蛍
「さぁーって、今日のスペシャルゲストはー!レギュラー番組4本!出演CM10本、舞台や声優業にも引っ張りだこ、今を駆けるトップ女優―――プツン
映されていたテレビは消され、賑やかだった部屋は沈黙した。
リモコンを握るは眼鏡が似合う細身のキャリアウーマン。と、テレビを見ていたのはソファーに座り豪華な衣装に身を纏った、先程までテレビに映し出されていた女性。
豪華な衣装の女性はテレビが消えた理由を視線で追うこともしなければ、誰がなぜ消したのかもすぐに理解し、そのまま表情だけ子供のようにつまらなそうにした。
「テレビ点けて」
むくれたまま視線をそのままに、彼女はだだっこのように言う。
それに少し呆れた眼鏡の女性は毅然と答える。
「いいえダメです。マネージャーとして次のお仕事の打ち合わせに来ています。貴女はまだこの状況を理解しておりません」
「またその話ー?」
「ええ、レギュラー番組4本。出演CM10本、舞台や声優業にも引っ張りだこで恋人にしたい芸能人No.1。今を駆けるトップ女優。蛍、貴女は今、時の人なのですよ?わかっていますか?」
「……………………もういいよ、仕事きついしお金も稼いだし、もういい昔の仕事にもどりたい、芸能やめたいよ」
場の空気は氷河期か、最悪そのもの。
女優蛍のその言葉は、マネージャーに苛立たせるに充分なものだったらしい。眉間のシワが濃く美人はまるで鬼人となる。
「蛍、貴女にどれだけの投資をしているかわかっていますか?」
「投資?」
「そう、貴女が通うエステや衣装にメイク。全ては貴女を輝かせるための投資。」
「さぁー知らない、そんなことよりサーティワンのアイスクリーム食べたい」
「…………あの太っていた頃の姿に戻りたいの?」
そのマネージャーの言葉に一瞬さらに空気が凍りつく。
どうやら痛いところをついたといったところか。
やっと蛍がマネージャーの方へ振り向くとそれはそれは怒りをあらわにしている。
「蛍、貴女が光りたいと言うから私はここにいるのよ」
だが何も言わない蛍を見下ろすマネージャーの眼鏡が光る。
まるで見透かす様なことを言うマネージャーに、蛍が眉間のシワ更に寄せ、鏡面台に広げていた化粧品を雑にバッグに詰めると、出かける支度を始める。
「どこへ行く気?」
「…………どこだっていいじゃない!貴女には感謝しきれないほどに感謝しているわ、まるでどこにでもいるブスで太った40代の私を、たった二週間の間に魔法のように導いてくれて、見た目20代、透き通るような肌に、美しくそして輝かしいトップスターにしてくれたんだから」
「ならば、献身的に働くのが見返りじゃない?」
「でも、もういいでしょ!?貴女の組むタイムスケジュールは分単位、心身共にもうボロボロよ!きついの、休ませてよ!」
「…………潮時ね」
マネージャーの落胆した言葉につられるように、蛍の身体が膝から落ちた。
「…………え?」
そのまま床に受け身もせず倒れると、視線はマネージャーに向けられたまま。だが、身体が動かなければ視野も少しずつ狭まってゆく。
「えっ…………な…………に?…………なにし…………た…………の?」
呂律もだんだんとうまく回らず、息が苦しく衰弱してゆく蛍を、助ける様子もなくこうなることを分かっていたかのようなマネージャーは無表情で見下ろす。
「タイムリミットだったか。貴女は蛍。そう蛍なの、蛍になった貴女は二週間の命。貴女はもう光を失い力尽きるのよ」
「そ…………んな」
「輝きたいと言ったのは貴女よ?けど蛍は短命なの、貴女は美しかったわ、蛍」
短かく、拙い小説読んで頂きましてありがとうございます。私の自宅にも年々数を減らしながらも蛍が舞い、楽しみながらこちらを作成しました。
設定はオーソドックスですが、短編だからこそだと思っています。
評価を頂ければ嬉しいです。よろしくお願いします。