……」


「食べるよ? 瘴気に触れて変異した動物を魔物と呼ぶことは前にも言ったよね。瘴気自体は人間には毒だけど、動物が、そうだな、エネルギーとして体に取り込んでしまえば、もう毒素はない。ただの巨大な獲物だ。ゲテモノに思えるかもしれないけど、きっと焼いてる間にお腹が空くから、食べられるくらいはお腹に余裕を残しておいてね」


 やはり食べるのか、と思いながらも、ヘンリー様は嬉しそうに笑っている。


 私にできることは、1日でも早くこのグラスウェル領に慣れて、ヘンリー様の安全を祈り、帰ってきた時に一緒に喜ぶことだと確信できた。


 ……蛇を食べるのは、まだちょっと、考えるだけで食欲が裸足で逃げ出してしまうけれど。

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