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1-2 異世界

ゆっくりしていってね!

全身を包み込む眩い光が消え、青年が目にしたのは身に覚えのない場所だった。

青年は周囲の様子を注意深く観察していく。

地面の感触は土、遠くで聞こえる水滴の音、そして景色は薄暗い.......


「洞窟か、少なくとも死んではいないようだ」

青年はこの場所を洞窟の中だとアタリを付けたようだった。

見知らぬ場所に飛ばされてこの冷静さである、普通なら恐怖に慄くか、マトモに考察など出来ない状況だろう。


「水滴の音に近づいてみるか」

どこに向かうか決めた青年は、聞こえてくる水滴を頼りに歩き出す。

その歩みは1ミリの迷いも見えない。

歩いて進んでいくうちに水滴の音が大きくなっていき、迷う事なくその水滴が落ちていた場所へと辿り着いた。


「大きい池の様になっているんだな、水滴は上の突起から落ちた音だったか」

そこには大きい池が広がっており、洞窟の天井の凹凸部分から落ちた水の音が青年をここまで導いたのだった。

だが、この場所に着いたからといってこの洞窟から出れる訳ではない。


「水は綺麗か.......いや、一応飲む前は熱で消毒させよう」

青年は器用に魔力で創り出したコップに水を汲み、沸騰する程に水を熱したのだった。

生の水には悪いものが存在している事があると分かっているのだろう。


この場所で水分を補給した青年は、更に先へと進んでいく。

すると.......遠くで何かをぶつけ合う音が聞こえてくる、青年は迷わず物音の方向へと進みだす。


途中で音は聞こえなくなったが、その現場の近くまで行くと何が起きているのかが見えてくる。

青年の視線の先には、毛むくじゃらで人を喰い殺せそうな程大きな蜘蛛が1匹と、その蜘蛛に負けたのか糸に吊るされた女性が1人いた。


青年はその女性と目が合ってしまった。気絶しているようでしていなかったようだ。

「・・・・・!!」

何かを青年に伝えようとしているようだが、口元を糸で覆われているから何を伝えたいのかが全く分からなかった。

次第に巨大な蜘蛛も青年の存在に気が付き、青年を捕らえようと糸を吐き出す。


だがそれが青年に触れること無く塵芥と消えていく.......青年が炎を操り自分に触れる前に燃やしているのだ。

自分の出した糸を燃やされる事に怒ったのか、蜘蛛はその巨体で青年に向けて突進を行う。


「大きくても所詮は虫か」

青年の手から噴き出された炎により、その毛むくじゃらの全身を燃やし尽くされ、炎の消えた時には巨体の蜘蛛等何処にもなく、消し炭しか残らなかった。


蜘蛛を倒した青年は、そのまま捕えられていた女性を助け出した。

「助かったよ、ありがとう」

「気にするな。それよりどうしてこんな所に?」

その言葉はむしろこの青年にこそ問いたい言葉だろう、だが助けられた女性は素直に答える。


「冒険者ギルドの依頼でこの洞窟のビックスパイダーの討伐を頼まれたんだ、それで来たんだけどこのザマだよ」

はははっと乾いた笑いを零しながら話す女性。

女性の姿はみすぼらしい物で、身に付けた鎧は砕け、剣は刃こぼれしているという散々なものだった。

「そうか、命は大事にするものだ」

「あぁ身に染みたよ.......私はヒルダ、アンタは?」

ヒルダと名乗った女性が青年に名前を聞くと。


「俺の名前はヒイロだ」

青年は自らの名前をヒイロと名乗る。

「私はヒイロに助けられた恩返しをしたいんだ、よかったら一緒に来てくれないか?」

ヒイロにそう告げるヒルダ。

「・・・重い恩返しはいらんぞ」


ヒイロとしてもヒルダに着いていく事でこの洞窟から出られる可能性が高いと思ったのだろう、ひとまずヒルダに着いていく事にしたのだった。


その後、そこまで時間のかからない内に洞窟の外まで出ることが出来た2人。

そしてそのまま最寄りの街まで向かう事になった。


「それにしてもヒイロは強いんだな、ビックスパイダーを簡単に倒すなんてさ」

ビックスパイダー、頑丈な糸を巧みに操り敵を捕えて捕食する危険な魔物。

名前にビックとつく名の通り、普通の蜘蛛とは比べ物にならないくらい大きく人をも容易く食べてしまう。


「アレは単体で倒すにはCランクの力が必要だって言われてるんだ。私もCランクになったから大丈夫だと思ったんだけどなぁ.......」

「ランクが力量の全てじゃないだろう、まぁこれからは無茶はしないようにな」

こうして2人は道中を喋りながら街へと着き、そのまま冒険者ギルドへと向かった。


「こんにちは・・・ってヒルダじゃない、どうしたの?」

「依頼の報告をな.......」

ヒルダは言い辛そうに洞窟で起こった出来事を話していく。

それを聞いている受付嬢は、みるみるうちに顔を怒りで染めていくのが分かる。


「ばっかじゃない!!ヒルダあんたねぇ、Cランクになったばかりなのにソロでビックスパイダー討伐なんて死にたいの!?」

「うぅ.......すまん」

受付嬢の叱責でギルド内の視線がこの2人に注がれ、その後で近くに立っているヒイロにも視線が当たる。


「すまんじゃないの!はぁ、まぁいいわ。無事に帰ってくれたんだもの.......そっちのお兄さんが助けてくれたのね」

受付嬢の視線がヒルダからヒイロへと移り変わる。

「ありがとう、経緯はどうであれ貴方のおかげで友達が死なずに帰って来てくれたわ」


そう言って頭を下げる受付嬢。

「あぁ.......」

「それで、貴方はどうして洞窟の中にいたの?話を聞いた感じだと洞窟の奥にいたみたいだけど.......」

やはり受付嬢ともなるとそこは気になる所なのだろう、ヒルダが気にも止めなかった事を普通に聞いてくる。


「・・・少し成り行きでな、俺にも色々あるんだ」

俺は少し迷った後、本当の事を言う訳にもいくまいと思い、誤魔化す事にした。

「ふ〜ん.......」

その様子を訝しげに見てくるが、ヒイロがこれ以上語らないと悟ったのか話題を変えてきた。


「まぁいいわ、とりあえずヒルダの依頼だけど.......探索に行ったら他の人に倒されていたという事にしておくわ。一応ビックスパイダーは討伐されてるみたいだからね、だけど報酬はないわよ?」

「もちろん、報酬が無くても失敗にならないだけで充分だ」

ヒルダの依頼はなかった事みたいにされたようだった。

確かに自分の経歴に傷が着くよりは遥かにマシな処置だろう。


「それで貴方なんだけど、ビックスパイダーの一部でも持って帰ってない?」

「生憎だが何も無いな。蜘蛛は塵芥と化したから」

「どれだけ凄い魔法使ったのよ.......けど仕方ないわね、貴方にはギルドから謝礼金として金貨1枚渡すわ。本当は素材があればもっと大きな額なんだけどね」


金貨1枚を渡されたヒイロは、断る理由もなかったから空いてるポケットの中に金貨をしまい込んだ。

ヒイロにとって貰えるとは思っていなかった物だから、臨時収入、元の世界から来たばかりとしてはちょうどよかったのかもしれない。


だが・・・それを快く思わない冒険者はいるようだ。

「おいおい、本当にビックスパイダーを討伐したのかわかんねぇのに金貨1枚も渡すのかよ。そいつが嘘ついてたらどうすんだ?」


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