1-5 貴族
街の門で一悶着あるかとも思ったが、門前で荷台に乗っていた男性が門番と何かを話すことですんなりと街へ入る事ができた。
そのまま男性の屋敷へと向かい、そのままお抱えの医者に見てもらう事になった。
その間俺は屋敷の一室で待機中だ。
「それでは御用の際はこのベルをお鳴らし下さいませ」
ヒイロを部屋に案内し、一礼して下がった屋敷の執事。
そうして部屋の中には1人となり、治療が終わるまで待つこととなる。
「この数日は濃いな.......異世界に飛ばされて魔物を狩ったり、賊を殺したりと色々だ。まぁ元の世界にいた時とあまり変わらんが、違う事もしてみたいな」
これからどうするかについて思考を巡らせていく。
「一応冒険者登録しておくか、俺の世界と同じなら身分証にもなるだろうし、食いっぱぐれる事もなくなる」
当面は冒険者となって金を稼ぐという事にしたらしいヒイロは、出されている紅茶を1口飲み、意外と美味しい事に驚いた。
「これは.......そうだな、それも1つの選択肢として考えておこう」
紅茶を飲んだ事で、他にもやりたい事を見つけたらしいヒイロ。
一体何を考えついたというのだろうか・・・それは今はまだ分からない。
暫しの間この部屋で待っていると、部屋に娘のエリザが入って来て目の前に座る。
「あの、改めて助けてもらってありがとう.......」
お礼を言うその姿は、少しビクビクとしているように思える。
だがそれも仕方ないのかもしれない、エリザはヒイロが簡単に人を4人も首を飛ばした場面を間近で見てしまったのだから。
「あぁ...父親は無事か?」
「命に別状はないらしいの。ただ....傷が深いようで、暫くは安静にしてるようにって言ってたよ」
どうやら特に問題は無いみたいだった。
万が一という事態は免れたからか、少し安心した様子を見せた。
ヒイロに報告した後も部屋から出ずにその場に残り続けてモジモジとしているエリザ、何か他にも用があるのかもしれない。
「どうした?まだ何かあるのか?」
声をかけられてビクッ!とするエリザ・・・やがて意を決したのか話し始める。
「助けてくれた時、小屋で最後に倒したのってどうやったの?何もしてないのに首が切れたように見えたけど.......」
「アレか.......」
あの時、確かに男がヒイロを襲おうと突っ込んだ瞬間に首が落ちたのだ。
それが何故か知りたいらしい。
(意外とたくましいのかもしれんなこの子は)
「奥の男を殺した時に、倒れてる男に魔力で作った見えない鋭利なワイヤーを首に軽く巻き付けたんだよ。それを魔力ナイフに取り付けて反対側の壁に突き刺す事で出来上がりだ」
「へぇ〜」
分かってるのか分かってないのかよく分からない生返事を返すエリザ。
ヒイロは魔力で見えない物を創り出し、それを仕掛けるのが得意なのだ。
主に使うのはワイヤーや糸の類、だが魔力を感じ取れたりする人や、魔法を使う人にはには見られる事もある。
それゆえに使う物は専ら極細の物となっており、視認し辛い物を好んで使う傾向にあるようだ。
「お客人、旦那様がお呼びでございます」
エリザと話をしてると、先程の執事が呼びに来た。
「分かった。ではまたな」
「えぇ!またお話しましょう!」
少し話をしたお陰か、エリザの態度もある程度軟化したようだった。
部屋を出たヒイロは執事に案内され、1つの部屋へと通される。
「おぉ、来てくれたか。寝ている状態で悪いが、君はそこに座ってくれ」
部屋の中には治療が終わり、ベットで寝かされてる男性だけがいた。
案内し終えると執事も直ぐに部屋から出ていき、この場には2人しかいない。
椅子に座ると、男性が話始めた。
「改めて.......私はこの街を王から任されているジェイド・シールズ、貴族の位は伯爵だ。娘共々助けてもらって感謝する」
「ヒイロだ。それにしても伯爵か、今更だが敬語を使ったほうがよろしいか?」
「ふふ、構わんよ。こういう場ではそのままで大丈夫だ。ここは公の場ではないからな」
中々と度量が深い男性だった。
(敬語を使わない事に苛立ち、処罰する貴族は多いんだがな。この男は違うという事か)
それにこの男、伯爵という高い位を全面に出すつもりは全くないらしい。
「それで....助けてここまで護衛してもらった報酬なのだが、何か欲しい物はあるかい?」
と、言われても道中からヒイロは考えるばかりで特に何も思いつかなかったのだった。
顎に手を当て考える・・・やがてその閉じていた口を開いた。
「欲しい物が無さすぎて困るな」
「なんでもいいんだよ?お金でも魔道具でも、とりあえず思い付いた物を言ってごらん。まぁ難題過ぎると叶えられるか分からないけどね」
何でもと言われてもう一度深く考える・・・
(大金は持ち運びに不便だし、魔道具も別にいらん.......あぁ1つあったな)
「そうだな、今俺が欲しいのは小さくていいから家が欲しい」
「ほぉ....この街に住むのかい?」
別にこの場所を住処にする訳ではない、ただこの国の何処かに1つは帰る家があると便利だと思っただけだった。
それと家次第ではもう1つのやりたい事も出来ると思ったのだ。
「落ち着ける場所が欲しいだけだ。永住するつもりは無い」
「だろうね。けど報酬は家で構わないよ。そうだね、確か最近押さえた家があったはずだから案内させるよ」
ジェイドは鈴を鳴らし執事を呼び出した。
すかさずさっきの執事が現れ領主から何かを頼まれていた。
「それじゃぁ頼む」
「かしこまりました旦那様」
「じゃぁ私は傷を早く治すために安静にしておくよ、もし家が気に入らなかったらまた来てくれ」
「分かった」
その後執事の案内で、街中にある一軒の家へ案内される。
「ここが旦那様の仰っていた家でございます」
そこは予想以上に大きく、人通りも多い場所に面していた建物だった。
中に入って見ると・・・1階はそこそこ広いが何も無い空間が広がっている。
歩いて他を見てみると奥にはキッチンが備えられていて、2階に上がる階段があった。
「もしかして元食堂か?」
「ご明察です。良い立地何ですがね、元の家主の料理が流行らなかった為に旦那様に売ったんですよ」
言葉を濁してはいるが、流行らないと言うより不味かっただけの様な気がしたのだが、流石に思っただけで口にはしなかった。
「2階には同じ大きさの部屋が4部屋か、1部屋が割と大きいから使い安いな」
2階の部屋も全て見終わった所で入り口へと戻ってくる。
「いかがでしょうか?」
「いい家だな。だが、本当に貰っても構わないのか?」
少し不安になるヒイロ。
こんな立派な家を貰えるとは思っていなかったようだ。
「もちろんでございます。旦那様がお認めになられたのですから、いかように使って頂いて構いませんよ。こちらが鍵です」
「感謝する」
鍵の受け渡しが終わると、執事は屋敷へと戻って行った。
思わぬ報酬が手に入った。
「ある程度纏まったお金が必要だ、これから金策だな」
こうしてヒイロはお金稼ぎの為に冒険者登録を済ませに行くのだった。