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#-05


「ありますよ」


 そう答えられたのは屋敷に来て数秒後のことだった。

 いきなり国長が出てきたことも驚いたが、これには一人と一匹は驚愕を隠せない。


 だが頭から否定するのは間違いだが、鵜呑みにするのも誤りだろう。

 息を呑み、落ち着きを取り戻したレキは迷わず聞いた。


「掲示板には飲食店の手伝い程度しか載ってなかったのですが……」

「えぇ、この国の依頼はあまりにも危険なモノが多いため、秘匿(ひとく)扱いになっています」


 少し小太りな男性、国長がさも当たり前のように回答する。


 危険な依頼。例えば山中に発生した突然変異の魔獣の討伐などだろうか。


 そんな依頼、わりとありきたりで秘匿扱いにする必要性は感じない。

 感性が違うのだろうか。レキは相槌を打つも内心はまったく納得していなかった。


「へぇ。で、今はどんな依頼があるんですか?」


 ただ美由はそんなのどこ吹く風で依頼の詳細を問う。


「今ですと……怪人アラクネの討伐。これが一番懸賞金が高いです」

「怪人アラクネ?」

「まぁこんなところで立ち話もなんです。とりあえず中へどうぞ」


 そう国長に案内され、レキと美由は屋敷の中に足を踏み入れる。


 外見は大きな建物。まさに屋敷と取れるぐらいであったが、どこか寂しく。

 中も同じく、長の屋敷というより公民館に近いイメージを与える。

 玄関の受付室や、扉の上に取り付けられている部屋の名を表すネームプレートも感じる要因だろう。


 貧相であり周囲がほとんど敵だった国で生まれ育ったレキは癖で横目でそういうところを観察してしまう。

 美由も早くに一匹旅をしていたので何事にも気を許せない日々を過ごしており、何か不審な部分が無いか、無意識に探してしまう。


「しかしこんな辺境にわざわざ。森の道はさぞ歩き辛かったでしょう」

「いえ。あの程度の道を歩くのは慣れているので大丈夫です」

「ハハハ。なんとも心強いお言葉だ」


 少し長い廊下で飛び交う雑談。

 そういう自然な動きを盾にして不自然を隠す。

 意識が完全にそちらに引っ張られてしまう美由では出来ない、レキの得意技だ。


 やがて一つの部屋の前で国長が立ち止まる。ネームプレートには『応接室』と書かれていた。


 随分と遠い位置にある応接室だ。

 その隣は行き止まりで、まるで袋小路に誘い込まれたようにも感じる。


「どうぞ」


 浮かべるその笑みも、開かれた扉も。全て不安を煽ってくるように感じてしまう。


「失礼します」

「お邪魔します」


 だがレキと美由は臆せず、国長の背を追い部屋の中に入る。


「どうぞお座りください」


 二つの長椅子に囲まれた机を真ん中に、左右両端には分厚い本がいくつも入った棚が。

 他は奥に窓があるぐらいの特徴のない、まさに応接室にもってこいな部屋だ。


 レキたちは進められるがままに椅子に座ると、いきなり誰かが扉を叩く。


「失礼します。言われておりました書類をお持ちしました」

「あぁ、ありがとう」


 それは数十枚からなる依頼書、ではなく書類。

 国長は受け取り、対面の椅子に座ると、それを机の上に置く。


 怪訝な目を投げかける一人と一匹。すると国長は手の平を見せ、閲覧を促した。

 その行動に甘え中を見ると、そこにはこの国でそのアラクネに襲われたと思わしき人のリストと日時が書かれている書類だった。


 一枚に掲載されている人数は十人ほど。

 それが三〇枚におよび綴られており、ざっと計算しただけでも被害者数は三百人と相当な数になる。


 レキは少し事件に興味を抱いた。


「去年、一昨年ぐらいになりますかね。一週間で約十人が消えると言う大量行方不明事件がありまして、それを皮切りに今でも時折人が忽然と消えています」


 名前の横に書かれている年齢から全員大人。職業はバラバラのようで、性別もまだら。

 それ以外の共通点は見いだせなかった。


「質問いいですか?」


 横で資料を盗み見していた美由が手を挙げる。


「なんですか?」

「なんでそのアラクネという怪人? に襲われたって断言できるんですか?」

「その三ページに載っているライアン・ガイという男性。その人が第一発見者です」


 レキはその男が載っている三ページ目を開く。

 確かにその名の者が記載されていた。職業は科学者。


「ここに載っているということは……」

「えぇ、その翌日ほどに襲われたと考えられてます」

「なるほど……」


 レキは頷きながら書類を読み進める。

 ただ何故か先程までと違い、隠すように小さく広げて読むよう読み方を変えた。

 横で猫が「みーせーてー」と言っているが聞く耳を持っていない様子。


「ボクも質問いいですか?」

「どうぞ」

「この国の外部、たとえば森の中などでは襲われていないんですか?」

「えぇ。不思議なことにそのような話は一切聞いてません」

「ふーん、なるほど……」


 質問を終えるとレキは資料を机の上に置く。それを美由が瞬時にかっさらったが特に気にしていないようだ。


「あのお連れ様……」

「気にしないでください。そういう奴です」

「はあ……」


 自分もこの依頼に関わるから資料を見たいのに、なぜか意地悪され、挙句子ども扱いされていることが不服なのだろう。美由はジト目でレキを睨みながら頬を膨らませている。


「して、依頼料は?」


 しかしやっぱりレキは気にしていない様子。あとでつねってやろう。美由は心にそう誓った。


「そうですね。金一〇キロでどうでしょう?」


 金一〇キロと言えば二十日ぐらいは遊んで暮らせる大金だ。

 旅の目的もあり、先述したがそこまで居座る気が無いレキはちょっと多すぎる気がしたが、承諾することにした。


「わかりました。引き受けます」


 それを聞くと国長は嬉しそうに笑みを作る。そして一枚の紙を胸元から取り出した。


「これが奴の根城です」


 透けて見えるそれは証言と合わせておそらく地図だろう。

 「夜に街で張っててくれ」とでも言われると思っていたレキは思わず虚を突かれた気分になった。


「……」

「……あの?」


 が国長はその地図を渡そうとしてくれない。


「その前に、君にその実力があるか試したい」


 そう嫌な笑みを浮かべながら語る国長にレキは眉をひそめた。


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