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97 千手千眼

関連小説の紹介 ※本作の最後に、小説へのリンクがあります。


★『…マジで消すよ? 俺の愧術がチートすぎて、クラスのヤツらを一方的に縛ったり消したりします!』


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女の子を緊縛して奴隷にする、嫌なヤツを消す、お金を出す…これ全て、異世界最強の、愧術…!



★『チートゴーレムに引きこもった俺は、急に美少女たちから懐かれはじめました。キスしながら一緒に風呂やベッドに入るって聞かないんです!』


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引きこもれば引きこもるほど、チヤホヤされる…チートゴーレムのお話!

 キャルルに肩を貸してステージへと戻ると、なぜか観客たちがざわめいた。



「お、おい、見ろよ……!」



「あのギャル、ぐったりしているぞ……!」



「顔も真っ赤で、息も荒いし……!」



「ま、まさか、ウソだろ……!? 対局中なのに……!?」



「あの少年……もしかして本当にハーレム王なのか……!?」



 ボクはみんなが驚いている意味がよくわからなかったけど、気にせず席に戻る。

 対面のシルバーは、ボクが席を立ったときと同じポーズで迎えてくれた。



「……少年、ずいぶんと長いトイレだったね。てっきり逃げ出したのかと思っていたよ」



「それを勧めてくれた人がいたんだけど、途中で逃げるのはよくないと思って」



「……そうか、殊勝な心がけだ」



 ボクが無傷で戻ってきたことに、シルバーは動じていないようだ。

 しかし後ろにいたマネージャーらしき男の人は、信じられない様子でボクを見ていたのでおおよそ理解する。


 そうか……トイレで襲ってきた用心棒は、あのマネージャーの差金だったのか……。


 てっきりシルバーが命令したのかと思ってたのに……。

 なら気をつけなくちゃいけないのは、あのマネージャーのほうかもしれないな……。


 ボクは密かに考えを改めながら、ケルパーの盤面に向き直った。

 『クロスレイ』で改めて敵の駒を透視したあと、『瞬間記憶モーメント・メモライズ』で頭にしっかりと焼き付ける。


 「ボクの番でいいんだよね?」と尋ねると、シルバーは「うむ」と頷く。


 ボクは少し身体を引いて、大局を見据えるように盤上を見渡した。


 そして集中。

 どっかりと置いた両肘が、柔らかいものに沈んでいくのにも気づかないほどに。



 ……シュバァァァァァァァーーーンッ!



 頭の中で、マグネシウムが燃焼するような閃光がおこる。

 直後、盤上を電流のような、幾重もの光の筋が走った。


 将棋スキルの『千手(せんじゅ)千眼(せんげん)』……!

 千の手と、千の眼があるかのように、一瞬にして幾多もの指し筋を頭の中でシミュレートするスキル……!


 しかしこの状況では、『千手千眼』スキルだけでは不十分……!

 なぜならば、相手の駒が見えない以上、シミュレートの正確性を欠くからだ……!


 だけどボクには、相手の駒がわかっている……!

 その情報を追加で与えてやれば、絶対無比の一手が導き出せる……!


 そう、これは併せ技……!

 『サイキック』『超感覚』『ゲーム』……3つの異なるスキルを持つボクだけができる技なんだ……!


 ぼんやりと光る盤面の一マスに向かって、ボクは持ち駒を叩き込んだ。



 ……ビシィィィッ……!



 狙いを定めたのは、シルバーの陣から離れた場所にある、『足』……!

 将棋でいう『角行』の駒のひとつ前に、ボクは『息』を打ち込んだんだ……!


 駒を打つ音はハッキリと聞き取れたのに、まわりの大人たちの声はずいぶんと遠くに聞こえる。

 シルバーもなにか言ってるけど、金魚みたいに口がパクパクしているばかりで、何がなんだか……。


 なにを言ってもボクが何も言わないので、彼はやがてあきらめたように肩をすくめると、着手した。


 ……パシィィィンッ……!


 手番をボクにパスしてくれたような、小気味よい音とともに駒が動く。


 ボクは再び、光に向かって打ち込んだ。


 ……ピシィィンッ……!


 続いて、シルバーの一手。ボクの一手。


 シルバーの一手。ボクの一手。敵の一手、ボクの一手。一手。自分の一手。

 一手、一手、一手、一手……。


 額に白いハンカチが当たる。

 それに目もくれず、ボクは駒を打ち据える。


 そして、他人事のように心の中でつぶやく。


 ……そっか……!

 『ゾーン』って、ゲームにもあるんだ……!


 しかし……まだだ……!

 そんなことに気づいているようじゃ、まだ集中できていない証拠……!


 ならばもっと……没入しなきゃ……!

 もっともっと……深く潜るんだ……!


 駒と手が、ひとつになるくらいに……!

 この小さな盤面に広がる大きな世界、その住人となるくらいに……!


 瞳孔が震え、指が震えはじめる。

 なにかに掴まっていないと落ち着かなかった。


 ちょうどいい感触のものがあったので、ガッ、と掴む。

 するとだいぶ落ち着いて、とうとう、あたりは一面の湖となった。


 どこまでも続く、静かな水面の上には、ボクと駒だけ。

 まわりには誰もいない。机や椅子どころか、盤すらも消えていた。


 もはや敵も味方もない。

 すべての駒が、ボクの意のままに動いていた。


 一手ごとに波紋が広がり、音もたてずに消えていく。



 ……シュゥゥゥゥンッ……!



 不意に、景色が色を取り戻した。



「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?!?」



 いきなり大ボリュームの声が飛び込んできたので、ボクは心臓が止まるくらいビックリしてしまう。

 周囲の観客たちが、狂ったように大騒ぎしていたんだ。



「すげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」



「あのシルバーが、完全に押されてるだなんて……!!」



「難攻不落だった『石の砦』に初めて風穴が空いたぞっ!?」



「まだシルバー優位ではあるけど、見てみろよ! かなり焦ってるみたいだぜ……!」



 その声につられ、ボクは対面を見やる。

 手元にある陣形は少しだけしか崩れていないのに、シルバーの表情はだいぶ崩れさっていた。



「世界チャンピオン相手に、裸一貫であそこまでやるだなんて……! 絶対ただ者じゃねぇっ! あの少年!」



「そうだ……! シルバーがなにを言っても答えなくなったと思ったら、すげえ攻勢になったよな!?」



「ああ……! ギャルの胸を揉みしだきはじめた時はいったいどうしちまったのかと思ったけど、そこからの猛攻がまたすごかった……!」



 ……ギャルの、胸……?


 そう言われて今更ながらに気づく。

 巨大なマシュマロみたいなものにめりこんでいる、左手の感触に。


 おそるおそる、見やると……。

 ボクに胸を掴まれて、「あっ、はんっ」と熱っぽい息を吐くキャルルがそこにいたんだ……!



「わあっ!? ごめんキャルルっ!?」



 慌てて手を離そうとしたんだけど、ガッと掴まれてしまった。



「ううん……! やっとアンノウンが、ウチのおっぱいを触ってくれた……! チョー嬉しいんですけどぉーっ!」



 そして続けざまに右手も掴まれる。ルルンだった。



「ちょっとぉ! こっちも触っていーよってずっと言ってんのに、シカトしやがって!」



 ルルンはプリプリ起こりながら、ボクの手をプルプルしている胸にあてがった。



「ちょっ……!? や、やめてふたりともっ!」



 ボクが振り払うようにして立ち上がると、ジト目が4つ……いや、6つ向けられていた。

 マニーとウサギ、そしてスケッチブックに書いてある目だった。



「最低だな、アンノウン……!」



『エッチなのはダメだって言ってるのに……!』



「ち、違うんだよ! マニー、ウサギ! ボクは対局に集中するために、なにかに掴まろうとしてただけなんだよ……!」


 

「なるほどな、だからいくら言ってもやめなかったのか……! って、そんな言い訳が通用すると思うのかっ!?」



『アンノウンくんの、エッチ、エッチ、エッチーっ!』



 いつになくふたりが怒っていたので、ボクは困り果ててしまう。

 なんだか嫌な汗が吹き出してきたので、腕で額を拭おうとしたんだけど……それよりも先に、白いハンカチが甲斐甲斐しく割り込んできた。



「あらあら、まあまあ、アンノウン君……またそんなに汗をかいて……。対局の時よりも、汗びっしょりになってるじゃない」



 アリマは「しょうのない子ね」といった顔で、ボクの汗を拭いてくれている。


 誰かがボソリと「やっぱり、ハーレム王だ……」とつぶやいていた。

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