盤上遊戯は友情を育む?
「よっしゃ! 次は光太郎やな」
「何でそんなとこ行ったんだよ! もう絶望だわ!」
「頑張れ負けるな光太郎。まだ行ける」
「タマさん励ますならもうちょっと抑揚つけて! めっちゃ棒読みじゃん!」
「いやいや行けるで光太郎。この辺とかどうや」
「絶対行けない! 崩れるうぅぅ」
突然やってきた川本俊は、どうやらタマさんが呼んだらしい。
新学期を不安がる俺のために、同級生と顔を合わせる場を設けてくれたようだ。
拗ねてごめんタマさん。あんたやっぱり親切だよ。どっかの回覧板の神様と違って。
そして俺たち三人は、大島商店の小さなちゃぶ台にて、ジェンガの真っ最中だ。何故。
「やっぱ初対面で仲良くなるにはジェンガやな!」
俊が熱弁する。だから何故?
だがしかし、俊の言う通りすでに俺は打ち解け始めている。
俊がかなり歩み寄ってくれているのと、タマさんがイイ感じに場を取り成してくれているのが分かる。
この二人超優しい。泣きそう。
俊はすでに俺の事を呼び捨てにしているし、自分の事も呼び捨てでいいからな! と気さくに言ってくれたことも大きいだろう。
「こわっ。何このバランス。絶対倒れる」
「落ち着け光太郎! ほらヒッヒッフー」
「ちょ、俊バカ笑わせんな! 手震えるっ…。ああー!!」
ガラガラガラ、と音を立てて危ういバランスを保っていた木の塔が崩れていった。
「いえー。光太郎の負けー!」
「マジかよ三連敗。お前ジェンガしたことねえの?」
「あるよ! あるけど二人強すぎねえ!? 何であのバランスで抜けるんだよ!」
「あー。ほらここ田舎じゃん。娯楽少ねえんだわ」
「せやせや。囲碁将棋オセロにチェスもかなり強い」
「何そのスペック…」
どうやら若者が遊びに行くところが少ない故に成長したスキルらしい。どんだけ。
「光太郎、黒森高に入るんやろ? 俺もやし、よろしくな!」
「うん、よろしく」
バラバラになったジェンガを集めながら、親しみやすい笑顔でそう言ってくれる俊に、ずっとあった編入への不安は随分ましになっている。
ホントタマさん感謝だわ。
「で、こっから勧誘なんだけど」
「へ」
「部活、何入るか決まってる?」
どうやら部活の勧誘を受けるらしい。もしや、これまでの親切もこれが目的か!?
一瞬そんなことを思ったりしたが、たぶん俊は俺が勧誘を断ってもきっと大丈夫な気がする。タマさんの紹介だということだけで、信頼に値するってもんだ。
俺のタマさんへの信頼がすごい。
「黒森高って、部活必須なの? 俺ずっと帰宅部だったんだけど」
「必須やないけど、この田舎で帰宅部の奴は実家の畑手伝う奴くらいやな。入りたいのなかったらみんな勝手に同好会作ってるし」
「うええ…」
遠山家は畑も持っていないし家畜がいるわけでもない。何となく帰宅部というのはあまりないらしい。
俊は目を輝かせながら、「で!」と俺に迫ってくる。
「盤上遊戯部、入らへん?」
バンジョウユウギブ?
「えっと…?」
「光太郎、それらしい名前ついてるだけだぞこの部。放課後ジェンガとかオセロとか人生ゲームとか自分達で作った双六とか絵しりとりとかひたすらやってるだけの部だから」
タマさんの説明がとても分かりやすい。え、タマさん何でそんな詳しいの? 顧問なの?
「活動も好きな日に集まれる部員だけ集まる感じやから、掛け持ちも大丈夫やで!」
俊がぐいぐいくる。押しが強いな。
「ちなみに俊は掛け持ちしてんの?」
「掛け持ちっていうか助っ人? バレー部とか水泳部とか軽音楽部とかたまに。でもメインは盤上遊戯部やで。俺次の副部長やから」
「え、次二年なのに副部長なの?」
「うちの部、代々三年が部長、二年が副部長やるねん。まあ、代々言うてもできたの三年前やけどな!」
あっはは! と明るく笑う俊に、深く考えなくてもいい気がしてきた。
「いいよ入るよ」
「えっホンマに!?」
「うん。卒業までにジェンガで俊とタマさん負かす」
「ほう、強気に出たな光太郎。ジェンガ歴百年の俺に二年で勝つと?」
「いやタマさん盛り過ぎやろ。百年前にジェンガあったん」
「ジェンガはなかったが川辺でひたすら石を積んでた」
「「………」」
今の聞いて良かったのかな? 何か割としょっぱい話な気がする。
ジェンガの上手さと石積み技術は比例するのかそもそも。いや、バランス感覚を養う点では一緒…か?
「あー、じゃ、じゃあ今度一緒に石積みしようかタマさん」
「お、おおそれええな! 盤上遊戯部の校外実習的な!」
「え、お前ら石積み興味あるのか? なら教えてやらんでもない」
タマさんが心なしか嬉しそうだ。
俊、話に乗ってくれてありがとう。
俊が俺に目配せし、にかっと笑うのでつられて笑った。
新学期が初めて楽しみに感じられた。