99 新メニュー、それは…!
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★『チートゴーレムに引きこもった俺は、急に美少女たちから懐かれはじめました。キスしながら一緒に風呂やベッドに入るって聞かないんです!』
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引きこもれば引きこもるほど、チヤホヤされる…チートゴーレムのお話!
みんなに生地を踏んでもらっている間、ボクはこの厨房にあるいちばん大きなボウルをよっこらしょ、と取り出していた。
タライくらいあるそれに、大量の小麦粉を入れる。
そしてこれまた大量の食塩水を混ぜて、両手でんしょ、んしょとこね上げる。
ボクは大量の生地を作り上げると、調理台のみんなに均等に分けて、追加で踏んでもらった。
追加の生地にお客さんは大盛り上がり。
お立ち台のようなキャルルとルルンはさらに高くなって、ヒューヒューとさらなる声援を受け取っていた。
厨房のすみっこにいるシェフたちは調味料のある棚でなにかやっていたけど、ボクは気づかないフリをする。
みっつのコンロに火を入れ、ひとつは普通の鍋と、残りのふたつはこの厨房で一番大きな鍋を置く。
普通の鍋には油を、大鍋にはふたつともたっぷりの油を入れる。
火が通る間に、ボクは野菜の皮を剥いて、さらに刻んだ。
ニンジンとジャガイモとタマネギと、あとはインゲン、っと……。
できあがった刻み野菜。
でもそれには手を出さず、ボクは野菜の皮のほうを掴んで、大鍋のひとつに入れた。
コックのひとりが「うえっ!?」と声をあげる。
「おい、見ろよ……! アイツ、野菜の皮を煮てるぞ!?」
「皮なんて、捨てるか動物の餌にするくらいしか使い道ないってのに……! まさかアレを食う気か!?」
「うわっ、気持ち悪っ……! アイツ、ぜったい料理やったことないだろ!?」
「どうやら完全に、おままごとと勘違いしてるみたいだな……!」
「神聖なる厨房で、なんてことを……! ああ、もうっ! なんてこった! オーナーの命令がなけりゃ、つまみ出してやりたいぜ!」
そんな忌々しそうな言葉が聞こえてくるなか、ボクは野菜の皮を煮ている鍋に、お酒と塩を追加する。
塩は調味料台にあったやつだけど、お酒はバーカウンターから持ってきたものだ。
……これでよし、あとはしばらくほっておけばOKだ。
次に、皮じゃないほうの野菜にとりかかる。
ボウルに入れた小麦粉を水で溶いて、その中に刻んだ野菜を入れた。
本当は溶き卵か片栗粉があればもっといいんだけど……今日はこれでいいや。
小麦粉の衣をまとわせた野菜を、油を入れておいた普通の鍋に入れる。
……ジュワァァァァァァァ……!
弾けるような音と、香ばしいにおいがあたりに広がった。
コックたちがすかさず反応する。
「な、なんだっ!? 今、アイツはなにをやったんだ!?」
「小麦粉を水でといて、それに野菜を入れて……油に入れたみたいです……!」
「なんだそりゃ!? 野菜を揚げるのはわかるが、小麦粉を!? なんだってそんなことを!?」
「わかりません……! でも、ニオイはいいような……!?」
「何言ってんだお前! ニオイに騙されんな! あんなやり方で揚げた野菜なんて、ぜったいマズイに決まってる!」
おいしいのになぁと思いながら、ボクは揚がるのを待つ。
ふと調理台のほうを見てみると、いいカンジにこねあがっているようなので、声をかけた。
「みんな、ありがとう! もういいよ!」
すると、女の子たちは調理台から次々と降りる。
「えーっ、もう!?」「もっとやっててもよかったのにー!」
やり足りなそうなキャルルとルルン。お客さんも残念そうだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……は、恥ずかしかったぁ……!」
アリマは降りるなり両手で顔を抑え、しゃがみこんでしまった。
顔を押さえてイヤイヤをしている。長い髪の間から覗く耳は真っ赤になっていた。
ウサギは愛着がわいてしまったのか、降りてもなお「いいこいいこ」と生地を撫でている。
マニーは額の汗を拭い、ふぅ、とひと息つく。
「こんなに大量の生地を作って……クレープにするには多すぎるだろう」
「いや……だからクレープは作らないって。ちゃんと今晩作ってあげるから、我慢して、ねっ」
ボクはマニーに言い聞かせながら、さっきまでステージだった調理台の前に立つ。
みんながこねてくれた生地を綿棒で伸ばし、平べったくしてひとつにくっつけた。
次はなにをするんだろう? と興味津々で覗き込んでくるお客さん。
ステージの上にいるシルバーはそれで見えにくくなってしまったのか、立ち上がっている。
でもボクと目が合うと、気まずそうに咳払いをして着席してしまった。
気になるんだったら、別に見ててもいいのに……。
まぁ、いっか。
そんなことよりも……やるぞっ!
ボクは気合を入れて、平べったくなった生地に立ち向かう。
包丁を使って、端から細い筋を入れるように刻みはじめる。
これにはコックたちどころか、お客さんたちまでどよめいた。
「な、なんだ? 足でこねた生地を平たく伸ばして、今度は刻みはじめたぞ……?」
「あんなに細く切って……いったい、なにをするつもりなんだ?」
「さぁ……? あんなことをする料理、見たことも聞いたこともないぞ……!」
お客さんはみんな不思議そうだ。
料理のプロであるコックたちも、一様に首を傾げている。
「……コック長、あんな作り方する料理、ご存知ですか? 自分は初めてなんですが……」
「あるわけないだろう! 全ての料理を知る俺が断言してやる! あんなものは、料理じゃないっ!」
コック長と呼ばれるオジサンだけは、ひとりプリプリ怒っていた。
「全ての料理をご存知のコック長がご存知ないとなると、アレは一体……?」
「だから最初から言っているだろう! あんなものは料理ではないと! 俺は成人してからすぐこの世界に入ったんだ! ちょうど、いまあそこで神聖なる厨房を汚しているガキと同じくらいの頃だっ! そして40年ものあいだ世界中の料理を研究してきたんだぞ!? だから断言できる! あんなものはタダのおままごとだと! できあがるものがどんなものか、簡単に想像できる!」
「そ、それは、どんなものなんですか……?」
「教えてやろうか!? ミミズがのたうつ、ガキの泥んこ遊び……! 家畜ですら見向きもしない、想像するだけでおぞましいものだ!」
「うえええっ、それは見たくもないですねぇ……!」
「ああっ、もうっ! ガマンできん! 今からあのガキをぶん殴って、たたき出してやろうか!」
「ああっ、やめてくださいコック長! オーナーの命令を忘れたんですか!」
コック長はまわりのコックたち止められながら、ブルドックみたいにウーウー唸っていいた。
ボクは細長く切った生地を、残っていた最後の大鍋に入れながら、コック長に向かって言う。
「……オジサン! もう少しでボクの料理ができるから、食べてみてよ! 絶対においしいからさ!」
すると即座に吠え返された。
「うまいわけがないだろうっ!? この俺の料理人生を賭けたってかまわんっ!」
「そんなの賭けられても、困るけど……じゃあさ、おいしかったら土下座して、ボクに謝ってくれる?」
「あーあいいとも! だがマズかった場合、貴様はどうするつもりだっ!?」
「うーん、そうだなぁ……ここの厨房で、一生タダ働きってのでどうかな?」
すると、仲間たちが血相変えて飛んできた。
「な……なんてことを言うんだっ!? 馬鹿な真似はよせっ! アンノウンっ!?」
『そんな約束しちゃだめーっ!』
「マニーとウサギの言うとおりだよアンノウン! まだケルパーの勝負もついてないってのに!」
「そうだよ! だいいち、アイツが食べて判断するんっしょ!? だったらおいしくてもマズイって言うにきまってんじゃん!」
「は、はい……! ウソは良くありませんが、その可能性は多いにあります……! 最悪お金は全部取られて、そのうえ一生タダ働きだなんて……! アンノウン君は、破滅願望でもあるのっ!?」
みんなにまくしたてられて、ボクはまぁまぁとなだめる。
「大丈夫だって、今回の料理はすごく自信があるんだ。まぁ、見ててよ……!」
なんてことをやってる間に、大鍋に入れた生地がゆであがる。
よぉし……!
完成まで、あともう一息だ……!
このカジノにある、ありったけのどんぶりを並べてもらって、そこに茹で上がった生地を均等に入れる。
かなり茹でたから、百人前はあるだろうか。
そこに、ずっと野菜の皮を煮ていた鍋のスープだけをすくいあげ、どんぶりにぶっかける。
仕上げに、野菜のかき揚げを乗せて完成。
かき揚げは百人分は無理だったから、他の人たちの分は、かき揚げを揚げたときに出た天かすをトッピングした。
「で……できたっ……! 『野菜ダシの塩かき揚げうどん』……! それと『野菜ダシの塩たぬきうどん』……! 完成ーーーっ!!」
ボクは盛り付けに夢中になって気づかなかったんだけど、顔をあげた途端、デジャヴを見た。
桜あんぱんを作った時のように……いや、その数倍以上の人たちが、ぽかーんとしていたんだ。
しかも、よだれを垂らしながら……!




