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98 ケルパーめし

関連小説の紹介 ※本作の最後に、小説へのリンクがあります。


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 ひとしきりドタバタを終えたあと、ボクはまたMP(マジック・ポイント)がほとんどなくなっていることに気づいた。


 そっか……!

 すごく集中して『ゾーン』に入っていたはずなのに、急に元に戻ったのはMPが切れたせいだったんだ……!


 休み休みやっていれば『ゾーン』もMPも、もっと持ったのかもしれないのに……!

 夢中になるあまり、ペース配分をするのをすっかり忘れてた……!


 心の中で密かに頭を抱えていると、ボクの所にカジノのスタッフがやって来た。

 うやうやしく、革張りのメニューを手渡してくる。



「……アンノウン様、お食事は何になさいますか?」



 そう言われて気づいた。もうお昼だということに。


 ボクは受け取ったメニューを眺めながら、どうしようかと悩む。

 すると、対面のシルバーが口を挟んできた。



「遠慮することはない、少年。この私との対局の場合、食事代はすべてカジノ持ちになっている。なんでも好きなものを頼むといい。私は相手が誰であれ、対局中の食事はいつもサラダとパン、そして肉と決めている」



 「おお~!」と観客の羨望がシルバーに集まる。



「やっぱり世界チャンピオンともなると、対局中に食べるものも違うなぁ……!」



「肉なんて、普段ですら食べたことないよ……!」



「シルバーさんの名言で『肉は勝利の喉ごし』。ってのあるんだが、どんな味なんだろうな……? 死ぬ前に一度食べてみたいぜ……!」 



「でもよ、シルバーさんが勧めたってことは、あの少年も肉を食べられるってことだよな!?」



「あっ、そうだ……! いいなぁ~!」



「でもそれだったら悩むのも納得いくよなぁ、どの肉を食べるかで……!」



「あの少年、対局のときより悩んでるぞ……!」



「シルバーを圧倒している少年も、さすがに人の子ってわけだ」



 微笑ましそうな視線が、ボクを包みこむ。


 ……みんなは、ボクがメニューに目移りしているんだと勘違いしているようだ。


 でも正直いって、どれも食べたくない。

 肉といってもどうせ残りカスみたいなのだろうし、たいしたBuff(バフ)効果も付いてないだろうし……。


 そこでハッとなる。


 そうだ……!

 いいことを思いついた……!


 ボクはメニューをパタンと閉じて、スタッフの人にこう言ったんだ。



「厨房、貸してほしいんだけど……!」



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 数分後、ボクは仲間たちとともに厨房にいた。


 厨房は、カジノの壁に沿って作られているバーカウンターと一緒になっていて、オープンキッチン。

 客席から調理をしているところがよく見えるようになっているんだ。


 なぜか観客の人たちもボクらと一緒に移動してきて、調理台を囲んでいた。

 対局観戦の時と同じように、誰もが興味深そうにささやきあっている。



「対局中の食事を自分で作る打ち手なんて、初めて見た……!」



「ああ。対局中どころか、それ以外の所でも型破りだな……!」



「でもよ、いったいなんで自分で作るんだ? プロのシェフが作った料理のほうが、ぜったいうまいだろうに」



「さぁな、あの子の考えることなんて、もう誰もわからねぇよ」



 ……ボクが自分で食事を作る理由としては、みっつある。


 まずひとつめは、カジノ側の不正を防止できる。

 トイレで襲われたから、食事にもなにかを入れてくるんじゃないかと思ったからだ。


 ふたつめはBuff効果。

 この世界の食事には、ほとんどBuff効果というものがない。あったとしてもほんの少しで、効果時間も1時間くらいしかない。


 でも、ボクの作った料理ならかなりのBuff効果が見込めるし、しかも効果時間も4時間と長いんだ。


 そして最後に……これがいちばんの理由なんだけど、ボクが作る料理のほうが、このカジノのコックより絶対に美味しいのは、間違いないから……!


 理由はそんなカンジなんだけど、それよりも……。

 まさかこんな大勢の前で料理するなんて、思いもよらなかった。


 いま、ボクを見ているのは仲間たちのほかに、カジノのスタッフ全員と、お客さん全員……。

 ステージの上にポツンといるシルバーも気になるのか、横目でチラチラ様子を伺っている。


 こんなショーみたいな状況で料理して、うまくいくかなぁ……。

 でもまぁ、やるしかないか。



「まさか、こんな所まで来て料理をするとはな……で、なにを作るつもりなんだ? クレープか?」



 やや呆れ気味にマニーが聞いてくる。

 「クレープは、材料がないから厳しいかな…」と答えると、「そうか……」とちょっと残念そうにしていた。



「クレープは、今日の夜にでも作ってあげるよ。今は簡単に作れるやつにする」



 すると『どんぶり!?』と親子丼のイラストが描かれたスケッチブックを向けてくるウサギ。

 「それも材料がないから無理だよ」と答えると、しゅんと肩を落としていた。



「親子丼も今夜作ってあげる。今日はね……」



 「「「パン!?」」」とキャルルとルルンとアリマが同時にハモった。

 「それも材料がないよ」とボクは即答する。


 みんなは自分が食べたかったメニューじゃないとわかって、ちょっと興味を失いつつあるようだ。


 でも今回のメニューには、ちょっと自信がある。

 きっとみんなも好きになってくれると思うんだ。


 ボクはさっそく調理を開始した。


 まずは水に塩を入れて、食塩水を作る。

 つぎに木のボウルに小麦粉をあけ、作った食塩水を加えて手で混ぜ合わせた。


 もっちりスライムみたいな生地ができあがったところで、みんなに助けを求める。



「みんな、ちょっと手伝ってくれない?」



 みんなは「いいよー」と言ってくれたので、生地を五等分して布でくるみ、平らな調理台の上に置いた。



「じゃあみんな、裸足になって台の上に乗って、この生地を踏んでほしいんだ。あ、ちゃんと足を洗ってからね」



 するとみんなは「ええっ!?」と目を剥く。



「これから作る料理は、生地を踏んでこねるとおいしくなるんだよ。それも女の子の力加減だとちょうどいいんだ」



 キャルルとルルンは「オッケー!」とさっそくブーツを脱ぎ、足を洗ってから調理台の上に乗ってくれた。



「さっ、ウサギっちもアリマも早く早く!」



 姉妹にひっぱり上げられるようにしてウサギとアリマもあがる。

 最後に残ったのはマニーだったんだけど、



「……何を見ている? 俺はやらないぞ。だいいち、俺は男だ!」



 と断られてしまった。


 そっか、忘れてた……ボクはもうマニーのことをすっかり女の子だと思って、生地を5等分しちゃってた……。



「じゃあさ、上に乗らなくてもいいから、手でこねてくれないかな? その間にボクはすることがあるんだ」



 お願いすると、マニーは渋々ながらも調理台に向かってくれた。


 そして始まる、女の子たちの賑やかな足踏み。



「キャーッ!? なにこれなにこれ、ヘンなカンジー!」



「おもしれぇーっ! うちのパンも、こうやって作ろっか!」



 キャルルとルルンはミニスカートをフリフリ、太ももを大胆にチラチラさせながら生地を踏みまくっている。



「って、アリマ、もうちょっとローブの裾あげなよ、でないと踏んで危ねぇって!」



「キャッ!? め、めくらないでください……! 私は神に仕える身ですから、肌を晒すわけには……!」



「なぁーにカタいこと言ってんの! ほぉーら!」



 両側にいる姉妹からローブの裾を摘み上げられ、恥ずかしそうにしているアリマ。

 ペンギンみたいにヨチヨチと足踏みし、生地を踏んでいた。


 ウサギも恥ずかしいのか、うつむいてモジモジしながら生地を踏んでいる。

 でもやさしすぎて、なんだか足で撫でているみたいだった。


 マニーはなぜかぶんむくれていて、八つ当たりするみたいに生地にドスドスパンチをしている。


 個性あふれる彼女たちの『こねこねショー』は、お客さんたちにも大好評。

 歓声を受け、キャルルとルルンはとうとう踊りだしてしまった。


 前代未聞の調理方法に、カジノのコックさんたちは茫然自失。

 調理場の隅っこで固まっている彼らに、ボクは聞き耳を立てた。



「こ……これが、料理……?」



「こっ、こんなふざけた料理のしかたがあってたまるか! 今すぐやめさせろ!」



「で、でも、最後までやらせろって、オーナーからは……!」



「ああ、もうっ! なんてこった! あんなやり方で作った料理なんて、ぜったいマズイに決まってる!」



「それよりも、どうします……? 調味料に薬を入れろって言われてますけど、あんな調理法、見るのも初めてだから、どんな料理ができるのか……だから、どの調味料に入れたらいいのかもわからなくて……」



「薬は液体なんだろう? だったら液体の調味料ぜんぶに入れちまえ!」



「いいんですか? そんなことして……」



「かまわん! 終わったら全部捨てちまえばいいだけのことだ! わかったらさっさとやれっ!」



「わ、わかりました……!」



 やっぱり、なにか混ぜものをするつもりだったんだ……!

 でも、液体だとわかれば、怖くはないぞ……!


 ボクはちょっと予定を変更して、料理の続きをすることにした。

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