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09 超Buff料理、いただきます!

 見てるだけでどんどんお腹が空いてくるような親子丼に、ボクはもう我慢の限界だった。



「よぉし、さっそく食べよう! いただきまーす!」



 どんぶりをガッと掴みあげ、箸をザクッと突き刺して中身をすくいあげる。


 箸に乗せたミニ親子丼みたいなのを、あーんと開けた大口に運ぶ。

 そのままバクッっと喰らいついて、一気に噛みしめる。


 すると口いっぱいに広がる、ふわふわの卵のコク。

 鶏肉からは、じゅわっとした肉汁があふれ出す……!


 それが塩味とあわさり、みっつの旨さが渾然一体になると……!

 背筋がゾクゾクするくらいの、かつてないほどの味わいとなって……ボクを襲ったんだ……!!



「おっ……おいしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?!?」



 ボクはキャンプじゅうに響くほどの大声で、絶叫していた。



「おっ……おいしい! すっごくおいしいよ! さあ、ウサギも食べてみて!」



 ボクは箸を動かす手を休めず、ウサギにも勧める。

 ウサギは親子丼を宝物みたいに、胸に大事そうに抱えていた。


 どんぶりに視線を落としたまま、しばらく悩んでいたんだけど……しばらく決意をしたように頷き、箸でちょびっとだけすくって、そーっと口に運んだ。


 そんな少しじゃ、味がわかんないんじゃないかと思ったが、



「……!?!? おひっ! おひおひおひいいっ!」



 ウサギは悲鳴をあげながら悶絶をはじめた。


 のけぞり、髪を振り乱し、身体をよじらせながらスケッチブックに何か走り書きしている。

 ボクは、もしかして本当に毒が入ってたのかと心配してしまう。


 しばらくして、ばっ! と天高く掲げられるスケッチブック。

 そこに書かれていたのは、恨み節でも辞世の句でもなんでもなく、



『おいしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!!』



 紙面を埋め着くすほどの文字の嵐……それは彼女なりの、最大級の絶賛だった。


 ボクはホッとなって、思わず笑顔になる。ウサギもお弁当を付けた口を大きく開けて笑っていた。


 彼女が笑ったところを、ボクは今まで一度も見たことがなかった。

 でもこんなに素敵な笑顔ができるんだと、今日初めて知った。


 それからボクとウサギは、一心不乱になって親子丼を食べた。


 ボクはがつがつとかきこみ、ウサギはひと口ひと口、大切なもののように口に運ぶ。

 まわりからは、どめきのようなものが起こっていた。



「お……おい……! なんだよ、あの『親子丼』って……!」



「あんな料理、生まれた初めて見た……!」



「なんだか、ちょっ……超おいし……い、いや……超キモいんですけど……!」



「おい、ステータスを見てみろよ、すげぇBuff(バフ)……効果だぞ!?」



「戦闘、補助、生産が+10!? なんだよアレ!?」



「いや、もっと大事なことを忘れてるだろ! アイツら鶏肉と卵を食べてるのに、なんともねぇぞ!」



「ホントだ……!? 一体、どうして……!?」



 ただただ困惑するクラスメイト。


 食べ終えたボクらは満腹になって、ぷはーと大満足の溜息をついていた。



  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 クラスメイトたちは浮かない表情で、キャンプをあとにする。

 ボクらもお腹がこなれるまで休んだあと、出発することにした。


 親子丼の疲労回復効果のおかげで、元気まんまんだ。

 ウサギは子猫のようにスキップして、ボクの後についてくる。


 意気揚々とモンスターのいるフロアに足を踏み入れたんだけど……そこでは先行していたクラスメイトたちが、立て札を前に何やら言い争いをしていた。


 立て札には、



 楽な道(推奨レベル1)→

 ←険しい道(推奨レベル8)


 ここでは二手に分かれ、『楽な道』『険しい道』の両方にあるスイッチを押さないと先へ進めません。

 『険しい道』へ行くだけのレベルがなければ、同行者を雇いましょう。



 とある。

 隅っこのほうには営業スマイルを浮かべるオジサンたちがいて、『同行1回、100,000(エンダー)』という看板を立てていた。


 なるほど……オジサンたちはここで、同行者の商売をしているのか。

 見たところプロの冒険者っぽいから、険しい道でも楽々進めるんだろう。


 でも、彼らを雇うためには10万¥を払わないといけないらしい。

 この『太陽の塔』は、3階までが「観光階」って呼ばれてるんだけど、その理由が少しわかった気がした。


 1階を踏破したんだったら、記念に2階も踏破したくなるよね……。

 その気持につけこんだ商売というわけだ。


 クラスメイトたちはそのお金をどうやって捻出するか論議している。

 そして貴族の息子である、マニーを吊し上げていた。



「おい、マニー! おまえ貴族の息子だろっ! 10万¥くらいポンと払えよ!」



「無理を言うな! いくらなんでも10万¥なんて持っているわけがないだろう!」



「ウソつけ! たっぷり小遣いもらってんだろ!」



「マニーくん、ここはクラスのために出すべきだと思うよ」



「まったく、普段から貴族だって威張ってるクセに、こういう時はケチなんだよな」



「そうよそうよ、ケチな男って、マジサイテー」



「俺はケチではないっ!? その言葉、取り消せっ!」



 みんなから責められても、ひとり気丈に振る舞っているマニー。


 マニーはクラスの『金持ちグループ』のリーダーでもある。

 普段はいかにも育ちのよさそうなヤツらを引き連れてるんだけど、そのお坊ちゃんお嬢ちゃんたちはマニーの後ろでそしらぬフリをしていた。


 クラスメイト全員が相手ともなると、多勢に無勢。

 かばったら自分に火の粉が降りかかってくると思ってるんだろう。


 とうとうしびれを切らしたゴンが、マニーの襟首に掴みかかった。



「おい、マニー! 大人しく出せよ! でねぇとみんなの前で身ぐるみはいで、金どころかポコチンまで、何もかも出させてやんぞ!? おおん!?」



「くっ……や……やめろっ! やめろおおおおっ!」



 締め上げられ、苦しそうに声を絞り出すマニー。


 明らかななるカツアゲだけど、誰も助けようとしない。

 クラスメイトはもちろんのこと、取り巻きやまわりにいる大人たちもただ見ているだけだ。


 そんな異常事態を横目に、ボクは歩きだす。『険しい道』に向かって。



「おい……! 何やってんだよ、アンノウン!」



 それに気づいたクラスメイトが、声をかけてきた。



「ボクが『険しい道』を行くから、みんなは『楽な道』を行って」



 そう答えると、マニーに集中していた視線がボクに移る。



「ねぇ、アイツ……何言ってんの?」



「また出しゃばってるよ……空気読めねぇヤツが……」



「あんなへっぽこに、『険しい道』が行けるわけねぇじゃねぇか……!」



「でもよ、結果オーライじゃね? 『険しい道』に入ってモンスターにボコボコにされたら、救出するために両方の扉が開くらしいぜ?」



「なんだ、それならいいじゃん、アンノウンがボコボコにされりゃいいだけなんだから」



 ふと、クラスメイトたちを押しのけて、レツが出てきた。

 そして、ボクを指さす。



「……おい、アンノウン。調子乗ってんじゃねぇぞ。お前のそういうところ、前から気に入らなかったんだよ。弱ぇクセに、いきがりやがって……! 今すぐぶちのめしてやりてぇが、使い道があるみたいだから、今は手を出さないでおいてやる。でもモンスターにやられたら、救助が来る前に俺がトドメをさしてやる。二度とそんな口が聞けねぇように、そして二度と俺の前に現れねぇように、ギタギタにしてやんよ……!」



 稲妻のような青筋をたて、凄みをきかせるレツ。

 その背後にいたクラスメイトたちは、睨まれてもいないのに蛇を前にした蛙みたいになっていた。



「で……出た……! レツ君の、『ギタギタ』宣言……!」



「ヤバくない!? アレが出て、無事だったヤツっていないんでしょ!?」



「うん、アレが出たら最後……確実に病院送りにされるよ! この前やられた他校の生徒も、全員アゴを粉々にされて……おかゆしか食べられないんだって!」



「それ、モンスターにやられるよりヤベえんじゃねぇか!?」



「ああっ……レツのヤツ、マジでキレてる……! ああなるともう、手が付けられないんだ!」



 悲痛な叫びをあげるクラスメイトたち。

 ボクがモンスターにボコボコにされて、そのうえレツから病院送りにされた姿を想像しているのか……揃いも揃って痛ましい表情をしている。


 学校では、毎日のようにボクをいじめてきたレツ。

 廊下でいきなりドロップキックをくらったり、カバンを窓から捨てられたり、トイレをしてたら後ろから襟首を掴んできて、廊下に引きずり出されたこともあった。


 今まではずっと、ヤツにおびえて暮らしてきた。

 目を合わせたらなにかされると思って、まともに顔も見ることができなかった。


 でも……今は不思議と、ヤツのことが全然怖く感じない。

 たぶん、ボクには異世界のスキルがあるという思いが、自信に繋がっているんだろう。


 ボクはレツの鋭い眼光を、飄々と見つめ返した。



「……好きにしなよ。じゃ、ボクは行くから」



 それだけ言って、彼に背を向ける。


 そして、『険しい道(推奨レベル8)』と赤字で書かれた看板のある通路をくぐろうとしたんだけど……途中ではたと気づく。



「……あ、ウサギは『楽な道』に行きなよ。あとで合流しよう」



 ついてこようとしたウサギに言うと、彼女は口元を固く結びながら首をふるふると振った。



『ううん、一緒に行きたい』



 ウサギはいつも、人目を気にするようにおどおどしているのに……今はそんな様子は微塵も感じられなかった。



「でも、レベル8だよ? 今までのモンスターより、ずっとずっと強いのがいるのは間違いないんだよ?」



『でも、一緒に行きたい』



 こんなにハッキリ自分の意見を主張するウサギは初めてだ。


 もしかしてこれは、いい傾向なのかな……と思ったボクは、



「わかった。じゃ、一緒に行こっか」



 ボクはウサギを連れて、ともに『険しい道』を進むことに決めた。

■□■□パラメーター□■□■(現在の階数:2階)

挿絵(By みてみん)


□■□■スキルツリー■□■□


今回は割り振ったポイントはありません。

未使用ポイントはありません。


括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。


●料理

 見習い

  (1) LV1  … 下ごしらえ

  (1) LV2  … 焼く・炒める

  (1) LV3  … 茹でる・煮る

 コック

  (0) LV1  … 盛り付け

  (0) LV2  … 揚げる・漬ける

  (0) LV3  … 燻す・焙煎


●潜在能力

 必殺技

  (1) LV1  … 波動弾

  (0) LV2  … 烈蹴斬

  (0) LV3  … 龍昇撃


●錬金術

 風錬

  (1) LV1  … 抽出

  (0) LV2  … 風薬

  (0) LV3  … 旋風

 火錬

  (1) LV1  … 変形

  (0) LV2  … 火薬

  (0) LV3  … 噴火

 地錬

  (0) LV1  … 隆起

  (0) LV2  … 地薬

  (0) LV3  … 地震

 水錬

  (0) LV1  … 陥没

  (0) LV2  … 水薬

  (0) LV3  … 奔流


●サイキック

 ニュートラル

  (1) LV1  … テレキネシス

  (0) LV2  … クロスレイ

  (0) LV3  … テレパシー


●彩魔法

 灰

  (0) LV1  … フリントストーン

  (0) LV2  … プラシーボ

  (0) LV3  … ウイッシュ

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