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89 新たなるパン、作ります!

関連小説の紹介 ※本作の最後に、小説へのリンクがあります。


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 ボクは呪いのパンを見るや否や、売り場のほうに駆け戻る。

 床にへたりこんでいるルルンの両手をガッと握りしめた。



「……すごい! すごいよルルン! インゲン豆をパンに使うだなんて!」



 しかしルルンは、与えられたおもちゃが気に入らなかった駄々っ子のように首をブンブン振り回すばかり。



「なぐざめなんでいらねぇよぉっ! どうぜクソまずいパンだって、バカにしてんだろぉ!?」



 ボクはルルンに負けない勢いで、首をブンブンする。



「ううん! ボクは本当にスゴイと思ってるんだ! すごいアイデアだよ! そのアイデアをボクがもらってもいいかな? インゲン豆を使ったパンを、ボクも作ってみたい!」



 すると背後から、「やめときなよー」とキャルルの声がした。



「お姉ちゃんってばパン以外の料理は壊滅的に下手なんだから、無理してつきあわなくてもいいって。インゲン豆とパンなんて、どうやったって合うわけないじゃん」



 隣にいるマニーも、うんうんと頷いている。



「そうだな。いくらアンノウンに料理の心得があるとはいえ、インゲン豆とパンを組み合わせるなど、貴族と貧民を結婚させるようなもの……その先にあるのは不幸のみだ」



 時折手を伸ばして、ハンカチでルルンの顔を拭いてあげているアリマも同じ意見のようだ。



「ええ……わたくしもそう思います。インゲン豆に、ゆでて食べる以外の調理法があるとはとても思えないわ」



 みんなはそう言うけど……ボクはぜんぜんそうは思わなかった。



「ううん! そんなことはないよ! インゲン豆だって、調理の仕方を工夫すればパンに合うはずなんだ! それを試そうとしたルルンは本当にすごいと思う!」



 そう言い返すなり、ルルンが「ありがどぉ~あんのぅぅぅん~!」と抱きついてくる。

 ボクはその頭を慰めるようによしよしと撫でたあと、頬に手を当てて涙を拭ってあげた。



「見ててルルン。いまからボクが、パンとインゲン豆が合うって証明してみせるから」



 「ぞんなごと……できるのぉ?」と情けない声をあげるルルン。



「わからない。わからないけど……レシピを思いついたから、やってみたいんだ。きっとルルンもそうだったんでしょ? 思いついたレシピを頭で否定せずに、やってみた……。その勇気と行動力を、ボクはスゴイと思ったんだ。だからあとは……ボクにまかせて!」



 えぐえぐしているルルンと一緒に、ボクは再び厨房へと戻る。

 反対派の人たちが見ているなかで、さっそく調理を開始した。


 まず、白インゲンを鍋で茹でる。

 茹であがるまでに、ボクはキャルルにお使いを頼んだ。



「キャルル、ちょっと花屋さんで紅花を買ってきてくれないかな?」



「ベニバナ? ひょっとしてアンノウン、花を料理に使うつもりなの!?」



 ボクが頷くと、キャルルだけじゃなくてみんなが「ええっ!?」と驚いていた。


 アリマも信じられない様子だったが、いそいそと居住スペースの奥に引っ込んだあと、紅花の花束を持って出てきてくれた。



「アンノウン君。これをどうぞ。お店に飾ろうと思って買っておいたの」



 ボクはアリマに礼を言って、受け取った紅花を大きめのボウルの中に入れた。

 そこにさらに、たっぷりの水を加えたあと……『錬金術』の『抽出陣』を投げかける。


 蜜を吸う蜂のように、花弁に陣が吸い込まれていくと……。


 ……じわぁぁ……。


 紅色のキレイな液体がにじみ出て、水に溶けていったんだ……!


 「ええっ!? 何コレ何コレ!?」と驚くルルンに対し、キャルルが得意気に説明する。



「お姉ちゃん、コレは『草木染め』っていって、草や木の色を布に移してるんだよ」



「布? 布なんてどこにもねーじゃん」



「……アレ、ホントだ。アンノウン、布を入れ忘れてるよ?」



 不思議そうに覗き込んでくる姉妹に向かって、ボクは言った。



「ううん。これから染めるのは布じゃない……! コレだ……!」



 ビシッ! と茹だっている鍋を指さす。

 ふたりは意味がわかっていないのかキョトンとしていたけど、頭のいいマニーはすぐに気づいたようだ。



「ええっ!? まさかアンノウン、インゲン豆を染めるつもりか!?」



「そのまさかだよ。見てて……!」



 ボクは湯がいだ白インゲンを鍋から取り出すと、中身をアチアチとサヤから押し出し、ボールに移した。

 まだ湯気が立っているたくさんの豆粒を、パン生地を伸ばす棒を使って細かくなるまで潰す。


 マッシュポテト状にしたところで、紅花から抽出した赤い液体を加えて、さらに混ぜる……!


 すると、女性陣から……ボク以外はみんな女性なんだけど、歓声があがった。



「おお……! インゲン豆が、ピンク色になった……!」



「な……なんでなんでなんで? なんでピンク色になんの!?」



「これがセンショクってヤツだよお姉ちゃん! それにしても、超キレー!」



『満開の桜みたい……!』



 さっそく桜のイラストが描かれたスケッチブックを向けてくるウサギ。

 その隣にいるアリマは震えていた。



「……あ、あのあのあの……みんなどうしてそんなに落ち着いているの? し、信じられないような出来事が、次々と起こっているのに……」



 するとアリマ以外のメンバーは、ニコッと笑ってこう言ったんだ。



 「ああ、そーいや、アリマは初めてだったんだ、アンノウンが料理するとこ見るの」とルルン。


 「こんなんでいちいち驚いてちゃ、キリないと思うよ?」とキャルル。


 「そうだな。きっともっと我が目を疑うことが起こるはずだ」とマニー。


 『ゆっくり息を吸ってください、そう、ゆっくり……』とウサギ。


 すー、はー、と大きな胸を上下させて、深呼吸するアリマ。



「これが、料理だというの……? まるで、奇跡みたい……。それをしているのが、アンノウン君だなんて……本当にあの、頼りないと思っていた子なの……?」



 憧れだったお姉さんからまじまじと横顔を見つめられて、ちょっと恥ずかしかった。

 それにアリマって、ボクのことを頼りないと思ってたんだ……ちょっとショック。


 ボクは気を取り直して、パン生地の用意をする。

 ちょうどルルンが試作に使っていたやつが余っていたので、それを使うことにした。


 生地を平べったく伸ばしたあと、その上に桜色の餡を乗せ、包み込む。



「はぁぁ……ゆでたインゲン豆をつぶして、紅花の汁を加えたあと、パン生地に包むとは……彼の頭の中はいったいどうなっているんだ?」



「不思議だよねー、お姉ちゃんのあのパンから、なんでこんなんが思いつくんだろう? やっぱすげえよ、アンノウン! チョー天才!」



「アンノウン……マジ、神ってる……! アンノウンってば、マジでパンの神様……!」



「アンノウン君が、神様……!? まさか、そんな……!」



『わくわく、わくわくっ!』



 みんなの期待を胸に、いくつかのインゲン豆パンを焼き窯に入れる。


 これでよし……!

 あとは焼けるまで、待っている間に……!


 ボクはおもむろに、キャルルの側に近づく。

 すると彼女は「おつかれー! アンノウン!」と両手を広げて歓迎してくれた。


 ムギューとされながら、キャルルのローブのフードにたまっていた大量の桜の花びらをわしっとひと掴みにする。


 ブルーゲイルに明鏡止水剣を放ったときに、みんなは桜の花びらまみれになった。

 みんなで払いあって、あらかた落としはしたんだけど……キャルルのフードの中は落とし忘れていて、まだ花びらが残っていたんだ。


 せっかくだから、料理に使えないかなと思ったんだよね。


 掴んだ花びらをよく洗ったあとボウルに移し、塩をまぶす。

 そして『錬金術』の『風薬』で塩をしみこませれば……『桜の花びらの塩漬け』になった。


 ちょうどいいタイミングでパンが焼き上がったので、釜から取り出す。

 ふっくらと焼き上がった栗色のそれに、できたての桜の花びらをトッピングすれば……!


 ボクは満開の桜に覆われた丘のようなパンをトレイに乗せ、みんなの方へと振り返った。



「で……できたーっ……! できたよっ! 『桜あんぱん』……! ルルンのインゲン豆と、キャルルの桜を組みあわせてみたんだ……! ……? あれっ、みんなどうしたの?」



 『キャルルルン』の厨房にいるメンバーは……ボクを除いて春の陽気に浮かされたかのように、ぽやあんとしていた。

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