91 ラッキー・ワン
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★『…マジで消すよ? 俺の愧術がチートすぎて、クラスのヤツらを一方的に縛ったり消したりします!』
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女の子を緊縛して奴隷にする、嫌なヤツを消す、お金を出す…これ全て、異世界最強の、愧術…!
★『チートゴーレムに引きこもった俺は、急に美少女たちから懐かれはじめました。キスしながら一緒に風呂やベッドに入るって聞かないんです!』
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引きこもれば引きこもるほど、チヤホヤされる…チートゴーレムのお話!
キャルルとルルンの号泣が、警報のようにボクの心を急きたてる。
そしてお金が欲しくて欲しくてたまらなくなっていた。
ブルーゲイルを倒して蹄鉄を手に入れ、大人たちから大金を持ちかけられた時はぜんぜんそんなことは思わなかったけど……今は違う。
お金が……お金がたまらなく欲しい……!
ふたりの悲しみを止めることのできる、お金が……!
ボクは今すぐにでも金稼ぎに飛び出していきたかったけど、なんとか気持ちを抑え、マニーに尋ねる。
「マニー……手っ取り早く5億¥を稼ぐ方法って、ないかな……?」
するとマニーは、皮肉たっぷりの流し目をボクに向けてきた。
「フン……そうだな。『鉄の蹄』をギルドのヤツらにふっかけていれば、1億¥にはなっていたかもしれんな。それ以外は、俺の家にドロボウにでも入ることだな」
「それはちょっと……他にはないの?」
「子供の小遣いじゃあるまいし、その額がそう簡単に稼げるわけがないだろう。……フッ、あとはそうだな、カジノにでも行ってみたらどうだ?」
ボクはマニーの視線の意味にも気づかず「カジノ?」とオウム返しにしていた。
「ああ。この街には『ラッキーワン』から『ラッキーシックス』という6つのカジノがあるんだ。ふと思い出したよ、本当はこの店を潰して『ラッキーセブン』にする予定があったということをね」
「うわああああんっ! カジノなんて、ヤダーっ!」と絶叫が割り込んでくる。
マニーは声のほうを一瞥した。
「おそらくだが、もうこの店はカジノになることはないさ。パン屋として存続するはず……キミたちがいれるかどうかはわからないがね」
火に油を注ぐように、わめき声がさらに大きくなる。
そんな意地悪なこと言わなくても……ボクは話を引き戻した。
「そのカジノに行けば、5億¥稼げるの?」
「ああ。それぞれのカジノで遊べるゲームは違うんだが、どれも世界チャンピオンが常駐している。そしてチャンピオンに勝つことができれば、世界一の証である盾がもらえるんだ。まぁ、客寄せパンダだな。その盾は国王より授かった貴重なものだから、よそのカジノに売ればひとつ1億¥にはなるだろう」
「なるほど……6つのカジノで盾をもらえば、6億¥……! じゅうぶんに借金が返せる……!」
マニーは肩を震わせ、くつくつと笑った。
「ああ、その通り……! 6人の世界チャンピオンに勝てれば、あっという間に6億¥だ……!」
そこでようやく気づいた。マニーがボクをからかっているということに。
でも……ボクはもう自分を止められなかった。
滑り込むようにして、涙が水たまりのようになっている床に伏したんだ。
「……お願い! キャルル、ルルンっ! ありったけのお金を、ボクに貸してほしいんだ……!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それから少しして、ボクは『キャルルルン』を出た。
背中のリュックにはいままで見たこともなかった額のお金が入っているので、なんだか緊張する。
当然のように、後ろからみんながついてきた。
横に並んだマニーがボクに耳打ちしてくる。
「おい、アンノウン。本気なのか? 俺は冗談で言ったんだぞ」
「うん。チャンピオンを最低5人倒せばいいんだよね?」
「……わかっているのか? 相手は『世界』チャンピオンなんだぞ? 意味はわかっているよな? その競技で何万何千というヤツらを打ち負かして、世界一になったっていうことなんだぞ?」
「うん。でもボクはチャンピオンを倒せばいいだけなんだよね? その何万何千を相手にしなくてもいいんだよね?」
「それはそうだが……って、正気か!? そんな簡単にチャンピオンに勝てるわけがないだろう! だいいち、相手にしてもらえるかどうかもわからないんだぞ!?」
「それは任せといて。ボクに考えがあるんだ」
「はぁ……もう勝手にしろ……!」
マニーは呆れはてた様子で、天を仰ぐ。
そして一連の流れのように、ある店を指さした。
「ほら、あそこが『ラッキーワン』だ」
大きな看板には、エンダー紙幣が飛び交うなか、ふたりの男がボードゲームに興じるイラストが描かれていた。
あれはたしか……この世界では有名な『ケルパー』っていうゲームだったと思う。
ボクはやったことないけど……。
そう思いながら、店の両開きの扉をくぐる。
すると、テーブルが整然と並べられた、広々とした空間があった。
室内は豪華なシャンデリアに照らされてきらびやか。
どのテーブルにも身なりのいい大人たちがいて、ワイン片手に駒をつつきあっている。
カジノっていうと、薄暗い中にガラの悪い大人たちがひしめきあい、空気が淀んでいるイメージがあったんだけど……ぜんぜん清潔だ。
「『ケルパー』は頭を使うゲームだから、客層もいいんだ」
ボクの気持ちを見透かしたように、マニーが教えてくれる。
そしてさっそくチャンピオンを探しを始めたんだけど、すぐに見つかった。
店の奥の壁は一面ランキングボードのようになっていて、中心に件の盾が下がっている。
その真下はステージのように一段高くなっていて、王座にふんぞりかえっている人がいたんだ。
民を見下ろすように対戦風景を眺めているその人のもとに、ボクは向かった。
「この高級そうな雰囲気のなか、よく躊躇なく行けるよなぁ……アンノウンってマジ何者なん?」
「でも、あの空気の読めなさはアンノウンらしいよね?」
「そうだな。食われるとも知らずに肉食動物に平然と向かっていく、間抜けな草食動物のような振る舞い……アンノウンそのものだ」
「アンノウン君って……見かけによらず無謀なのね……」
ヒソヒソ話を聞きながら、ひとりステージの階段をのぼる。
仲間たちはついてこなくて、下から見ているだけだった。
見晴らしのいい場所にあがった瞬間、店中の注目がボクに集まる。
スターを見るような視線はちょっと気になったけど、それよりもチャンピオンだ。
髪も眉もヒゲもカールしているスーツのオジサンに、ボクは話しかける。
「オジサンがここのチャンピオン?」
するとオジサンは片眉と唇の端を同時に、クッと吊り上げた。
「いかにも。私が『ケルパー』の世界チャンピオン、シルバーだ。しかし私を知らないということは、少年……キミは『ケルパー』を始めたばかりかね? しかし私は寛大なる人間だ。嫌な顔ひとつせず、応じてあげよう」
オジサンは手を差し出してくれたんだけど、ボクは意味がわからなかったので話を進める。
「ねぇオジサン、ボクとあの盾をかけて勝負してほしいんだ」
するとオジサンは所在なくさまよわせていた手を口にあて、さも笑いをこらえるかのように顔をしわくちゃにした。
「くっくっくっ、少年、サインや握手であれば私も快く応じられるが、対局ともなると話は違う。キミのクラスはいくつだい? せめてSS……いや、大目に見てSくらいになってから、出直しておいで」
ランクといわれても、ボクはよくわからなかった。
だって『ケルパー』って、やったことないもん。
「うーん、よくわかんないけど、これでどう? ボクに勝ったらこれをあげるからさ」
ボクはリュックの中から借りた札束を取り出し、オジサン……シルバーの横にあるサイドテーブルにドサドサと置いた。
「ここはカジノだから、お金を賭けないとダメなんでしょう? 全部で一千万あるから、これでボクと盾をかけて勝負してほしいんだ」
シルバーの顔から、笑みが消えていた。
これじゃあ足りないのかなと思い、ボクは彼の前にある『ケルパー』の盤面に手を伸ばす。
ボク側のほうに並べられていた駒を、ザラザラと手で払いのけた。
「じゃあさ、ボクの使う駒はこれだけでいいから。これで対局してくれない?」
適当に駒を落としたんだけど、盤面に残っていたのは『心』という駒ひとつだけだった。
ちょっと減らしすぎたかな……と思ったけど、まぁいいか。
そしてボクは仰天する。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?」
さっきまで静かにしていたカジノじゅうの大人たちが、大歓声とともにステージに殺到してきたからだ……!




