92 裸の心
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引きこもれば引きこもるほど、チヤホヤされる…チートゴーレムのお話!
『ケルパー』の世界チャンピオンが座るステージ上、そのまわりはあっという間に人だかりで埋めつくされた。
「すげぇぇぇぇっ! シルバーに挑むヤツが出てくるだなんて!」
「しかも、見たこともない子供だぞ……!?」
「ランクはわからねぇけど、格下が挑む場合は相当な掛け金を積まないとダメなはず……って、一千万¥!?」
「掛け金にしちゃ、じゅうぶんじゃねぇか! こりゃ、久々にシルバーが打つところが見られるぜ!」
「で……でもよ、見てみろよ、あの子の盤面……!」
ボクの駒が『心』しかないのを見て、観客たちは騒然となった。
「ええええええええええええええええええええええええ
えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?」
「ぜ、『全落ち』じゃねぇか……!」
「いや、全落ちなら『息』全部と『心』だろ! アレは、全落ち以上……! 『心』しかねぇんだからな!」
「は……『裸の心』ってヤツだ……! 冗談でしか存在しねぇ駒落ちだぞ……!」
「いやいやいやいや、『心』だけだなんて……! そんなの、たとえシルバーがやったとしても、誰にも勝てねぇだろ……!」
「あの子もしかして、頭おかしいんじゃねぇのか?」
「だよなぁ、世界チャンピオン相手に『裸の心』で、しかも一千万¥も賭けるだなんて……!」
そんなに無謀なことかなぁ、とボクは思っていると、対面のシルバーは細い眉をピクピク震わせていた。
「しょ、少年……。キミが『ケルパー』のド素人であることは、よくわかったよ。このような勝敗がわかりきっている勝負、この私が受けるわけには……」
すると、シルバーのすぐ後ろにいた男の人が近づいてきて、なにやら耳打ちをはじめた。
とっさに『エレファント』で聞き耳を立てると、
「……チャンピオン。受けてください。一千万¥あれば、今月の売り上げが系列店トップとなります。相手はおそらく『裸の心』でチャンピオンを揺さぶって、同じように駒落ちをさせるのが狙いでしょう。それに応じてはいけません」
ボクは「そんなことないのになぁ、受けてくれさえすればそれでいいのに」と思ったが、言わずにおく。
シルバーは「フム」を鼻を鳴らしてボクのほうに向き直ると、迎え入れるように両手を広げた。
「……よかろう、少年……! キミの夢、この私が叶えてさしあげよう……! 望み通りの手合いで一局いこうか……! もちろん、一千万¥を賭けて……!」
念押ししてくるシルバーに、ボクもやり返す。
「いいよ! でもオジサンが負けたら一千万¥じゃなくて、あの盾をちょうだい! いいよね!?」
もう一度、壁に掛けられている盾を指さした。
盾といっても防具に使えそうなヤツじゃなくて、エンブレムのような装飾品。
くすんだ青色の木板に、紋章のような細工が施されている。
正直、アレに1億¥の価値があるとは到底思えなかった。
しかしシルバーは、王様にひれふす配下のような視線で盾を見上げたあと、
「もちろんだ。さっそく、このベッドテーブルの上に置こう」
パチンと指を鳴らして、カジノのスタッフに何やら指示した。
すぐに壁に脚立がかけられ、鳥の巣から雛を取るような慎重な手つきで盾が外される。
そしてそれは、ボクが1千万¥を置いたサイドテーブルにうやうやしく置かれた。
そのまわりには、このカジノの警備員であろう屈強な男の人たちが囲む。
どうやら、相当価値があるものというのは間違いなさそうだ。
「では、はじめようか……! と、その前に、『ブラインド』だな……!」
シルバーはそう言うなり、盤面に衝立のようなものを立て、自陣が見えないようにして駒をいじりはじめる。
その間に、ボクは大人たちに埋もれるようにして見ていた仲間たちを、手招きで呼び寄せた。
ウサギ、マニー、キャルル、ルルン、アリマ……五人とも、まだ状況が理解できていないかのようにぽやあんとしている。
ボクはみんなに顔を近づけるように言って、ひそひそ声で尋ねた。
「……ねぇ、『ブラインド』って、なに?」
「ええっ!?」とマニーが素っ頓狂な声をあげたので、慌てて塞ぐ。
「……静かに! ボクは『ケルパー』をやったことないんだ。だから、いろいろ教えてほしいんだけど」
「ええええっ!?!?」と姉妹がとんでもない声を張り上げる。
とっさの水漏れのように塞ごうとしたんだけど、手が足りなかった。
「ちょ、アンノウン!? マジで!? それマジで言ってんの!?」
口が塞げなかったキャルルに向かって、ボクは「しーっ」と歯を鳴らす。
「静かにしてってば! うん。これからやるのが初めてだよ」
皆の目の色が、何かを言いたげな様子でひっきりなしに変わる。
ボクは静かにするよう念押ししてから、塞いでいる手を離した。
「正気か!? アンノウン!? あの自信のほどは何だったのだ!?」
「基本的なルールがわかれば勝てると思うから、たぶん大丈夫だよ」
ボクは心配させないつもりで言ったんだけど、ルルンはくらあっ、と立ちくらみを起こしてしまい、アリマに支えられていた。
「い、いっせんまん……が……ずっと貯めてきた、お金が……」
「ルルンさん、お気をたしかに……! ……あ、アンノウン君、いくらなんでもムチャクチャだわ……! 私も『ケルパー』指導員の資格を持っていて、聖堂で子供たちに教えているけれど、それでもLランク……! シルバーさんから15ランクも下なのですよ……!?」
ルルンに肩を貸しながら、責めるような視線を向けてくるアリマ。
でも、ボクにとってはちょうどよかった。
「アリマって『ケルパー』ができるんだ。じゃ、いろいろ教えてよ」
……皆は紙のように真っ白になっていたけど、ボクが飄々としていたのでとうとうあきらめたようだ。
アリマは簡単に、これからやるゲームのルールを教えてくれた。
『ケルパー』は、人体を模した駒を使う将棋のようなゲーム。
相手の王将にあたる『心』を詰ませれば勝ちとなる。
駒には『心』のほかに、
息(将棋の歩のようなもの)
目(右目と左目)
鼻
口
耳(右耳と左耳)
手(右手と左手)
足(右足と左足)
というものがある。
シルバーが言っていた『ブラインド』というのは、相手側の駒に『目』がなくなった場合、自軍の陣地に衝立を置いて、相手に見えないように駒を裏返し、並べ替えができるというルールらしい。
『目』がないから、相手の駒が見えなくなる……というわけだ。
ちなみに裏返った駒の動きは、本来の駒の動きに加え、『心』と同じ八方向にも移動できるようになる。
裏返った駒を『心』のように動かせば、相手にどの駒か悟られない、というわけだ。
しかも、本来にはない駒の動きもすることが可能。
ただしこの場合、相手側は駒の開示を要求することができる。
もしウソの動きを見破った場合、その駒をもらうことができるのだが、ハズレだった場合、駒をひとつ相手に差し出さないといけない。
将棋はすべての情報がオープンになっているゲームだけど、『ケルパー』には軍人将棋のような要素も含まれているというわけだ。
アリマの説明がひと区切りついたところで、ちょうどシルバーの駒の並べ替えが終わった。
全てが裏返しで、白い木目だけの駒たちが、盤の隅っこのほうに固まっている。
観客たちはどよめいた。
「……おい、シルバーさん、『裸の心』の子供相手に、本気でやるつもりだ……!」
「シルバーさん得意の布陣、『石の砦』……!」
「あの状態になったら最後、絶対不落の要塞と同じ……!」
「アレでシルバーさんは、世界チャンピオンになったんだ……!」
「すげえ、あの布陣が生で見れるなんて……!」
「シルバーさんは子供でも手を抜かないってのは、本当だったんだな……!」
どうやら、かなりすごい駒の配置らしい。
背後にいるアリマも「ああ……!」と祈るような声を漏らしている。
絶対に勝てないという絶望と、チャンピオンの伝説の布陣が見れた嬉しさで、複雑な気持ちのようだ。
「……では、始めようか……! まず、私の手番からだ……!」
そう宣言して、シルバーは自軍の駒を、大胆に前に進めた。




