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無能を追放して全てを奪われた元勇者  作者: チョコクリーム
1部・無能を追放して全てを奪われた元勇者〜そして彼は思い出す〜
4/10

4.無能を追放したら全てを奪われた

書かねば、書かねば。区切りがいい所まで書かねば。

 

「こんばんは。私が《土》の勇者になったユーキです。この中にはもしかしたら私が元豚だということを知ってる人がいるかもしれません。元々隠す気はないので何も言いませんが、皆さんは私の力に不安を感じていると思います。本当に力があるのか?と。なので、《火》の勇者フミダーイと勝負をして力を証明しようと思います。私は、最強の勇者に勝つことで私こそが最強の勇者だと証明しましょう」


 ザワザワと貴族が慌て出す。王族の反応を見るに、王族は知っていたっぽいな。

 俺から勝負を仕掛けるつもりだったが、そっちから来るなら全力でやってやるよ。

 あの絵が頭に浮かぶ。豚になるのは、お前だ。


 ゴゴゴゴと床が揺れたと思ったら樹が盛り上がってきた。そのまま俺とユーキだけを上に押し上げていく。

 1分程で舞台は完成した。レスリング場を横に伸ばしたような広さで、舞台の端には樹の柵みたいなのがある。かなり高さがあり、俺の腰ほどまで伸びている。


「失礼ながら、皆様に危険がないよう舞台を作らせていただきました。《火》の勇者は応用力に少し欠けている様なので時間がかかってしまいました。そうそう、私はこの勝負で樹しか使いません。樹なら彼にも勝つ可能性が少しは生まれるでしょうから。それならば《火》に勝つことで皆様にも信用してもらえるでしょう。彼は力だけはあるようなので」


 豚だった時とは全然様子が違う。あの卑屈な様子はなく、そこにあるのは俺を馬鹿にして楽しくてしょうがないという笑顔だ。

 《火》を馬鹿にした発言で笑った貴族の顔を覚えようとして気付く。笑っていないやつなんか居ないと。

 もしかしたら表面上合わせているだけなのかもしれいが、俺にはもう見分けがつかない。王族ですら笑っている。


 いや、1人だけ笑っていない奴がいた。王様の影に隠れるようにして王女が静かに立っていた。

 あれは、寝る前に騒いでいたやつか。ほら、笑えよ。お前も、あいつはみたいに。そうしたらぶっ殺してやるのに。

 きっとここにいるヤツらだけじゃない。町中のヤツらが俺の事を良く思っていない。そんなのは分かってた。

 でも、もう止まれないんだよ。俺は、この生き方しか出来ないから。もう()()()には戻りたくないから。


 ズキズキと頭が痛む。俺は今何を考えていた?いやそんなのはどうでもいい。今大事なのは《火》の全力でアイツを潰すことだけだ。

 アイツからバカにしたような笑みを消してやる。お前を豚に戻してやるよ。


「それでは準備が整ったようなので、説明をさせていただきます。あまり難しくしてしまうと、《火》の勇者が追いつけなくなってしまうので簡単な内容にしました。ただお互いに全力の一撃をぶつけるだけです。《火》が押し負けた場合、私の本気の一撃が飛んでいってしまう訳ですが、皆様の安全のためこの国で唯一結界を貼れる魔術師、サレーダ・ガルランドさんに来てもらいました!」


「はい…サレーダ・ガルランドです。皆様のことは私がお守りします」

 やる気のなさそうな声が響く。声が大きくないのに響くのはその透き通るような声質のせいだろうか。

「私だけでは《土》の勇者様を一撃を受けるための霊力が足りないので助っ人に来てもらいました」


 そう言って紹介したのは、俺のパーティーメンバーだった。

 なん、で。動揺する心と別に理性で理解する。パーティーに招待されなかったのはそういう事か、と。

 つまり、俺のことを笑っていたのはパーティーメンバーさえも例外ではなかったのだ。

 確かに今まで好き勝手やってきたし、その可能性もあると思っていた。だけど、少しだけ期待もしていたのだ。

 もしかしたら、アイツらなら。そう思っていたのに。


「彼らは準英精霊の契約者です。《不死の守護者》ロイ、《変化の魔術師》アリサ、《復活の回復師》マイ、《不可視の斥候》ザイカ。彼ら程の霊力を使えばいかに《土》の勇者様と言えども1発は防げましょう」

 彼らの目線が俺に向く。その目は俺に対する嫌悪で溢れていた。俺がいない時、こんな感じだったのかな。

 そういえば、宿も違うところで仕事以外だとほとんど会わなかったな。あれは意図的に会わないようにしていたのか。


 いや、考えるのは後だ。今はアイツを潰さなければ。アイツを倒せなきゃ全てが終わる。全員《土》の勇者が勝つ前提で話を進めやがって。《火》の力を見せてやる。


「結界の準備も出来たようなのでやりましょうか。……今この場で降参すればこれ以上は何もしないさ。今までの事も綺麗さっぱり忘れよう」

 嫌な笑みだ。嘘をついてるように見えないが、本心から言ってるわけではないだろう。恐らく、俺が降参しないと分かっててああいうことを言ってるんだ。しかも、俺にしか聞こえない声で。性格悪いな。


「俺が勝つんだから降参する意味なんてねぇよ。俺に負けるのが怖くなったか?」

「いえいえ、私は心配しているんですよ。あなたが壊れてしまわないかと、ね。ですが降参しないというのならさっさと始めてしまいましょう」


 俺は火の玉をでかくしつつ、中に沢山詰め込むイメージで作っていく。俺の真上にあると言うのに暑さは感じない。むしろ優しい温かさがある。

 ユーキは俺と同じように樹をぐるぐる巻いて玉のような形を作っていく。

 焼き尽くしてやるよ。火で樹が燃やせないわけが無い。


 お互いが限界まで貯めた頃には人一人分の大きさになっていた。しかし、誰でも見るだけでとてつもない力があるのが分かるだろう。それほどまでの密度だ。

 どちらかが言うまでもなく、玉を動かしぶつけようとする。そして、ぶつかるその瞬間、声が聞こえた。


人生泥棒(シーフオブライフ)が完了しました。1部の力は強奪失敗。勇者の素質、才能、性質を強奪成功』


 は???疑問に思う暇なく力が抜ける。倒れそうになるのを気合いで我慢し何とか倒れずに済んだ。

 この一瞬、火の玉の制御を離してしまった。それにより押し込めていた部分が広がり、火の鳥のように広がる。そのまま樹の玉を飲み込んでいく。


 ぁぁ、負けたな。樹に対して火が有利と言っても、あんなに固められたらこっちも力を集中させないと突破できない。なのに謎の声のせいで制御が出来なくなってしまった。

 これもユーキの仕業か。ふざけんな、こんなの無効だ。そう言いたかった。しかし、周りのヤツらは火の鳥を見てどう思うか。

 あれは見た目はいいからな、きっと俺の全力だと思うだろう。そして、俺のことを知ってるなら格好をつけたかったと思うだろう。

 クソ!やられた。これじゃあいくら俺が言っても誰もが言い訳だと思うだろう。


 火の鳥の中から樹の玉が出てくる。それは俺を狙って…?俺を狙って!?不味い不味い不味い。今の俺は力を使い果たしているし、謎の声のせいで体調がおかしくなっている。

 しかも、アイツ避けられないように舞台一面に樹を広げやがった。

 俺が逃げられない上に、アイツも俺みたいに広げたせいでアレが1番強い技みたいになっている。俺の全てを潰す気か。弁明すら許さない手口だ。


 あぁ、どこから間違っていたんだろうな。きっと生まれた時からだ。俺はいつも望まれていなかった。《火》の勇者になってからも、望まれることは少なかった。

 なんであんな奴が。と誰もが言う。これが俺の終わりか。

 パリンと何かが壊れる音がして、樹の玉が俺に直撃する。

用語解説

霊力・・・精霊の力を使う時に消費する力。その量は個人差がある。精霊は基本的に霊力が多い人間を好むので、霊力が多いほど強力な精霊と契約を結びやすい。

結界・・・とても難しい高度な魔術。結界を使える魔術師は国に所属しないと常に狙われるレベル。空気があり、人や物と重ならない場所にだけ使える。イメージ的には見えない壁を貼っている感じ。使った本人にしか見えないので、誰も使ったかどうか分からない。使う霊力量によって強度や大きさを変えられる。


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