『きみまろのラスト・バトル』
きみまろは腕を切り裂かれた。
「う、うぁぁぁぁぁッッッ!!」
迸る血液に、ただただ混乱に陥ることしかできない。
ふと、最愛の女性――キャサリンを思い浮かべる。彼女の仇を打たなければ、俺がここにいる価値はない。きみまろははっと我に返り、ズボンに装飾していたチェーンを切断された左腕に巻きつけて止血した。
「太郎……貴様だけは、許さねぇ!!」
「僕に勝てるとは思えないがね、……かかってきなよ」
雄叫びを上げたきみまろは、『超次元ゾーン』からジャックソードを取り出して構える。最後の戦いと決めつけていた彼には、決死の選択と見えた。
なぜなら、『超次元ゾーン』を出現させると寿命が三十年縮むからである。前に二度使い六十年の寿命を奪われたきみまろには、三度目の『超次元ゾーン』はきつかった。それでも生きていられるのは、まだ寿命があったということ。まさに奇跡と言えた。
対抗するように、太郎は宙に浮く九本の槍『ブリザード・ナインテイル』を発動する。氷柱の如く、しかし豪傑に型取られたそれには冷気のようなオーラが纏っていた。
「タロオオォォォォォッ!!!!」
「きみまろぉおおおおおおッ!!!」
きみまろは駆ける。反応したブリザード・ナインテイルは次々と発射されていく。
まもなく左太ももに一本が刺さった。だがきみまろは出血など気にもせずにその槍をぶち折る。
苦い声音が走った。まるで地獄を味わうかのように。
肩に二本目が的中すると、流石のきみまろも痛みをこらえられずに絶叫する。
「いっでぇぇぇええッッエ……!!!」
再びよぎるはキャサリンの笑顔。肩から大量の血と共に引き抜かれた槍を折った。そして、再三と走っていくではないか。
一気に三本を疾風さながらに消滅させ、残りは四本。
しかし、それらはきみまろの前から消えていた。
「きみまろぉ! 終わりだぁ!」
やや狂い気味に哄笑を上げた太郎に、きみまろは気づいた。
後ろに瞬間移動していたことを。
「うおおおおおおぁぁぁぁ!!!」
三本は破壊した。がしかし――最後の氷槍は土手っ腹に。
途端に吐血する。
「がっはぁ……!」
「諦めろ、キャサリンは帰ってこないんだよ! そして君も……ふははははぁ!」
「……まだ、諦めるわけには、いかねぇんだよ」
――きみまろはキャサリンとの思い出を究極に頭の中で再現し、ある言葉をよみがえらせた。
花畑、春風に揺られながら。
「きみまろ、もし、もしだけど、私が死んだら悲しまないでね」
「……無理を言うなよ、泣くに決まっている」
「そこをなんとか、約束して」
「……わかった、なるべくだが、そうするよ」
――ありがとう。
目を開けたきみまろには、決意の焔が宿っていた。
「最終奥義――――!!」
ジャックソードから炎が噴出される。きみまろは太郎の場所まで一直線に、それでいて回転しながら、最後の一撃を見舞おうとしていた。
「紅蓮爆炎斬り」
太郎は驚く――首元に燃える剣があったことに。
きみまろは、一気に太郎の身体を切り裂いた。