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#-08

「クッ!」


 実力差を認めたのか、アラクネは尻の出糸突起を上に向ける。

 天井に糸を付け、そのまま退散する寸法だ。


 流石、言葉を話せるだけあって利口だ。

 レキはそう認めるも、そんなこと許すはずが無かった。


「ガッ、ふは!?」


 糸が発射されたと同時にアラクネに過重力が襲い掛かる。

 地面に縫い付けられたアラクネはその重みに苦悶を浮かべている。

 更に未だ何が起きたのか理解できていない様子だ。


 その無残な姿を一人と一匹は遠くから傍観していた。


「殺すの?」

「それが任務でしょ。お金をもらわないとボクらが死んでしまう」

「そうね」


 淡々と言葉を交わすとレキはゆっくりとアラクネに近付く。


「お前、仲間は?」


 そう簡単に口を割くとは思っていなかったが、一応問い詰めてみる。

 別に第二、第三の事件を防ぐためではない。ただ一つ引っかかることがあったからだ。


「……いない」

「一族の者は?」

「一族なんて、いない!」


 歯を軋ませ紡ぐその言葉には激しい憎しみが籠っていた。

 それを理解した瞬間、レキの中で歯車が嚙み合う。


 依頼には厳密には怪人だが、あくまで人を殺してくれと書いてあった。

 しかし実際見てみると対象は妖。どうも話が噛み合わない。


 該当件の多さから見間違いは言い訳にならない。もし未だ正体不明ならそう書けばいい話だ。

 奴に直接名を聞いたわけではないので、奴がアラクネでない、という線は残る。

 ただ一族の者が他にいないという証言から消去法でコイツの正体を自然とアラクネだと辿り着けた。


 それも兼ねてレキは仲間の存在を問いかけていた。そして依頼の食い違いも。


「お前、人と妖の子なんだな……」


 美由は薄々気付いていたのだろう。

 だからこれが依頼にもかかわらず、あんな甘いことを問いかけたのだ。


「殺せ! 一思いに殺してくれ!」


 慟哭するアラクネ。

 先にも述べたが、この世の殆どは人と妖が憎しみながら生きている。それでも共存を望む者はおり、そんな者たちが作ったEDENでならきっと奴も幸せに生きることが出来ただろう。


 だが逆を言えばEDENで無ければ、混血は幸せに生きることは難しい。


「一族の者はみな私を忌み子として扱った! 悪意を向ける対象として! そうすることで一族は団結できたのだから!」


 悲しい話だ。それでも真実なのだろう。

 殺さなかったのは弱っていくその様を見て嘲笑うためか。


「なるほど。お前はこの世界に絶望してるんだ」


 レキはアラクネの前で中腰になる。

 過重力がかかっているため襲い掛かってくることは無いものの、それでも無防備すぎるその態度に敵対者のアラクネも呆気を取られていた。


「お前、何を……」

「ボクも一緒だった。ルカ姐が消えて、兄さんが消えて。拠り所のアラドスティアも奪われて、何もなくなったと思った。

 でもボクがここまで立ち上がれたのはきっと幸運だったんだろう。おそらく君と同じ末路を辿った可能性もあり得る」


 優しく語り掛けるように喋るレキ。

その言葉の意味は理解できなかったものの、アラクネはなぜか涙を流していた。

 自分もそうあったなら、という悔し涙ではない。何かに後悔するような、懺悔の涙のようにレキは感じた。


「だから思う。楽にしてあげるのがせめてもの救いなのかもしれない、と」


 龍の手がアラクネの上に覆いかぶさる。


「それが例えエゴだとしても」


 レキはそう告げると奴を、いや彼を握り潰した。


 × × ×

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