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BIG Seven  作者: PV=
第零章 全ての始まり
15/56

プロローグ

初投稿&処女作です。今年度は月一ペースで更新予定です。どうかお手柔らかにお願いします。

-西暦1916年5月31日 16時30分前後 ユトランド半島沖-


…There (我 が) seems to(艦 隊は) be() something(日は何) wrong with(かおか) our bloody(しいんじ) ships(ゃな) today!(いか!)


 第一・第二巡洋戦艦戦隊を率いるデイヴィッド・ビーティー中将は、顔を真っ赤にして旗艦:ライオンで絶叫した。中立国の輸送船の発見を発端として突如始まったラインハルト・シェア中将及びフランツ・フォン・ヒッパー中将率いるドイツ大洋艦隊との巡洋戦艦部隊同士の殴り合いは、ビーティーの予測を遥かに超える被害を英国側に与えていたのだ。轟沈、爆沈…巡洋戦艦とはいえ、相次いだ戦艦の大爆発や損害の酷さを想像させる黒煙は、どんな英海軍の兵士が見ても顔面蒼白になるには十分すぎる程の光景であった。


 対英戦開戦当初から艦艇数の差による不利に覚悟を決めたドイツ水兵が多くいたこと、西日を背にするという地理的有利の確保、さらに幸運にも先に敵戦艦を撃沈したことによる士気の向上などの要素から、このままであれば勝つことは出来てもジョン・ジェリコー大将の大艦隊が到着するまでにどれだけ被害が出るのか分かったものではなかった。そんな死闘の繰り広げられるユトランド沖に、この戦いの潮目を一気に変える一本の電報が飛び込む。


[– ···· ·· ··· ·· ··· ·· –– ·––· · ·–· ·· ·– ·–·· ·––– ·– ·––· ·– –· · ··· · –· ·– ···– –·–– (This(コチ) is() imperial(ハ大日) Japanese(本帝国) Navy(海 軍)) ]


 帝国海軍史上10年越しの掲揚となるZ旗をはためかせ、日本海海戦の焼き直しのような美しいT字を描いて突入した日本海軍遣欧艦隊旗艦:金剛の35.6cm連装砲が、火を噴いた。













 …少し、遅かったみたいだな。ジェリコー提督の大艦隊(グランド・フリート)に先駆けて航行、戦闘海域に突入したものの、既にインディファティガブルやクイーンメリーは海の底に沈んでしまっていた。“史実”と同じ経過である。だがそれをなぞるのもここまでだ。


 もはや芸術とも言える域に達している伝家の宝刀、トーゴーターン…敵前大回頭によって敵巡洋戦艦部隊の頭を抑えての突入と同時に放たれた砲弾は、最新の方位射撃盤や弾着観測用の染料を練りこんだ徹甲弾などの技術的アシストと日々の鍛錬で培った熟練の将兵の正確な諸元入力、何より最大射程三万の主砲で距離二万からの奇襲攻撃ということで見事に夾叉。慌てて一部の砲塔を旋回させて応戦しようとしているケーニヒ級やカイザー級をあざ笑うかのように、一回目の斉射が始まった。


 艦橋にいても尚、伝わってくる発砲の振動。そして数秒遅れてズン、と腹の底に低く鈍い音と共に艦のあちこちから盛大な歓声が湧き上がった。どうやら幸運にも第一斉射で命中弾を叩き出したようだ。

 

「ビーティー中将より入電! 『貴艦隊ノ援護二感謝ス』です!」


 明るい顔の電信員の報告に参謀長が素早く目線を送り、司令の頷きを確認するやいなや指示を飛ばした。


「返電!『我コレヨリ敵艦隊ヲ抑エ込ミ圧迫ヲ図ル、大艦隊ノ到着マデシバシ待タレヨ』、復唱必要なし!」

「ヨーソロー!」


 この乱入である程度ビーティー提督の焦りも払拭されるだろう。大艦隊側で敵座標情報が把握されず一時的な混乱が起こる、というのも避けられるはずだ。奴さんには戦術的勝利すら取らせるものか。


「お手本のような丁字有利に初弾夾叉、オマケに第一斉射で命中。全くもって見事なもんだ…さて、こっからどうする、及川ァ」


 同期の長谷川がニヤリと笑った。なんだその意味ありげな笑みは…


 と言うか谷口艦長も、百武参謀長も、そして山下遣欧艦隊司令まで何か期待に満ちたような眼差しをちらちらとこちらに向けないでいただきたい…そういう視線に、私は未だに慣れないのだ。


「どうするもこうするもないだろう、旗艦に乗り込んだとはいえど一介の少佐なんだから黙って上官の命令に従うだけよ」


 おそらく仏頂面になって答えているであろう私を見ながら、長谷川は目を細めて言葉を返した。


「ハン、冗談にしちゃつまらねえぞ。優速である我ら遣欧艦隊が大艦隊に先駆けてビーティー中将と合流するよう進言し、結果的に敵さんの艦隊を奇襲攻撃させたのはどこの誰だい。しかも技術士官でもないのに新型の射撃盤や徹甲弾、挙句の果てには航空機にまで口出ししたって話じゃねぇか」


 どこからそんな情報集めてきやがった…と言うか、私をそんな頭のネジがぶっ飛んだ人間だとでも言いたげな顔で見るな、確かに進言はしたが立案したのは別人…いや、()ではないか…


 〔まぁ、頭の中にこんなのがいるって言っても誰も信じませんからね〕


 自分で言うな、自分で。全く…


「沈着冷静、鉄面皮。流石は海軍兵学校時代に何度も教官を図上演習で負かしまくった挙句、誰もを唸らせるような多くの先進的な新戦術を提唱して一部実用化まで持ってった故に朝廷水軍時代の大将、謀神とも謳われた人物にあやかって今毛利と呼ばれただけはあるわな」


 そんな渾名付けられても他の人ならともかく、私は嬉しくならんぞ。それに性格や思想が似るのも当然だろう。何しろ()()()()()()なのだからな。


 ()()()()…及川古志郎は、何も知らない、知る由もないという点である意味呑気な同期+αのせいで、戦闘中だと言うのに微妙に萎えた気持ちを覚えながらこれまでのことを思い返していた。ここまで大きな歴史の改変に至るまでに本当に…本当に色々、あったのだ。

 


































 ………………………

 …………………………………………………


 全ては、「あの場所」で意識が覚醒した時から始まった。


 何も無い、真っ白なだだっ広い空間。どこまで続いているのか全く分からない場所だ。


 呆気に取られていた脳がようやく思考を再開して何故こんな所に、と疑問を感じた所で私はようやく前後の記憶を思い出して理解した。


 あぁ、自分は死んだのだ。


 そこそこの会社でそこそこの業績を示し、そこそこの地位に就いた。家族にもそこそこの生活を送らせてやれた、と思う。だが、手の尽くしようが無いまで進行した病魔の突然の発見。結局医師の宣告した余命とほぼ同じくらいの月日が過ぎたところで、21世紀前半にしては比較的若い死を迎えることとなったのだった。


【気がついたようだね】


 そこまで考えが及んだ時、どこからともなく声が聞こえた。およそ人間らしくない声だ。まぁ死後の世界のようなものがある訳だし、人より上位の存在がいてもおかしくは無いが…待て、私は何を冷静に受け止めている?


【それでは始めようか】


 ごちゃごちゃと急速に頭の中が疑問で埋もれていき、それを口に出すことも出来ないまま話は一方的に進んでいく。


「待ってください、一体ここはどこなのですか? 貴方は何者なんですか? …そもそも始めるって何をですか?」


 混乱しながらも絞り出した質問に対して、帰ってきたのはすげない返事。


【それを考える必要は無いよ】


 …残念ながら何も答えてはくれないらしい。


【愛しき我らの“子孫”よ、その可能性を見せてくれ。与えられた加護を上手く使うことを期待しているよ】


 声が薄く笑った…ような気がしたと思った瞬間、閃光が走る。何も見えない。体の感覚が無くなり、再び意識が闇に沈んでいく。


 薄れゆく意識の中、私はどうなるのだろうか?ということだけがずっと心の中に引っかかり続けていた。




































 ……………………


 ………………………………………………………………



 再び意識がはっきりとした時、初めに私の目に映ったのは、ボロボロな天井。


 これは、アレか? 前世、巷で話題だった異世界転生なるものなのか? 近頃は人外…生理的に嫌なものだと虫とかモンスターとか、挙句の果てには無機物…に転生するというものもあったから、人に生まれたようなだけマシではあるか…まだ首が据わっていないようで、天井しか見えない。


〔意識の完全定着を確認〕


 脳内に響く、あの上位者(仮)の声。だが、意識を失う前に聞いた時よりどこか無機質な部分があるように感じる。


〔貴方の精神の中から最も直近の声のイメージを再現しました。私は貴方の精神の一部を間借りして存在する思念体です。主より貴方の加護となるよう創られました。深層心理までは読み取れませんのでご安心を〕


 件の上位者は加護が何とかと言っていたが…それのことか。とはいえ、若干切り替えが難しそうだ。


〔呼びかけるように念じてくださればそれに反応します〕


 あぁ、なら多少はやりやすい。えーと、つまり君は前世で言うラノベの、頭脳チートに当たる存在でいいのかな?


〔おおかたその認識でよろしいかと〕


 ふむ…奇妙なものだ、あえて過激な言い方をすれば精神を一部乗っ取られてる訳だが、自分でも驚くほど冷静になっている。これが前世なら下手すりゃ発狂ものだろうに…


〔脳内神経の伝達権限を共有しているので、そのようなネガティブな感情の一部が抑制可能となっています〕


 極度な激情や動揺を抑制する…確かにこう言った突飛な事象への対応としては便利だが、言い換えると狂うことは許されないこととなる。…そう言えば、かの上位者はまるで私で実験をしているかのような言いぶりだった。実験器具が壊れたらつまらないのだろう。もっともそんな考えを出来る自分が、それも冷静にそれを受け止めている自分がいることが何よりの証拠だ。と言うか“あの場所”で目覚めた時には既にコイツを与えられていたのだろう。諦めて駒としてでも動かざるを得まい。

 …それで? このゲーム(神の実験)ルール(世界の法則)プレイヤー設定(自分の状況)は?


クリア条件(主のご所望)は世界の改変。舞台(世界線)は前世と同じ世界の貴方がいた時代よりも昔。主人公(貴方の今世の名)は橘逸勢。特殊ルール(転生の特権)は連続転生と私、“オモイカネ”です〕


 “オモイカネ”、すなわち知恵神の名を語る私の脳の同居人はなんの躊躇いも見せることなく、そんな情報爆弾を放り投げてきた。














 オモイカネ。漢字で思兼と書き、日本神話における知恵神として認識されている。天照大神が天の岩戸に隠れた時、そこから引っ張り出すための策を伝えたと言われている。


〔やけにお詳しいですね〕


 学生の頃少しかじっただけだ。この位は調べればすぐ分かる。しかし、そんな神の名を持つという事は、あの上位者はかなり高位の存在…そう、例えばイザナギノミコトのような存在ではないだろうか? あるいはもっと上のアメノミナカヌシ級。“オモイカネ”が主と呼ぶ上に転生直前の“子孫”発言から推測するに少なくともギリシャ神話系統の神々なんぞではないと思うが…


〔そこはご想像にお任せします〕


 なんだ、明言はしてくれないのか…まぁいい、それよりも連続転生とは何なのだろうか?


〔貴方が死亡した場合、この世界線のどこかに再び転生します。もっとも再転生先は日本の中なのでご安心を、なるべく地位の高い人間の元で産まれるように私がサポートします〕


 なるほどね…この世界、正確には日本を導けということか。一般人にはあまりにも荷が重い。技術や制度どころか、古代中世の歴史すらほとんど分からない。現に今世の私である橘逸勢さん? について全く知らないわけだし…


〔橘逸勢は平安初期の貴族・書家です。空海や最澄らと共に遣唐使として中国に渡り、その後帰国。西暦八百四十二年に承和の変によって失脚し、直後に病没しました〕


 某ネットの百科事典みたいな口調で喋るな! …ってか待って。ちょーっと待って。空海と最澄とかと遣唐使に渡るのはまだいい。いや、良くはないが無視はできる。しかし失脚? 承和の変って何が起こった?


〔承和の変は藤原良房によって起こされた政変です。これによって橘逸勢は非人逸勢として姓を剥奪され、藤原氏一強の時代が始まりました〕


 なんということでしょう。つまり私は没落コースまっしぐらという訳では無いか…オマケに非人って、詳しくは知らないけどどう考えても昔で言えば極刑に近いんじゃないのか…?


〔そんな感じです〕


 適当な相槌打ちやがって…しかしこれは大変なことになってきたな、何とか藤原良房とやらが他氏を排斥するようなことを防がなくてはいけないじゃないか…そう言えば今は何年だ? 私が赤子ということはそれなりに時間があると信じたいが…


〔西暦で言うと、七百八十二年に当たります〕


 ジャスト六十年か。いいだろう、それまでに政変を無くす、あるいは不発にするような策を考えないとな…憂鬱だ、全くもってろくな人生の始まり方じゃない。


 まずは“史実”のような人生にしないこと。それを目標に私の一周目の転生は始まりを迎えたのだった。

ユトランドからだからWW1スタートかと思った?残念!平安時代でした!(爆)

色々とネタは仕込んである(発動するとは言ってない)ので気長にお待ちください...ご意見、ご感想お待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 冒頭から既に面白い。 [気になる点] いきなり英語だったからびっくりした。 [一言] 私も小説書いているので、よかったらご指摘ご感想を頂きたいです。
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