86 オーバー・キル
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引きこもれば引きこもるほど、チヤホヤされる…チートゴーレムのお話!
氷像のように固まったままのブルーゲイル。
身体のあちこちから、ドライアイスのような煙がもうもうと立ち上っている。
ボクは似たような光景を、少し前に見たばかりだった。
レイジングラビットに『明鏡止水剣』をくらわせたあと、ヤツらはこんな風に白煙を出して消えていったんだ……!
「こっ……これは……! まさか……滅殺……!?」
震える声で、マニーは言った。
その言葉は導火線のように伝わって、大人たちを激しくスパークさせる。
「う……うそだっ!? て、適当なこと言ってんじゃねぇぞっ!?」
「滅殺は、おとぎ話だけのことだろう!」
「そうだそうだ! たとえあったとしても、こんなガキにできるわけがねえっ!」
大人たちの驚愕は爆発へと変わり、マニーのほうに向けられていた。
ボクは『滅殺』……? と内心首をかしげる。
でも、この状況じゃ尋ねづらいなぁ、と思っていると、
「おいっ、マニーっ! なにそのナントカキルって!?」
グッドタイミングで、マニーの隣にいるキャルルが聞いてくれた。
マニーはなおも震える唇で、『滅殺』について説きはじめる。
この場で知らないのはキャルルだけだと思っているのか、声が小さい。
ボクの位置からだと遠くてゼンゼン聞こえなかったんだけど、聴覚を鋭敏にする『エレファント』のスキルを使うとハッキリと聞き取れた。
『滅殺』というのは、絶大なるダメージを与えてモンスターを倒した場合、普段の黒い煙ではなく、白い煙で消え去るという現象。
塔に出現するモンスターは倒されると黒い煙となって消え、天井や壁に吸収されたあと、新たなるモンスターに生まれ変わって再び塔内に出現する。
しかし、『滅殺』によって倒されたモンスターは吸収されず、そのまま存在自体が消えてしまうそうだ。
この国が作られた際、最初に王として女神に選ばれた男、『ジュラレス』が『滅殺』でモンスターを葬ることができたらしい。
「ジュラレスの子孫である二代目以降の王は、戦う必要がなくなったため定かではないが……『滅殺』できるほどの絶大なる攻撃力を受け継いでいるそうだ」
ボクはマニーの言葉を聞きながら、天に還っていくブルーゲイルの姿を見送っていた。
『1008』という数字が、連れ添うように共に昇っていく。
絶大なるダメージっていうのは……1000ダメージ以上のことなのかな……。
なんてことを考えながら視線を落とすと、ブルーゲイルがいた跡に光るものを見つけた。
近寄って拾い上げてみると、それは蹄鉄だった。
U字型の物体を指で摘んだまま、裏表にひっくり返してしげしげと眺めてみる。
そして、ボクは思った。
これ……普通の蹄鉄だ……。
すごい魔力があるのかと思って期待してたんだけど……本当にただの鉄でしかない……。
これなら、ボクの錬金術でいくらでも作れちゃうよ……。
しかし、まわりの大人たちはそうは思わなかったようだ。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
フロアじゅうが大爆発を起こしたかのような絶叫に、ボクは思わず飛び跳ねてしまった。
「アレはああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?!?」
世紀の大発見をしたかのような大人たちが、一気にボクのまわりを取り囲む。
まるで幻の珍獣になったような気分だった。
「そっそそそそそそそそそそそそ、それはそれは、それはあっ!?」
「てってててててててててててて、『鉄の蹄』……!?」
「すっすすすすすすすすすすすす、すげええっ!? はっはははは、初めて見たぁ!?」
大人たちは大興奮。
鼻血を出すほどに顔を真っ赤にし、瞬きをするのも惜しむようにボクの手にある蹄鉄を凝視している。
皆は蹄鉄に夢中かと思っていたんだけど、ボク自身にも視線が刺さった。
それは、人だかりの隙間から見えたゴンの眼光だった。
うつむき加減のゴンは、頭から湯気をたちのぼらせ、肩を震わせている。
……め、メチャクチャ怒ってる……!
きっと、手出しをしたことと、背中を踏み台にしたのが気に障ったんだ……!
大人たちだけでなく、助けたはずのゴンすらも飛びかかってきそうな雰囲気に、ボクは緊張する。
檻の中で肉食獣に囲まれた、幻の珍獣になったような気分だった。
ボクはなんだか怖くなって、目配せで仲間たちに助けを求めたんだけど、
「ううむ……『滅殺』でモンスターを倒すと、ドロップ率が急上昇するという研究結果があるが……どうやら、本当かもしれんな……」
「そういえば、昼に食べたカツ丼も効いてるんじゃね?」
『カツ丼、おいしかったねぇ、また食べたいねぇ』
みんなは輪の外で、他人事みたいに話している。
大人たちは自分を落ち着かせるように深呼吸し、何度も唾を飲み込んだあと、急に猫なで声で話しかけてきた。
「なっなぁ……あっ、アンノウン君……キミは、どのギルドにも所属してないんだよねぇ?」
「だったら……その『鉄の蹄』……オジサンに売ってくれないかなぁ?」
「そのまま納品したら報酬は1000万¥だけど、1100万で買い取ろう!」
「ああっ、抜けがけすんなよっ!? 俺は1200万出すぞ!」
「だっ……だったらこっちは1300万だ! 頼む! うちのギルドに売ってくれないか!?」
ボクのまわりでは、目を血走らせた大人たちが紛糾をはじめた。
節くれだった指と全身の毛を逆立てるように、値段がどんどん吊り上がっていく。
獣の檻は、即席のオークション会場と化す。
なっ、なんでそんなにみんな必死なの……!? と思っていたら、
「ねーねー、マニー、なんでみんなあんなに欲しがってるん? それに報酬が1000万のヤツなのに、それ以上の値段で買い取ったら赤字じゃね?」
「簡単なことさ、キャルル。納品の報酬など、ハナからどうでもいいんだ。ヤツらは名声が欲しいのさ」
「メーセー?」
「考えてごらん、長年国王が欲しがっているものを納めたら、ギルドの評判はどうなる?」
「ああっ、なーる! 納めたギルドすげえ! ってみんな思うよね! そっかぁー! でもそんなスゴイのをあっさり手に入れるだなんて、やっぱアンノウンってヤバくない!? 超絶カッコイイんですけどぉー! もぉーっ、どんだけウチをキュンキュンさせたら気がすむのぉーっ!」
身体をくねくねさせ、身悶えしているキャルル。
マニーは顎に手を当てて、品定めをするような目をボクに向けた。
ボクが聞き耳を立てているのも知らない様子で。
「……さて、アンノウンはどうするつもりかな。クエストカウンターに納品するのか、それとも高く売りつけるのか……お手並拝見といこう」
その言葉の後に、誰にも聞こえないような小声が続いたのを……ボクの『エレファント』はハッキリと捉えていた。
「アンノウン……俺はもう、そう簡単にはキュンキュンしないからな……!」
思いもよらぬ一言に、一瞬頭の中が真っ白になる。
ま……マニーは一体なにを言い出してるんだろう。
それじゃまるで今までは不覚にもキュンキュンしてたみたいじゃないか。
って……マニーってもしかして、本当にボクにキュンキュンしてたの?
マニーがキュンキュンするようなこと、ボク、してたっけ?
でも……今更気づくようじゃ、考えたところでわかるわけもないか。
それに実をいうと、キャルルがキュンキュンしてる理由も未だにわからないんだ。
まぁ、なんにしても……ボクはこのレアアイテムをどうするか、もう決めているんだ。
マニーがキュンキュンしてくれるかどうかは、わかんないけどね。
そしてボクは、蹄鉄を……こうしたんだ……!




