ダイレクトメール
またこれか。素子はうんざりしながらその青い封筒を受け取った。中身は見なくてもわかっている。ダイレクトメールだ。どこで調べたのか商魂たくましい安楽死請負い業者のこのようなダイレクトメールが、重度の脳性マヒの素子のもとにもポツポツ届くようになった。
苦痛のない快適な最期を!
眠っているあいだに天国へ!
ご葬儀とセットでお得!
そういったキャッチコピーとともに、若い女が花に囲まれて眠っている写真が大写しにされたパンフレットが目に浮かぶ。
延命治療をしないという消極的安楽死に続き、積極的安楽死が合法化されて三年、人々が安楽死を選ぶ理由は肉体的苦痛のみならず、精神的苦痛や人間関係など多岐にわたり、ついには精神的苦痛の元となるであろう身体障害まで安楽死の理由として認められるようになった。
北陸地方のこの障害者支援施設にも去年から安楽死相談窓口というのが設けられている。
「ねえ、飯山さんってこのごろなあん見かけんけど、入院でもしたん?」
サンルームで郵便物を配っていた支援員の岡部さんに、テレビを見ながらお茶を飲んでいた利用者の鈴木さんが尋ねた。
「ああ、飯山さんか。あの人、最近ちょっと手が動きにくうなったもんで安楽死にしたんやて」
岡部さんは郵便物の宛名を確かめながら、そう言った。
「あらあ、ほんなんかあ」
鈴木さんは少し驚いたようだったが、すぐに気をとりなおしてまたお茶を飲み始めた。安楽死などこのごろは別に珍しいことでもない。先月も先々月も一人ずつ利用者が消えている。
「そういえば、加納さんもパソコン打ちにくうなったとか言うとったけど、そろそろ、どうやいね。相談に乗るよ」
岡部さんは爽やかに微笑みながら素子にそう言うと、郵便物の束を持って利用者の居室のほうに歩いていった。