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84 真打ち登場

関連小説の紹介 ※本作の最後に、小説へのリンクがあります。


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引きこもれば引きこもるほど、チヤホヤされる…チートゴーレムのお話!

 【ブルーゲイル】(戦闘力:????)



「お、おい、見てみろよ、ブルーゲイルの戦闘力……!」



「なんだありゃ!? ハテナマークだらけじゃねぇか!?」



「あんな戦闘力のモンスター、初めて見たぞ!」



「くそっ、せめて戦闘力がわかりゃ、どのくらい人員が必要かわかるのに……!」



「とんでもなく強えってことしか、わからねぇじゃねぇか……!」



 幻のモンスター『ブルーゲイル』……その計り知れない戦闘力を知ったまわりの大人たちは騒然となっていた。


 ボクの隣にいるマニーやキャルルも驚いている。

 ウサギはスケッチをとるのに夢中で、それどころじゃないようだ。


 ボクも驚いていた。

 だけど、ブルーゲイルの戦闘力が不明であったことに対してじゃない。


 そんなことよりも、もっと大変なことに気づいていたんだ……!

 ボクは叫んだ。



「ゴン! みんな! 逃げて! みんなの攻撃は、ブルーゲイルにはダメージを与えていない! ぜんぜん効いてないんだっ!」



 そう、ボクが見たのは、ブルーゲイルから立ちのぼる「0」の数字たち……!

 女の子たちが力をあわせて振り下ろした一撃も、ゴンの唸るような豪腕から繰り出された一撃も、みんなダメージ「0」……!


 当たってはいるけれど、1ポイントの体力も削れていなかったんだ……!


 ボクの声に振り向いたゴンは、鬼のような形相で睨みつけてくる。



「うるせえっ! 邪魔すんじゃねぇよアンノウンっ! コレが終わったら、ただじゃおかねぇからな!!」



 その顔は、地獄から這い戻ってきたばかりのようだった。

 頭から流れ出した血が額を覆い、目にかかっているせいで普段の数倍の迫力がある。


 成人する前のボクであれば、それだけで蛇に睨まれたカエルみたいになっちゃってただろう。

 でも、今は怖くない。それどころか、ダダをこねる子供のようだと感じていた。



「ゴンっ! ブルーゲイルは全然怯んでないだろう!? ダメージを受けていない証拠だ! お願いだからボクの言うことを信じてくれっ! そのままじゃみんな全滅しちゃう!」



「お前を信じるくらいだったら、死んだほうがマシだぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!!」



 ……ズドン!

 野獣のような咆哮とともに、ゴンの渾身の一撃がブルーゲイルの眉間にヒットした。


 ゴンの武器である『石のハンマー』は特製なのか、他の人が使っているのより大きい。

 あんな岩みたいなのでブン殴られたら、顔なんてぐちゃぐちゃに潰されちゃいそうだけど……ブルーゲイルはなんともない。


 ブヒン! と軽い鼻息で石槌を振り払っていた。

 青白い馬面には、カスリ傷ひとつついていない。


 ボクだけが見える「0」という数字が虚しく浮かび上がっては、消えていく。



「く、くそっ!! だが、まだまだぁーーーっ!!」



 ゴンは一瞬ひるんだものの、再びハンマーを大上段に振りかぶった。

 その拍子に背後にいたクラスメイトに当たり、哀れその子は崩れ落ちてしまう。


 しかしゴンはそれすらも気づかない。

 目の前の強敵をなんとかするのに夢中で、まわりのことなど目に入っていないようだ。


 それじゃダメだ、ゴン……!

 リーダーは敵よりもまず、仲間のことに気を配らないといけないのに……!


 二撃目を振り下ろそうとするゴン。

 反らした胸に、見えない何かがドスドスと突き立てられた。


 アイスピックで突かれたような傷口ができ、血の跡がにじむ。

 ゴンは「ぐううっ……!」と呻きながら後ろによろめいた。



「なんなんだ、あの攻撃は……!? ゴンが衝撃で後ろにさがっているから、刺突なのはわかるが……ぜんぜん見えないぞ……! ブルーゲイルはそれらしい動きはしていないし……! いったい何なんだ…………!?」



 冷や汗を感じているようなマニー。


 ボクにも、ブルーゲイルの攻撃は見えなかった。


 しかし、見えない攻撃を目の当たりにするのはこれが初めてじゃない。

 これで、二度目……! 黒ずくめのアイツと戦ったとき以来だ……!


 アイツは棒型の手裏剣を『テレキネシス』で宙に浮かべ、目にも止まらぬ速さで放ってきた。


 あの時のボクは、マニーのように背筋が凍るくらい戦慄したけど……なぜか今は、なんとも思わない。


 二度目だから慣れてきたとか、そういう感覚とは違う。

 アイツの手裏剣と、ブルーゲイルの刺突……見えないのは同じだけど、なにかが違うような気がしていたんだ。


 でも……なぜ、そう思ったんだろう?

 なぜ、そんなことを感じたんだろう……?


 石のハンマーを杖のようにして、肩で息をするゴン。

 仲間のクラスメイトたちは騒然となった。



「ゴンく……隊長がやられたっ!?」



「そんな! 隊長がやられるだなんて!」



「隊長が勝てないヤツに、俺たちが勝てるわけないっ!」



「に、逃げましょう隊長! 全滅する前にっ!」



 絶望を言葉にするギルドメンバー。

 まわりの大人たちが「いいぞ……!」と石を握りしめる。


 しかし、隊長は弁慶のように仁王立ちになったまま動かない。

 最後の力を振り絞るようにして、声を張り上げたんだ。



「まだまだっ!! 俺は……俺様はまだやれるっ!! この『ゴンギルド』を立ち上げたときに決めたんだっ!! どんな強敵を前にしても、絶対にブッ倒れず……逆にブッ倒してやるって……!! お前らも、腹ぁくくれっ!! もう、もうどんな手でもいいっ!! どんな汚い手を使ってもかまわんっ!! コイツをブチのすんだっ……!!」



 そして、ボクは気づいた。

 クラスメイト……『ゴンギルド』のメンバーたちの顔が、同じ方向を向いていることに。


 みんなの視線が束となって、ボクの視線とぶつかる。

 これだけ人が大勢いるなかで、みんなはボクに視線を集中させていたんだ……!


 ボクに背を向けていたのは、隊長のゴンだけ。

 それ以外は全員、ボクを見つめていた。


 捨てられた子犬みたいな表情で……!


 ……ボクは、いつの間にか走り出していた。


 「待て! アンノウン!」というマニーの声を振り切って。

 「行っちゃダメぇ! アンノウン!」というキャルルの声を振り切って。


 速度を落とさず、ありったけの棒手裏剣を投げつける。


 ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスッ!


 ブルーゲイルの顔が、針玉のようになった。


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 円環が、外れた輪投げの輪のように飛んでいく。


 くっ……ダメか……!

 弾き返されたのならともかく、当たっているのにダメージが全く入らないなんて……!


 いったいどうすれば、ヤツにダメージを与えられるんだ……!?



「ヒヒヒーーーーーーーーーーーンッ!!」



 ボクの攻撃を受け、上半身を高くあげていななくブルーゲイル。


 前足をドスン! とストンプすると衝撃波のようなものが生まれ、クラスメイトたちは尻もちをつかされてしまった。


 ボクは唇を噛んだ。


 このまま悩んでいても、しょうがないっ……!

 こうなったら……『明鏡止水剣』しかないっ……!


 『明鏡止水剣』と『居合い殺法』を組み合わせれば、即死率もあがる……!

 即死させれば、ヤツの戦闘力がいくらだろうと関係ないっ……!


 しかし、ヤツのまわりにはクラスメイトがいる……!

 『明鏡止水剣』の攻撃範囲がどのくらいかわからないけど、巻き添えにするかもしれない……!


 ……だったら……!


 ボクはブルーゲイルに向けていた進路をずらし、ゴンに向かって突っ込んでいく。



「ごめんっ、ゴンっ!! ちょっと借りるよっ!!」



 そして熊のようなゴンの背中を駆け上がり、肩を踏み台にしてジャンプする。


 「うわっ!?」と前につんのめるゴン。


 ボクは自分でもビックリするくらい、高く飛んでいた。

 『龍昇撃』の時よりも、ずっとずっと高く……!


 大空で、さらなる視線を感じる。

 尻もちをついたクラスメイト、そして輪になった大人たちが、みんなボクを仰ぎ見ていたんだ……!



「と……とんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?」



 人類が生まれて初めて飛行機を見たときのような絶叫が、上昇気流のように突き上げてきた。

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