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81 明鏡止水

関連小説の紹介 ※本作の最後に、小説へのリンクがあります。


★『…マジで消すよ? 俺の愧術がチートすぎて、クラスのヤツらを一方的に縛ったり消したりします!』


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女の子を緊縛して奴隷にする、嫌なヤツを消す、お金を出す…これ全て、異世界最強の、愧術…!



★『チートゴーレムに引きこもった俺は、急に美少女たちから懐かれはじめました。キスしながら一緒に風呂やベッドに入るって聞かないんです!』


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引きこもれば引きこもるほど、チヤホヤされる…チートゴーレムのお話!

 ウサギのピンチを目撃した瞬間、すべての喧騒が耳鳴りへと変わった。


 水が勢いよく流れている洞窟の中にいるような、ゴオオオオ……としたノイズ。

 音はすべて平たく伸ばされ、溶けた飴のようになって鼓膜から脳に流れこんでくる。


 ボクも含め、風景はすべてが凍りついたようになっていた。

 いや、正確には、ものすごくゆっくりと、肉眼では捉えにくいほどにゆっくりと、動いていたんだ。


 極限まで集中力が高まった時、人は『ゾーン』という領域に突入する。

 そこではいつもより時間がゆっくりと流れ、短い時間に多くの思考を巡らせることができるんだ。


 しかし今のボクが感じている世界は、『ゾーン』の何倍ものスロー再生だった。


 これは、人間の『ゾーン』じゃない。

 (イーグル)の『ゾーン』……!


 まぁ、『ゾーン』って言葉自体、ボクが考え出した概念なんだけどね。

 人間の何倍もの動体視力を持つ鷲なら、『ゾーン』も何倍もゆっくりに見えるはず。


 ボクは『イーグル』のスキルを持っている。

 だから『ゾーン』も『イーグル』のものになったんだ……!


 世界がゆっくり見えるなんてことは、いままでにも何度かあった。

 ミノタウロスロワーのパンチが、水の中で出しているんじゃないかと思うくらいに遅く感じたことがある。


 しかし、ここまで……動きが止まって見えるほどゆっくりなのは、はじめてだ……!


 ウサギがレイジングホースに顔を蹴られそうになっているのを見た時、ボクは心臓が止まるかと思った。

 そしたら、こうなっていたんだ。


 ウサギはまだ蹴りを受けていない。

 鼻先に蹄が当たるか当たらないかくらいのところだ。


 普通であれば、もう手遅れ。

 このままでは、ウサギの顔がぐちゃぐちゃになるのは避けようがない。


 だけど、ボクならなんとかできる……!

 『リバイバー』のボクなら……!


 動きを伴うスキルは使えない。

 なぜならば、ボクの動きもゆっくりになっているから。


 しかし、脳だけはフル回転させられる。

 思考だけは絡みつく時間の枷を逃れ、ずっと未来へと行くことができるんだ……!


 ボクは『テレキネシス』を発動する。

 スキルポイントが低い時は手をかざさないと使えないんだけど、4ポイントある今では念じるだけでオーケーなんだ。


 レイジングホースの蹴りの加速度以上の力で、ウサギの後ろ襟を引っ張る。

 そしてさらにウサギの手を動かし、蹄と顔の間に、盾を割り込ませるっ……!


 そして時は、動き出す。



 ……ガァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーンッ!!



 打鐘のような音とともに、盾に強烈な後ろ蹴りが炸裂した。

 盾はひしゃげ、車に跳ねられたみたいに吹っ飛ばされるウサギ。



 ……ズダァァァァァァーーーンッ!!



 壁に叩きつけられ、そのままずるずると崩れ落ちる。


 ……ウサギ……!?


 しまった……!

 『ゾーン』が続いていれば、テレキネシスで助けられたのに……!


 でも、後悔するのはあとだ。

 まずはモンスターどもを始末しないと。


 ボクは『龍昇撃』で達した頂点から落下しながら、レイジングホースに向けて手裏剣を投げまくる。

 『龍昇撃』のあとは無防備なんだけど、これくらいのことならできるんだ。


 今できる精一杯の援護をしたあと、自分の足元に視線を落とす。

 着地点にはレイジングラビットどもが転がっていた。


 前歯を折られてショックを受けているけど、まだ戦う意志は衰えていないようだ。

 むしろ怒りに火がついたようで、目を真っ赤に燃え上がらせている。


 まだヤツらは倒れているけど、これ以上ジャレあうつもりはない。

 ヤツらが体勢を立て直す前に決着をつけて、一刻も早くウサギの安否を確認しないと……!


 だから、着地と同時のひと太刀で決めるっ……!


 ボクは腰にさげた『桜花』の柄を握りしめる。


 相手はボクと同じ戦闘力を持つモンスター……そんなヤツらを一撃で倒すためには……?


 そのためには……意識を集中……!

 そう、精神統一をするんだ……!


 己に宿る静かなる気持ちこそが、何よりも剣を研ぎ澄ます……!

 敵は敵にあらず……真の敵は、己の中にこそ存在する……!


 水鏡のように、波紋ひとつない心……!

 水鏡のように、自分だけが映る心こそが、居合いの極意……!


 石の床が不意に、水面へと変わる。

 そこには、誰もいなかった。


 レイジングラビットもレイジングホースも、マニーやキャルル、ウサギの姿までもが消えている。

 水面に映っているのは、いままさに飛び込もうとしているボクと、魂のようにゆらぐ陽炎だけ。


 ムサシは言っていた。


 真の自分と向き合った時、本当に斬るべきものが感じ取れるようになる、と。

 瞼の裏に映った感じるものに向かって、感じるままに振れ、と。


 見えぬものを、見えぬ速さで斬るために……!

 感じたものを、感じた速さで斬れっ……!



「 (メイ) ・ (キョウ) ・ () ・ (スイ) ……!」



 カッと目を見開く。



「 ()ぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーんっ!!!」



 着地とともに桜花を振り切ったボクが目にしたのは……この世のものとは思えない光景だった。


 ボクを中心に、舞い上がる桜の花びら。

 いままでのヒラヒラ散るような生易しいもんじゃない。


 桜色の嵐。

 渦巻く花びらの間欠泉が、ボクを包んでいたんだ……!


 それだけじゃない。

 キレイに分断された6匹のレイジングラビットが、悲鳴もなく白い霧となって消えていったんだ。


 夢の中にいるかのような光景の連続に、ボクは目をこする。


 おかしい、モンスターがやられる時は、黒い霧のはずなのに……。

 いまのはたしかに、白い霧だった……。


 次の瞬間、ボクの視界はピンク一色に染まっていた。

 積もった花びらを頭を振って払い除け、ぷはあっ! と顔を出す。


 いつの間にかボクは、降り注いだ桜の花びらの中に埋もれていたんだ……!


 すでにレイジングホースを倒し終えていたマニーとキャルル。

 今世紀最大のイリュージョンに立ち会ったかのように、呆然自失でボクを見ていた。



「それだけの量の花びら、一体どこから出したんだ……?」



「あっはっはっはっはっはっ! どったのアンノウン!? ちょくちょく花びら出してたけど、それ出しすぎっしょ! チョー受けるんですけど! あっはっはっはっはっ!」



 恐れすら抱いているようなマニーと、腹を抱えて爆笑しているキャルル。


 それよりもボクはふたりの向こうで倒れている存在のほうが気になって、慌てて花びらを駆け散らした。



「う……ウサギっ!!」



 うつぶせのまま動かない彼女を助け起こす。

 ゆさぶってみたけど返事がない。



「キャルル! 早く! 早く『キュア』をかけてあげて!」



「……わかった!」



 ただならぬ気配を察したのか、キャルルはぱたぱたと早足で駆け寄ってきてくれた。

 そしてボクの腕からウサギの身体を受け取ると、跪いて、ボクにすがるような視線を向ける。


 その上目遣いに、ボクはこんな時だというのにドキッとしてしまった。



「お願い、アンノウン様……! ウサギっちの傷を、治して……! ウチでできることだったら、なんでもするから……! えっちなことでも、なんでも……! だから、ウサギっちを元気にして……! お願いします、アンノウン様……!」



 いつも快活なキャルルからは想像もつかないような、しっとりした声……!

 それは耳と頭の中で、同時に聞いているかのような不思議な声だった。


 そ、そりゃ、ボクだってウサギを元気にしたいけど……!

 そんなことお願いされたって……ボクにはどうしようも……!


 なんて、我ながら情けないことを思ってたんだけど、


 ……ふわぁぁぁぁ……!


 なんと『キュア』が発動し、ウサギの身体がやわらかな光に包まれたんだ……!



「ほほう、これが白魔法というものか……! ケガを治す魔法といえば灰魔法の『プラシーボ』があるが、気休めのアレとは違って、しっかりと治癒している……! これは実に興味深いな……!」



 そばにいたマニーも興味津々になるほどの神秘の光。


 白魔法である『キュア』は、清らかな気持ちで神様に祈りを捧げることにより発動する。

 その神様の治癒能力が一時的に身体に宿り、被術者を治すことができるんだ。


 キャルルはどう見ても、神様じゃなくてボクに祈っていた。

 あんまり清らかなお祈りじゃなかったような気もするけど……それはさておき、ボクもウサギを治したいって思った瞬間、『キュア』の効果が現れた。


 そういえばボクが死にかけだったときも、キャルルはボクに祈っていたような気がする。



「う……ううん?」



「う……ウサギ!? 気がついたんだね! よかったぁ……!」



 ウサギの口からうっすらと漏れた声に、ボクはそんなことはどうでもよくなっていた。

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