表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空は非日常を求めてる  作者: えぬえす
7/24

サタデー

土曜日の尊さを少しでも共有したいです。

 月に一度のペースで行われるパーティの翌日。パーティの翌日だからといって、特別変化がある訳では無い。いつも通りの日常に戻るだけだ。


 今日は全学生が望むであろう土曜日だ。毎週土曜日、この、土曜日という日の素晴らしさを全国民と共有したくなるのは僕だけではないだろう。


 今週は、いつもよりもとても長く感じた。決して、5日間の合計時間が120時間以上に伸びた訳では無い。感覚の違いだ。今週が、あっという間に終わったという人もいれば、僕の以上に長く感じた人もいるだろう。いや、それはいないか……。


 まあ、過ぎたことは過ぎたことと割り切るのが、疲れない生き方だろう。僕は疲れる生き方なんてしたくない。いや、本当はしてみたい……。


 と、いつも以上に優柔不断が発動してしまっているが、よくある事なので気にしないで欲しい。


 それにしても、土曜日とは無限の可能性を感じる。何でも出来るような気がする。そんなことを思っているうちに、毎週土曜日が終わっている気もするが、今日は違う。


 とても天気が良いので、散歩に出かけることにした。ベランダにでて、太陽の日差しを浴びると、目は光を拒否しようとして開かないが、体はもっと欲しているように思える。


 現在の時刻は8時30分だ。こんなにのんびり出来るのは今日が土曜日だからである。


 1時間ほど前に沙友理によって作られたであろう、朝食を食べ、支度をし、家を出た。たしか、沙友理は部活があると言っていた。持ち物は、ポケットにスマホと自販機で飲み物を買う用の小銭だ。エレベーターに乗って1回へ降りる。今日はいい一日になりそうだ。


 そんなことを考えていると、エレベーターが止まった。光っている数字を見ると、1Fではなく、3Fが光っていた。乗り込んできた人物は、見覚えのある人物だった。


「あら、おはよう。奇遇ね空」


「ああ、おはようかえで」


 彼女の名前は、林かえで。同じマンションに住んでいる、最近越してきた転校生だ。


「空は今日、何か用事でもあるのかしら?」


「用事ではないな。散歩をしようと思ってな」


「おじいさんみたいね」


「うるせえ、ほっとけ」


 自分でも、散歩が高齢者がすることだという偏見があっただけに、人から改めて言われてみると、少し恥ずかしい気持ちになる。


「かえでこそ、なんか用でもあるのか?」


「女の子のプライベートを知りたがるなんて、もしかして変態?」


「人に聞いといて、自分は答えられないってか?」


「そんなこと一言も言ってないのだけれど。私は今から散歩よ」


「なんだ、かえでも僕と同じじゃないか」


 人に散々言っておいて、かえで自身も散歩とは……


「同じにしないでくれる?私の散歩は、ただの散歩ではなく、言わば探検よ」


「探検?」


「そうよ。私が最近引っ越して来たってこと、もしかして忘れてるのかしら?」


 完全に忘れていた。だから、探検なのか、なるほど……


「忘れるわけないだろ。冗談がきついな全く。僕は、探検という言葉が、子供っぽいから聞き直しただけだ」


「あら、そうなの」


 かえでの顔は、今の話を1パーセントも信じていない。


「そうだ、空。ちょうどいいから、道案内を頼めるかしら?」


「へいへい」


 特に断る理由もなかったので、同行したのだが、この行動は、どうやら正解だったようだ。


 僕はまず、この街を案内する前に、具体的にどこに行きたいかをかえでに聞いた。


「そうね……」


 深く考え込んでいる。察するに、ブラブラする予定だったらしい。


「分かった。とりあえず、マンション周辺をぐるっとまわろう」


「分かったわ。それにしても、空は空気を読むのが上手ね。さすが名前に空が入っているだけのことはあるわ」


 面白くないことは、聞き流す。


「まさか。そんな面倒くさいこと上手でも嬉しくないよ」


「あらそう。出来れば教わりたかったのだけれど、美味いわけじゃないなら大丈夫よ」


 かえでは残念そうにしている。本当に教わりたかったらしい。


「なんでそんなに落ち込んでんだよ」


「別に落ち込んでなんかないわよ。空のあまりの無能さにガッカリしていただけよ」


「おい、ふざけんな」


 そんな感じで、3割悪口の会話をかえでとしながら道案内している最中、またしてもあいつに出会った。


彼の名前は一色りょう。昨日、かえでに初対面で怯えられた張本人だ。


 一色は、僕と目が合うと、小走りで近づいてきた。


「なんで昨日逃げたんだよ」


 一色が、珍しく小声で話しかける。その顔や声のトーンからは、怒りの感情ではなく、不安の感情が見て取れた。


「あれは……彼女がお前を見ている時、とても怯えていたからだ」


「俺が聞きたいのは、なんで俺を見て怯えたんだということだよ」


「それは……知らない」


 きっと、ありのままを話しても、信じてはくれないだろう。知って欲しい、この大変さを共有したいという気持ちはあるが、決して厄介事に巻き込みたくは無い。


「しらないかぁ。なあ、空」


「どうした?」


「俺って怖いか?」


「そうだなー。怖いな」


 一色はしょんぼりしている。「後ろの化け物が」と、付け足したいのだが、その存在についてはまだ言わないでおく。


 ところで、かえではと言うと、今日は怯えている様子はなかった。


「かえで、今日は大丈夫なのか?」


「ええ。後ろには何も見えないわよ」


 昨日は見えて、今日は見えなかったらしい。違いがよく分からない。見える日と見えない日があるのだろう。


「それなら、よかったよ」


 何も見えていないなら、それでいい。かえでが怯えなくてすむ。


「ところでよ、空」


「なんだ、一色」


「今日は、そのかわい子ちゃんとデートっぽいな。邪魔したな」


「おい――」


 一色はとても大きな間違いをしている。だが、指摘する前にどこかへ言ってしまった。


「それじゃ、いこうか、かえで」


「ちゃんと否定してよね……(勘違いされたら面倒じゃない)」


「悪かったな。ところで、後半が聞こえなかったんだが、なんか言ったか?」


「なんでもないわよ」


 今日は何も無く終わる一日だ。土曜日パワーかもしれない。と、考えていたせいだろうか。僕はその時、明らかに不自然に存在しているその物体を見落としてしまっていた。

今回は、やる気がいつもより出なかったのと、睡魔に襲われていたのとで、いつもより時間がかかりました。いや〜、気分が乗らない時は書くもんじゃないですね〜

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ