94 タネ明かし
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引きこもれば引きこもるほど、チヤホヤされる…チートゴーレムのお話!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?」
『息』の駒を確認した瞬間、スタジアムのような大歓声がおこった。
その大声量は盤上の駒をカタカタと震わせ、ワインを波立たせる。
背後にいた仲間たちが、ボクのまわりにわっと集まってきた。
「すっごーい! アンノウン! よくわかんないけど、超すごぉぉぉいっ!?」
「もー、ヤバいってアンノウンっ! マジ心臓が止まるかと思ったじゃん!」
奪い合うようにしてボクに胸を押し付けてくるキャルルとルルン。
ふと、その合間にいつもと違う感触が混ざった。
表面は冷たくて堅い感触で、中はクッションが入ってるみたいに柔らかい……。
鎧を着ているマニーだった。
彼女はしばらく感極まったようにボクをギュッとしてたんだど、ボクの視線に気づくと我に返って離れていく。
別に気にしなくても……と引き止める間もなく、新たな胸がボインと割り込んできた。
「あ、アンノウン君っ! どうしてあんな無謀なことを……!」
涙声のアリマだった。
彼女は聖職者だというのに人目もはばからず、ボクを熱く抱擁して離さない。
ボクが好きになったとかそういう感情からじゃなくて、たまりにたまった不安が爆発してしまったようだ。
限りない弾力の向こうから、心臓がバクバクいう音が止まらない。
ボクは場の興奮がおさまるまでの間、三人の女の子に何度も窒息死させられそうになってしまった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
……まだ1手しか指してないのに、だいぶ時間が経ってしまった。
その間にボクの持ち駒がひとつ増え、そして意外なモノも増えていた。
ボクの頭と両肩は、アリマ、キャルル、ルルン……三人の女の子の胸置きになっていたんだ。
どっしりとした重みと、救命胴衣みたいな柔らかい圧迫を感じる。
誰かがボソリと「なんかハーレム王がケルパーをやってるみたいだな……」とつぶやいた。
対面のシルバーはクフンと笑って、ボクに手を勧める。
「……少年、たった一度の偶然で、モテモテになってしまったようだね……。羨ましいよ。さあ、次はキミの手番だ」
大騒ぎだったので彼の動揺を見るヒマはなかったけど、もう回復したようだ。
たぶん、被害が少なかったからショックもそれほどではなかったんだろう。
だってフェイクに使った駒は、『息』……。
将棋でいう『歩』……ようは一番弱い駒だからだ。
でも……彼は大きな間違いを犯した。
この『ケルパー』というゲーム、『心』ひとつだけでは絶対に勝てない。
取られたら終わりの駒しかない以上、1対1交換ができないからだ。
しかし、たった1枚の『息』でも渡してしまったら、そうではなくなる……!
いくらでも格上の駒との交換ができてしまうんだ……!
ボクはいま『ケルパー』を初めてやっているけど、そのくらいの原理ならわかる。
だってボクには、『超感覚』の『思考』スキルがあるから……!
たとえ初めてのゲームだって、プロ並の思考を働かせることができるんだ……!
でも、油断はならない。
相手は世界チャンピオン……! ただのプロではないから……!
ボクは気を引き締めながら、そっと盤上の駒に手を伸ばす。
『心』に触れた瞬間、パチッ! と静電気のような感覚が走った。
「!?」とっさに手を引っ込める。
そして密かに気づいていた。
新たなるスキルの出現に。
駒に触れたら、新しいスキルが増えた……!?
この状況からすると、もしかしたらアレかも……!?
ボクは表情の変化を悟られないように、手を再び自分の太ももの上に戻した。
すると、それに気づいたキャルルがいきなり動きだす。
密着させていた身体をこすりつけるようにして腰を落としたんだ。
「エヘヘー! いいこと思いついちった! ウチのおっぱいに、肘を置いてもいーよ!」
ボクの右肩に乗っていたおもちがスライムのようにぷるぷると、椅子の肘掛けの上に移動する。
「あっ、それ超イイ! 超イケてんじゃん!」
間を置かず、左の肩乗りスライムもずるんと垂れ落ちて、ボクの肘の下に割り込んできた。
「え、えーっと、キャルル、ルルン、胸を肘置きにするだなんて、さすがにちょっと……」
ボクはさすがに躊躇したんだけど、ふたりは「えーっ、いーじゃん!」とニッコニコだ。
ガッと腕を捕まれ、ほとんどムリヤリ胸の谷間に肘を置かされてしまった。
まわりの大人は、ぷにぷにのクッションに乗るボクの肘に釘づけだ。
「す……すげ……」
「あんなかわいいギャルの胸を、肘置きにしてケルパーをやるなんて……」
「マジで……ハーレム王じゃないか……!」
「あんなの、世界チャンピオンになってもできないぞ……!」
「ああっ……! シルバーさんの玉座の肘掛けは、最高級の素材を使って作られていて、夢みたいに柔らかいっていうけど……! きっとそれ以上だ……!」
「あれの前には、どんな肘掛けだってゴミにしか見えねぇだろ……!」
「ああっ……うらやましい……! 超うらやましい……!」
大人たちはごちそうがあるわけでもないのに、こぞってヨダレを垂らしている。
背後ではマニーが「ふしだらだ!」と騒いでいたが、「お静かに!」と咎められていた。
さすがにこれには冷静なシルバーも苛立ったようだ。
わずかではあるが、眉間にシワが刻まれている。
予想外の出来事だったけど、思いもよらぬ収穫があった。
思いのほか、肘が心地よくって……じゃない。
向かい合って対局するゲームの場合、こうやって相手の感情をゆさぶる事こそが、勝利へのカギとなるんだ。
ボクはさらにたたみかけるように、こう言った。
「……パス」
このケルパーでは、自分の手番をパスすることができる。
ただし、相手が認めた場合のみ。
局面によっては駒を動かさないほうが有利な場合もあるんだけど、そんな場合は大抵認められない。
でも、このパスは……そういう意味で言ったんじゃないんだ。
ボクは続けざまに、シルバーに揺さぶりをかける。
「あ、そうだ。ひとつ言い忘れてたけど、ボクは『心』をこの位置から動かさないで勝つつもりだよ。もちろん、シルバーが認めてくれればだけど」
ざわっ……! と豪雨のようなざわめきが走った。
しかしシルバーはどこ吹く風、観客の動揺も通り雨のようにスルーする。
「フッ……少年、たった一度のフェイクを見破っただけで、そんな宣言ができるとは……認めてあげよう。パスも、その肝っ玉も……!」
大人の対応で受け流したつもりだろうが、ボクは見逃さなかった。
チャンピオンの眉間のシワが、さらに深くなったことを……!
「では、次は私の手番だ」
青白い手が幽霊のように盤面に伸び、骨ばった指先が駒をつまむ。
味方の駒をひょいと飛び越え、パチン! と小気味よい音が鳴らされた。
あれは、『耳』……将棋でいう『桂馬』……!
他の駒を飛び越えて移動できるんだ……!
「し……シルバーが、また定石を無視した駒の動かし方をしたぞ……!」
「ああ……! きっと、少年に挑戦してるんだ……! これがフェイクかどうか、見破ってみろ、って……!」
「さすがに二度もフェイクはねぇだろ……!」
「わからんぞ……! そうやって、少年をゆさぶってるんだ……!」
「あの手は、完全な挑発……! 調子に乗っている少年が受けて立つことを狙ってるんだろう……!」
「ってことは、あの駒は本当に『耳』……!?」
「そうだ、そうに違いない……!」
彼らには悪いけど、ボクはその意見を一顧だにせずこう言ったんだ。
「スライ・ハンド」と……!
雨雲が戻ってくるように、周囲はふたたびざわめく。
息を飲みおえた女の子たちが何か言うより早く、ボクはさっさとニセの駒をめくった。
そこには当然のように、『息』の駒があったんだ……!
どわあああああっ!! とどしゃぶりのような歓声に包まれる。
二回連続のフェイク、それを難なく見破ったのでみんなは大興奮。
ボク再びはもみくちゃにされてしまった。
でも……ボクには、一回目ほどの感慨はなかった。
だって……これはボクにとって、心理の読み合いでも駆け引きでもなんでもなかったから。
ボクはこの勝負が始まってからずっと、『サイキック』の『クロスレイ』のスキルで駒を透視していたんだ。




